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黄昏の日シリーズ

今日の友は、不機嫌だった

作者: 譚月遊生季

クロード・ブラン著『陽岬での日々』より

「くだらないね」


 女は原稿を投げ捨て、言い捨てた。

 マスクの奥から流れるように紡がれるフランス語は、いつものことながら、演劇のように大袈裟だ。


「おいおい、随分と辛辣な物言いじゃねぇか、サワ」

「キミがくだらないものを書くからだよ。吾輩の貴重な寿命から15分も奪い去っておきながら、これはあまりにも頂けない」


 批評する際の彼女の物言いは、いつもの大仰な口調をさらに大仰にしたような、尊大なものだ。

 本人いわく、「その方が『らしい』だろう?」とのことだが……。


「じゃあ、何がくだらなかった?」

「アイデア、構成、文章……すべてにおいて下らなかった」

「全否定か……こりゃまた手厳しいな」

「だいたい、キミはエッセイストなんだ。ちょっと毒のあるエッセイを偉そうに書き連ねるのがキミの味だ。わざわざありもしない想像力を駆使して小説を書くよりは、いつも通りニヒルに小洒落たことを書いた方が時間の節約だ。そうは思わなかったのかい?」

「たまには、普段やらねぇことをやってみたくなるモンさ。人間だってそうだろ?」

「ほら、またそうやって吸血鬼ぶる! ボクだったらもっと『らしい』設定で『らしく』振る舞うね!!」


 不機嫌な様子で、女はギャンギャンと喚きたてる。よっぽど、私の小説が気に食わなかったらしい。

 投げ捨てられた原稿を拾い上げる。内容はロマンスだ。死んだ恋人を思い続ける女が、ヴェネツィアの祭りで少年と出会い、それが恋人の生まれ変わりだと知る話。


「まず、舞台がどことなく響きも雰囲気も洒落たヴェネツィアで、恋人が死んでいて、と思ったら生まれ変わっていて、再会。陳腐すぎる。なんの捻りもない」

「王道ってことで、ひとつどうだい?」

「それなら構成か表現かを捻りたまえ!! これじゃ誰かが書いたのの書き写しと変わらない」

「んじゃあ初めてなんだから、練習ってことで」

「だからさっき言っただろう! キミはエッセイストの方が向いている! 今すぐ新作を書くんだ! 寄越せ! 読ませろ!」


 がなりたてる声に苦笑しつつ、手帳に記した。


「今日の友は、不機嫌だった」……と。

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