表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/56

34.伯爵夫人としての顔4



「それに……貴方もですよ、エルウィン・シュティーフェル。貴方はソフィア・メーベルトの婚約者なのですよ? 婚約者を放って置いて、その姉と仲睦まじくされるのはあまりにも……非常識ではありませんか?」


 メーベルト伯夫人は、上位貴族然とした――目下を悪意をもって見下す目でエルウィンを見やる。腕を組みながら、真っ直ぐに向き合うことすらせずに。


「おかしなことを言わないで下さい、お母様! 私の婚約者はエルウィンだけです!」

 エルウィンの背に庇われていたルイーゼは、そこから出て母親に怒りをぶつけるが、対する母親は平然とした表情のままだ。一向に意に介した様子を見せない。壁に向かって怒鳴っているようで、ルイーゼはそれが腹立たしくてたまらない。


「母上、これはどういうことですか? モークリー公、あなた方は人の妹に何をしようとしていたのですか?!」

 ジェヒューが非難の意味を込めて、母親と彼女の背後にいたモークリー公を睨みつける。

「娘のためです。今は分からなくとも、いずれ分かるようになるでしょう」

 メーベルト伯夫人は冷静な口調でそう答える。モークリー公に至ってはジェヒューと夫人のやりとりを、まるで他人事のように見ているのみだ。

 モークリー公のその様子に、ルイーゼは自分の母親が彼に何を言ったのか恐ろしくなってきた。


「私のため?! これが母親のすることなの?! 今のあなたを『お母様』と呼ぶことはできないわ! お母様がなさったことは犯罪です! 人として下劣な行為です!」

 ルイーゼは怒りに震える拳を握りしめながら、母親を怒鳴りつける。ルイーゼの拳に視線を送り、ジェヒューは慌ててルイーゼと母の間に割って入りながら、母親への非難を口にする。

「母上、妹の顔を見れば何が起こったのか何が真実なのかは早々にわかりますよ。お二人とも教会に被害届を出されたいのですか?」


「なら出すといいわ。わたくしは、教会の教えに従っているまでなのですから」


 息子と娘の双方から、これほど激しい批判を受けているというのに、母は考えを改める気はないらしい。打っても響かない母親を前にジェヒューは諦めたようにため息をつき、モークリー公に視線を動かした。モークリー公はメーベルト伯夫人と異なり、緊張した面持ちでジェヒューを見ている。



「ルイーゼ、母上とモークリー公とはこっちで話を付けるから、お前はエルウィン君と客間で休んでいろ」

「どうして!」

「お前、母上に殴りかかりそうで危なっかしいんだよ……」

「そんなこと――」

「するだろ。俺が割って入ってなきゃ絶対そうしてた」

 確かに、それは否定しきれない。しかもジェヒューは断言している……。

「そうだな」エルウィンまでぼそっと同意を示している!


 今回の件についてはジェヒューも思うところがあるようだし、今より悪い状況になることはない……と、思いたい。

「ルイーゼ、ジェヒュー様に任せておけば大丈夫だ」

 慣れたやさしい手の温もりを肩に感じて、ルイーゼは母親に対して言いたいことも思うところもたくさんあったが……この手に免じて、今は退いてやってもいいと思った。

「……分かった」

 それでもすぐに母親への怒りを収めることはできず、怒りを込めた眼差しを母に送りながら応接室を後にした。エルウィンに誘導されながら。





続きを読んでやっても良いという皆様!

下の★★★★★から応援してくれると大変励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ