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6.運命のはじまり




 ソフィアが、メーベルトを名乗るようになってから、半年の月日が流れた。

 ルイーゼは十六歳、ソフィアは十五歳になっていた。



「お嬢様、エルウィン様がいらっしゃいました」


 ノックと共に聞こえてきたメイドの声に、ルイーゼは読んでいた本から顔を上げ、慌てて本棚の奥深くへ本を隠した。


 ――心霊関係の本は全部隠しておかなくちゃ!


 痛い目をみて、一度は激しく反省したルイーゼだったが、完全に諦めたわけではない。元聖女にも正式な協力を要請し、対策は万全だ。知識を蓄えるだけならば問題ないとのお墨付きも得ている。


 ――待たせたら悪いわね。急がなくっちゃ!


 部屋を出て、小走りにエントランスへと向かう。両親がいたらお小言は免れなかっただろう。

 エントランスへと続く螺旋(らせん)階段を駆け下りていると……エルウィンと義妹ソフィアが仲睦まじくしている――()()()()()()姿があった。

 ルイーゼの記憶では、つい先ほどまでソフィアは自分と同じように部屋にいたはず……。あんなところで何をしているのか、と純粋な疑問が浮かんだが、見つめ合う二人の瞳が見えるところまで近づいて、気づいた。


 天使のように愛らしい義妹と、美しく不思議な存在感を放つ自分の婚約者は……()()()()()()()話し込んでいる。ソフィアは、この家ではめったに見せることのない笑顔を、心を許しているような無防備で愛らしい笑顔を、エルウィンに向けている。


 ソフィア・メーベルトは人間ばなれした愛らしさを持っている。

 しかも、その生まれからエルウィンとの間には同郷ともいえる関係性がある。エルウィンのソフィアに向ける視線に、自分へ向けられるそれとは比較にならないほどの熱量があるように、ルイーゼには見えた。


 そう見えたのは、ルイーゼだけではない。

 ルイーゼと共にエントランスへと降りてきたメイドも、そう思っているようで、気まずそうにルイーゼへ視線を向ける。


 ルイーゼの意識はエルウィンとソフィアに向けられていて、そんなメイドの視線には気づかない。


「失礼いたします――お嬢様をお連れいたしました」

 平時よりも緊張した声色で、メイドがそう切り出す。メイドの声に、ソフィアとエルウィンの二人は驚き距離を取った。

 だが――ルイーゼには見えた。ソフィアのエルウィンへ向ける瞳には確かに()(とも)るのが。


「ルイーゼ?」

 ソフィアの()()に動揺し、動けないでいたルイーゼにエルウィンが声をかける。今、自分に向けられているエルウィンの瞳に、先ほど以上の熱を感じることは、ルイーゼ()()できなかった。エルウィンはきちんとルイーゼを心配して、動けないでいるルイーゼを引き寄せたというのに。


 ――いいえ、いいえ! あるはずよ。だって、婚約者は私なんだもの!


 気を取り直し、ルイーゼはエルウィンを自分の(かたわ)らへ誘導し、平静を装いながらソフィアへと問いかける。

「ソフィア、私の婚約者に挨拶はすんだかしら?」

「……え? こん、やく?」

「ええ。彼は私の将来の旦那様。貴女の義兄様(おにいさま)になる方よ」


 瞬間、ソフィアの大きな瞳から涙がこぼれた。


 ――なぜ? ()()、ショックだと言うの……?!


「あ、ごめんなさい……わたし……っ」

 ルイーゼは動揺から身体が固まり動けない。


 瞳からこぼれた大粒の涙が頬を伝い床に落ちて、ソフィアはようやく自分が泣いていることに気づき、戸惑いがちに震える声で謝罪の言葉を口にする。(あわ)れを誘うその仕草に、ルイーゼはますます動揺し、次の行動にうつれなくなる。


「大丈夫かい?」

 目の前で涙を流すソフィアに、ルイーゼは何もできなかった。

 動きを見せたのは、エルウィンだ。彼は自分が持っていたハンカチを、ソフィアに渡し涙をぬぐように促した。


「す、すみません……いきなりのことで、驚いてしまって……なんでかな? すごく……かなしくて……変ですね、わたしこんな……」


 嗚咽(おえつ)混じりに、ソフィアはそう呟き続ける。

 エルウィンは優しいまなざしで彼女を見守り、泣きやむのを待っている。


 ソフィアは引き寄せられるように、触れるか触れないかの距離まで、エルウィンへと近づいていた。角度によっては、エルウィンの胸に顔を埋めているようにさえ見えてしまうような距離。


 ルイーゼは、見つめ合う二人を見て、激しく動揺した。


 周囲の空気が変わったような気がした。

 二人の存在自体が、自分達とは大きく違うような錯覚さえ覚えた。

 手を伸ばせば、触れることができる距離にいるはずなのに、声さえ届かない遠い彼方にいるような隔たりを感じた。


 生まれてこの方、こんな光景は見たことがない。理解が追いつかない。そうであるはずなのに、なぜだかルイーゼは直感的に思い出してしまった。


 『運命の恋人』、という言葉を――――。





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