模索
1:2 模索
「ここは、異世界だ。」
彼はその言葉を口にした後、辺りを見渡す。
確かに、そこは彼が住んでいた地域の風貌とはかなり風景が違っており、建物や人も少し違うように見えた。
異世界によくある妖精や獣人、日本人にはいないような大柄な人もいた。
自分の体を触り感覚がある事を実感し、再度認識した。
「やっぱり異世界だ!漫画やアニメ、小説にもある『突然異世界来ちゃいました』的なやつだ!
まさか自分がその体験出来るなんて思っても見なかったぜ!まずはこの世界を知るために色々周辺を回ってみるってのが鉄則だよな!これ!」
なんとお気楽な男である。
自分が置かれている状況もよく分かっておらず、夢の延長線であるのかも確認もせず、寝る前に見た異世界アニメの感覚に囚われているとかも考えては居なかった。
放って置いたらすぐに痛い目を見るタイプである。
そんな彼をさて置いて、話を進めよう。
歩き回っていてあることに気づく。
そこら中にいる人間ではない種族の言葉が自分にも理解出来るということだ。
種族が違えば言葉も変わってくるであろう。しかし、聞こえてくる言葉は彼の馴染みの深い日本語である。
「異世界に来たら言葉の違いもあると思ったけど、案外そんなこともないんだな。」
他にも見つかる。
言葉同様に文字も日本語である。
彼が見てきたアニメでは異世界の文字が分からず、勉強をするというのが頭の中にあった。だが、幼い頃から読み書きも嫌になるくらいやってきた日本語そのものである。
「いやいや、これはさすがにおかしいよな…?言葉はさすがに分からないと探索に対するアドバンテージが取れないけど、文字まで日本語ってなるとヌルゲー感増すんだけどな…汗」
他にも探索を始める。
次は知らないものが目に入ってきた。
皆、何か手にテレビのリモコンより少し小さくてスマホに形は近いが画面の無いものを持っていた。
彼は気になり、近くにいたエルフの様な姿をした自分より少し年下のような女性に話しかけた。
「すいません、それってなんですか?」
エルフの女性は少し笑いながら話した。
『お兄さん、VTも知らないの?ウケるんですけどww』
「ごめんね。良かったらどういう物か教えてくれない?」
『いいよ〜。なんか面白そうだし。VTってヴィジョン・タブレットの略で、これで色々できるんだよ〜。例えばこれで場所調べたり、時間とか買い物の時とかにお金払ってくれたり。頭で思ったことをヴィジョンが勝手に映し出したりやったりしてくれるから、持ってて損は無いよ〜。』
「へぇ〜!そうなんだ!さらにハイテク化したスマホみたいだな。」
『何それ?よく分かんないんだけどぉ?まぁいいや、お兄さんに良かったら何か買ってあげるよ?その様子だったらお金も持ってなさそうだし、飲み物ぐらいなら。』
「ホントに?歩いてて喉乾いたんだよねぇ〜。ありがとう!」
『いいっていいって。今のでポイントも溜まったし、これぐらいならマイナスにはならないから。好きなの選んで。』
だが、その言葉の後に彼はまた見覚えのあるものが目に飛び込んでくる。
自販機だった。
異世界では無いであろう自販機がこの世界に存在するのである。
しかも、よく見かける飲料メーカーの名前とドリンクもある。これは一体どういうことなんだ?
彼の頭の中は謎が増え、次第に汗をかき始める。
『ねぇってば?』
「…っ!?」
『聞いても答えないから、勝手に買っちゃったよ?ほら、受け取って?』
「…あぁ…。ありがとう…。」
彼はそのエルフからお茶を受け取り、別れを告げる。
確実におかしい。
貰ったお茶を飲みながら、少し歩き、先程のことの整理が着かないまま壁にもたれ、足を休める。
(一体全体どーゆー事だ!?ここは異世界じゃないのか?)
異世界に来たのに自分が知っているものだらけで、変な思考が回ってしまう。先程まで考えもしていなかった夢の延長線で、よくある考えた物がスっと目の前に現れる夢特有の現象…
混乱で取り乱し頭を抱え、一度吹っ切れて大きくため息をつき、何も考えずに前を見つめた…
またしても、彼のよく知る物が目に入ってきた…
それは、異世界に来る前に毎日見ていたであろう、楽器をモチーフにしている大きなタワーだった。
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