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21.相思相愛のカンケイ


 廊下でソフィアと怒鳴り合いを繰り広げた翌週、屋敷内が妙に騒がしいことに気づいた。というより、隣のソフィアの部屋が騒がしい。

 ドアにへばりついて、外の物音に集中すると――。


『本当ね?! お父様! わたし、エルウィン様の婚約者になったのね?』

 嬉しそうなソフィアの声がドア越しに聞こえ、ルイーゼは頭が真っ白になる。


 ――だ、だめだわ。このまま部屋で大人しくしていたら……本当に婚約が成立してしまう! あれから全然エルウィンに合わせてもらえないのも変だわ。だって、エルウィンもそれを望んでいるのだとしたら、私とはどの道、親類関係になるのだもの。シュティーフェル伯なら、挨拶くらいはさせようとするはずよ!


『そうだ、これからシュティーフェル伯に挨拶にいくから、支度をしなさい』

『はいっ!』

 父メーベルト伯ディーター・メーベルトの落ち着いた声と、はずむソフィアの声に、ルイーゼは決意する。


 ――エルウィンの口からちゃんと聞くまで、私は認めないわよ…………!!!



 今、ルイーゼの自室にいるのはルイーゼとメイドが一人。


 ルイーゼ付きになってから長いそのメイドは、ルイーゼの目つきが変わったことにすぐに気づいた。

 先日のソフィアとルイーゼとの怒鳴り合いも、遠くから聞いていた。


「あの……お嬢様? おかしなことは、考えていらっしゃいませんよね?」

「――察しが良くて助かるわ!」

 恐る恐る聞いてくるメイドに、ルイーゼはくい気味に良い笑顔で振り返った。





 ◇◆◇ ◇◆◇



 朝早く屋敷を出たソフィアとメーベルト伯は、昼前にはシュティーフェル邸へ到着した。


 迎え出たシュティーフェル伯と共に、ソフィアとメーベルト伯が屋敷内へと入ったのを見届けて、ルイーゼは身を隠していた(わら)の中から()い出した。

 (きら)びやかなドレスはかさばるので、できるだけ身軽に動けるよう、ルイーゼは馭者(ぎょしゃ)の服を着ていた。




 ――本当に心変わりしていたら、ワンパン決めてやるわ!


 使用人用の入り口からシュティーフェル邸へ侵入しようとしていたルイーゼは、地下のワインセラー内で迷子になっていた。

 ――あれ? ワインセラーと従業員入り口って、どこの屋敷もつながっているものじゃないの?! ……どこから入ろうかしら?! とりあえず外に出たほうがいいわね。ちょっと寒いわ!


 慌てて地上へ戻らなければと考えていると、誰かが降りてくる足音が聞こえてきた。

 ――誰か降りてくる!

 降りてきた人物を確認しようと物陰に隠れようとした瞬間、何かに足が当たり、コトリと小さな音を立てた!


「誰かいるの?」

 ――効いたことのない声……使用人かしら? 懐柔できないかな?

 物腰柔らかな、若い女性の声だった。ルイーゼが油断するのも無理はない。

 いざ! と思い、声の主の下へ歩み出ようとしたその時、ルイーゼは背後から伸びてきた手に口を塞がれ、背後へ引きずり込まれた!




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