13.龍神の奇跡2
毎週日曜の朝食後、メーベルト邸では決まって牧師を呼び、礼拝堂で祈りを捧げることになっていた。
今日もいつものように家族そろっての礼拝が終わり、ルイーゼも部屋へ戻ろうとしていたのだが、そんなルイーゼを牧師と修道女が呼び止めた。
礼拝堂にルイーゼと牧師、そして修道女だけが残された状況になってはじめて、ルイーゼは目の前の修道女が以前会った元・聖女だということに気づいた。
元・聖女にして現・修道女のマルグリート・ビアホフ。白い修道女に身を包む、今年で二十六になる妙齢の美女。
「久し振りね」
「お、お久しぶりです!!!」
――お父様もお母様も気づかなかったの?! いや、確かにベールしてるし顔は見えないから……まあ、分からないか。
いきなりな偉人の登場に、ルイーゼはぎょっとして後退りたくなったが、すぐにマルグリートの優しげな微笑みに、落ち着きを取り戻した。
「元気そうね。メーベルト家の人達にも、影響はないみたいで安心したわ」
マルグリートは心の底から安堵しているような顔を見せてそう言った。
「え? あの、何かあったんですか?」
マルグリートのそんな顔に、ルイーゼは意味が分からない。
「ここの近くで起こっている自然災害が問題になっているのだけれど、お父様から何か聞いていない?」
「災害?! 何も……聞いてません。本当なのですか?」
マルグリートの驚きの発言に、ルイーゼは驚き戸惑いの声を上げる。
「正確には、異質な魔力の吹きだまりができているみたいで、それに触れた生命体が暴れているようなの。よくある事なのよ、本来はね。吹きだまり状態なんて、普通はほっといても解消されるものだけど、今回は長引きそうだから、教会から状況を見てこいって派遣されたのよ」
――元・聖女様が……? そういうことって、現・聖女様がするものなのではないの?
ルイーゼにとって聖女とは、教会が定期的に発表している『聖なる魔力をもつ魔女』のような存在だった。代替わりするというからには『聖なる魔力』がなくなったのだろうと、ルイーゼは思っていた。
だから、今回、元・聖女様が教会の命令で現地に赴いているという事態に、ルイーゼは理解が追いつかない。
彼女の説明に浮かんだ疑念が、そのままルイーゼの顔に出てしまった。
そんなルイーゼに、マルグリートは苦笑交じりに答える。
「このメーベルト邸からほど近い森に、危険な魔物が『巣』を作っているみたいなの。だからその駆除が、今回の私達の仕事ってワケ」
マルグリートが言う森とは、メーベルト邸から馬車で半日ほど行った場所にある。
――お父様は知っているはずよね?! どうしてそういう情報を、こっちに下ろさないのよ! いくらエルウィンの家とは正反対の方角にあるとは言っても、全く安全というわけではないんだから!! 魔獣の移動範囲は、人間や馬なんかとは比べものにもならないのよ?!
元・聖女は、ルイーゼに自分達が『巣』を駆除するから、心配はいらないと言った。その言葉にルイーゼは安堵を覚えた。
しかし、マルグリートの表情はルイーゼとは逆に、どこか憂いを帯びていた。
落ち着きを取り戻したルイーゼはそれに気づいたのだが――。
「ねえ、貴女の妹君……『番い持ち』なのではない?」
マルグリートの口から放たれた質問に、ルイーゼは返答することができなかった。
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