10.入れない運命3
「あれが……精霊なのですか?!」
二人の姿を探すため中庭へと続く回廊へ足を踏み入れると同時に、ソフィアの声がルイーゼの耳朶に触れた。
――精霊……?!
庭園にいるソフィアとエルウィンの姿は、すぐに見つけることができた。飛び込んできた単語に、思わずルイーゼはブロックの陰に隠れて……自分が激しく情けなくなりながらも、二人の会話に耳を澄ませる。
『赤の庭園』というのは、メーベルト邸に三つある庭園のうちの一つだ。コの字型の本邸の中に一つ、本邸左側に一つ、右側に一つ。『赤の庭園』は右側の赤いブロックに囲まれた庭園だ。
そのブロック塀に身を隠し、ルイーゼは二人の会話に耳をそばだてていた。その姿を見とがめてメイドが青い顔をしているが、今は二人の会話の盗み聞きを優先したいところ。
「わたし、精霊というものを初めて見ました!」
ソフィアの頬は、興奮からいつも以上に紅潮し、瞳は潤んでいた。やっぱりソフィアの距離は近い。
――今すぐソフィアをエルウィンから引き離したいところだけど……あの子の口から『精霊』が出てきたのが気になるわ。ここに私がいることに気づかれると、エルウィンは話をやめてしまうかもしれないし……。
ルイーゼは過去、エルウィンを苦しめる精霊について調べている内に、危険な呪詛に取り込まれかけたことがある。
エルウィンがそのことについて自責の念を抱いていることを、ルイーゼは知っている。もう二度とそんな目に遭わせないように、一切精霊関係の話をしなくなったことも分かっている。
けれどだからといって、義妹に付け入る隙をみすみす与えるのは嫌だ。自分では埋めることのできない傷や孤独を、あの子が埋められるなら……自分は、彼の婚約者でいてはいけないのではないかと、そう……思えて仕方がないから。
「頼む、その話はしないでくれないかな。私は、ルイーゼにその話を聞かせたくないんだ」
エルウィンは貴族令息として教えられた、他人へ向ける礼儀正しい口調でソフィアへと向き合う。しかしそんなエルウィンは、ソフィアの目には夢にまで見た理想の王子様そのものに映っていた。
「……お姉様はここにはいません。お姉様は精霊たちに……嫌われているようですから」
「そんなことは――」
「――分かりました!」
ソフィアはエルウィンの否定の言葉を聞く前に、天真爛漫な元気な笑顔を彼に向け続ける。
「エルウィン様が嫌だと言うのなら、もう言いません。でも、お姉様に言えない色々なこと、わたしには言ってもいいんですからね? 何でも言ってください! お姉さまにはできなくても、わたしならエルウィン様を助けることも支えることもしてみせますから!」
両の手に拳を握りしめ、一生懸命覚悟しました! とアピールを続ける彼女に、エルウィンは一瞬、辟易した様子を見せたが、すぐにいつものポーカーフェイスを貼り付けて応じた。
「私のことはお気になさいませんよう」
話は終わったと応接室へ行こうと提案するエルウィンに、ソフィアは本当に庭園を案内する! と言い出す。それに対して異をとなえようとしたが、エルウィンは妙な圧力を感じ反応が遅れた。
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