転々
物語の結末から言うと、俺は帰って来れてない。
ずっとこのまま…
消えてなくなるまでずっとこの時間、この世界に居るのか考えるのも面倒くさくなってきた。
どうせなら、最後に一度くらい…
1:1 転々
紅く色付いた葉は落ち、手を冷やす風が吹く頃
薄暗い自宅の帰り道を男が歩いている。
彼の名前は久貝 漣
バイトをして家に帰り、起きてはまたバイトに行く。
その毎日を繰り返している、どこにでも居るフリーターである。
彼は街の中心部にある楽器をモチーフにしている大きなタワーが見えるところにあるアパートに暮らしている。
そんな彼の自宅での楽しみが、スナック菓子を食べながらお勧めされたアニメを見ながらダラダラする事だ。
「やっぱ、異世界系はハズレないな。」
そう呟き、アニメを見終えた彼は歯を磨き床に就く。
その日はいつもより眠りにつくのが早かった。
彼は夢を見た。
夢の中というものは、何とも現実味の無い話でいい所まで行かず、それでもって起きたらうろ覚えである。
しかし、その夢は違かった。
自分で地に足をついて立っている、物を触る感覚もある。気温、風、光、音、全てがリアルだった。
街を歩く人混みの中に立ち尽くす彼。
しかし、そこにいる人達は少し透けており、そこでやっと夢だと理解する。
その人混みの先に、周りの人とは違い身体が透けていない女性を発見する。
何かを知っている。
咄嗟に勘づいた彼は、人混みを避けながらその女性の方に向かう。
「待って!待ってくれ!」
彼女に叫ぶ言葉とは裏腹に人の波に押されていく。
強引に前に進み、彼女の方へ向かう。
しかし、女性はそこには居なかった。
辺りを見渡し、彼女を探す。
振り返るとさっき彼が居た所にその女性がいる。
遊んでいるかの様に思えた彼は必死になってその女性を追いかけた。
追いついたと思ったら更に向こうへ、
見失い辺りを見渡していると隣を通り、
息を切らし休んでいると肩を叩かれたり、
捕まえることの出来ない鬼ごっこをしているようだった。
最後の力を振り絞り、遠くにいる彼女の後ろ姿の肩を捕まえた。
「ハァ…ハァ…。これで…ゲームクリアだ…」
女性を捕まえることでこの夢が終わると思っていた彼は勝ち誇った顔で彼女に放った。
彼女は振り返り、彼に告げる。
「向こうでも…私を捕まえてね…」
「…え?」
その言葉の後、勢いよく背中から何かに吸い込まれるように彼女から引き剥がされ、何かに包まれたかのように辺りが真っ黒になった。
あの言葉はいったい何だったのか…
何を伝えたかったのか…
まぁ、いいや…
どうせ夢なんだから。そのうち忘れるだろ?
落ちていく意識の中で、ゆっくりと目を閉じた。
再び目を開けると、知らない場所だった。
「何だよ、また夢かよ。」
さっき見た夢の事もあり、夢がループしている事に若干苛立ちを隠せていなかった。
しかし、その考えはすぐに消えた。
身体が痛い!
切り傷のようなピリピリ感、打撲のような痛みもする。
どうなっているんだ!?
なぜこうなった!?
ここは一体どこなんだ!??
病院のベットの上だった。
感覚的にそのことに気づき、扉が開く。
『やっと起きたかぃ。良かったよぉ。』
白衣を着た若い医師がその扉から入っていた。
「なんで俺はここにいるんですか?」
『何でってぇ?運ばれてきたんだよ。公園で寝ていた君が金銭目的の若い衆に集団でやられてたんだよ。それを見た人が通報して、ここに流れてきたって感じだねぇ。』
家で寝たはずなのに公園で寝てた!?
そんな馬鹿なはずがあるかよっ!!
しかし、ここに居るってことはこの医師が言ってる事がホントなのかもしれない。
ここは正直に話を聞いて、話を進めよう。
「あの〜?怪我の方は全治どれくらいなんですか?」
『今日で退院だよ?それほど大した怪我じゃないよ?』
「え?いやいや!?この怪我見てくださいよ!こんな怪我しているのに今日で退院っておかしいでしょ!る」
すると彼は腕を見せた。
この腕は打撲でそこら中青くなり、腕は腫れ、切り傷も多く、まともに物も持てるほどではない有様でした。
『んん?大丈夫だよ。この塗り薬で治るよぉ?』
「治るわけないでしょ!?どう考えても無り…」
『ええぃ!!!』
医師は言葉も最後まで聞かず、大怪我した腕に塗り薬を塗りたくりました。
「絶対無理だってぇぇぇ!え…?」
すると、塗り薬を塗った途端に腕は切り傷も消え、腕の晴れも引き、健康的な肌の色に戻りました。
『ウチが考えた新薬でねぇ。骨さえ逝ってなければすぐに治るんだよぅ。5分もすれば指を動かせれるようになるよ。』
医師の言葉通り、すぐに退院し、病院をあとにした。
(たしかに直ぐに治った、けど、どうやっても今の医学ではあのような即効性は難しいだろう。新薬だったとしてもアレだと即表彰モノだ。あれが当たり前だとすれば完全に設定がおかしすぎる)
彼は少し考え、ある言葉を口にする。
「ここは、異世界だ。」
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