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勇者か魔王か選ぶ権利は君にある  作者: いんなみさんとこの奥さん
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008:迷宮ってどんなとこ

その日、夕飯を食べていけと言うマクシムの誘いーー最も、レオンの家でと言う意味であったが、それを断り迷宮姉妹とロイの家に戻った。

夕飯までに帰る、そう言って出て来たのだから当然だ。

ロイは夕飯を用意して待ってくれていて、戸を開ける前からビーフシチューのいい香りがした。


「おう、無事帰ったか……?」


ロイはただいま、と言う洋介の声にいつも通り和かに迎えた後、首を傾げた。


「お前、どこでそんな可愛らしい双子拾った?」


「可愛らしいのかどうかは同意しかねるけど、どうも彼女たち迷宮の恋人みたいなんだ」


目をまん丸に見開いてロイはますます首を傾けてしまった。

まぁとりあえず夕食に、と洋介が促せば、彼もまぁそうだな、とうなずいてくれた。


夕食はいつもの果実酒、それからビーフシチュー、もといハイランドコーンシチューにロイお手製のパン、とれたての葉物野菜サラダ。

相変わらずの美味しさで、昼食に食べた食堂よりうまい。

事のあらましを説明すれば、ロイはなるほどな、と案外すんなり受け入れた。


「迷宮ってもんは、人間に攻略できるもんじゃないんだな、やっぱりよ。迷宮は人よりも長く生き、その場所場所で根付いてんだ。超自然的で、山や川とおんなじだ」


「ロイ様って素敵な事を仰いますわァ〜」

「さすがです、この様な人里はなれた場所に住まわれているだけあって卓越したお考えです」


「はは、言うならお前らよりかは歳食ってんだかんな。いくら迷宮が山くらい長生きでも、生まれたばっかの山もあらぁ」


「俺も色々教えてもらった。やっぱり一人じゃ戦えないから、彼女達と、あとレオンさんとマクシムさんにしばらくは手伝ってもらおうかと」


「お前の言ってるレオンて奴は、トラン王国じゃ有名な商家の次男坊だ。家業継いだのが長男だけで、表にも出てこん、冒険者だってので放蕩息子って言われてるらしいが、それでもまぁ滅多なことでお前に不利益になる様なことはしないだろ。商売人は信用と評判が大事だからな、特にあれだけ大きな家だと。いい助っ人捕まえたな」


「うん、多分二人ともいい人そう。生意気な俺に親切にしてくれたし」


「だが、あんまり信じすぎるなよ。冒険者ってもんは、孤児でも、犯罪者でも、貴族でも、誰でもなる。どんな連中が集まるかわかるだろ?運営側もマトモとは限らねえからな?」


お前の生意気さは折り紙付きだ、とロイは付け加える。からかい半分呆れ半分、というような笑顔で。


「わかってるよ。あ、これ、初報酬でロイにお土産買ったよ」


洋介が剪定鋏と高枝切り鋏、タイヤがついた農作業用椅子をあげたらめちゃくちゃ喜んでくれた。

よかった、と洋介は胸を撫で下ろす。

ロイへの恩は返しても返しきれない。彼と出会えていなければ、レオン達との出会いもないだろう。


ロイと洋介は2人揃うとかなりお喋りだ。

特に酒を3杯以上飲み始める日はそれが顕著で、今日も初依頼をこなした濃い1日に、彼らの話も盛り上がっていた。

そんな場面に意外と口数の少ないウグイスたちは、会話を邪魔しない、しかし盛り上げるようなタイミングでどちらかが話してくる。

洋介はそれを密かに迷宮キャバクラと命名することにする。




そしてその日の夜、洋介にとって衝撃の事実が発覚した。


「我らは睡眠を必要としませぬ」


「え???」


ロイは風呂も入らず自室にいき、こっちまで聞こえるくらいガーガーいびきをかいている。

洋介は風呂と晩酌の後片付けを終えて、ひとまず寝具が無い今、ウグイスとアカネにベッドを譲り、自分はリビングのソファーで寝る予定だった。


「妾たち、人間のように寝たりしませんのォ」


「食事さえとれれば、睡眠はいりませぬ」


「いやいや、魔物でも眠るのに君ら迷宮は寝ないの?」


洋介はシーツを交換しかけて手を止める。

ニコニコしたアカネと、凛とうなずくウグイスの顔をみるに、どうやら本当に睡眠を必要としないようだ。


「山や川が眠りますか?」


じいっとこちらをみるウグイス。

確かにそうだ。

しかし食事はするのだな。

まあもっとも、山が起きてるとか寝てるとかそんな状態なんてないでしょって意味なのだろう。


仕方がないので洋介はベッドに入った。

迷宮姉妹は横にもならなくていいというが、薄情な気がして少し気持ちが濁ったが洋介はおやすみ、と目を閉じた。

自分は寝なくては活動できない。


迷宮姉妹はおやすみなさいませ、と頭を下げて部屋を出ていく。

ここにいても暇だろうから、リビングで好きにしていてくれとお願いしたのだ。


いろんな意味で心配はあったが、とりあえず己を休める。それを優先することにした。

体が疲れている事は、自分が1番わかっている。


ベッドの中で洋介が何かを考える前に、心地よい暖かさは彼を包み、そのまま何色でもない中に落としたのだった。











気付けば洋介はずいぶんと長く歩いていた。

いつからなのか、どこなのか、わからない。

気付けば歩かされていた。

道もないが穴もない、そんな道を。


ありがちだ。夢の中でイベントか。


洋介はぼんやりそんな事を考える。

足はまだまだ勝手に進む。

後ろも前も何もないが、歩いているし、歩かされいる。そして歩かねばならなくて、立ち止まっても良いのだ。

教えられてはいないが、そう思っていて、ここが夢の中であるのも感じとれた。

生まれて初めて明晰夢をみている。

そんなことありはしないと思っていたが、案外あるものだな。

不思議は今に始まったことではない。


物語的には、ここで重要な人物に会うはずだ


洋介はそう考えていた。

だが待てど暮らせどそんな人は現れず、相変わらず彼は歩いていた。


そう言えば、と思い返す。

この歩く、歩かされる、なんて感覚は、ゲートをくぐった時によく似ている。

その時は意識しなかったが、今思えばこの感覚はよく似ていた。

立ち止まれそうで、でも歩くのをやめたくない。


「なんだ、やっぱ俺の夢か」


その時洋介は、生まれてから初めて声を出したような、もしくは数十年ぶりのような、そんな気持ちに襲われた。


渦巻いた自分の先程の考えは、全て自分の心の中であった。

だがそんな風には思わない、不思議な解離がある。


今この夢の中なら、自分の思い通りになる。

なんでもできる。

洋介は確信した。

いつ覚めるとしらぬ夢なら、少し遊ぼう。


まず道を作ってみた。

広い道にした。

足元には、アスファルトが敷かれ、ずっと続いた。


その先に街を作った。

自分の街。

魔王城も建てた。

これぞ!というおどろおどろしい外観の城で、とてもとても大きくした。

ロイの家の近辺を城の裏にした。

ハイランドコーンが見えたが、ロイは見当たらない。

水路をたくさん引いた町にした。

下水もある。


街灯もたくさん。


洋介はいつの間にか宙を歩いていた。


上から己が街を見下ろし、綺麗だとため息をつく。

建築物は昼間みたレオン姉の作品のようになっていた。

思いつくものがそれしかなかったのだ。

個性的な建物たち、だがそれぞれが意外と調和しているのだから悪くはない。


「先輩!なにしてんスか!落ちますよ!」


急に聞き慣れた声がする。

敬語のようで実は馴れ馴れしい後輩の声。


「え?友康?」


名前を呼んだ瞬間、洋介は天を仰ぎそこには後輩の顔があった。

けれど洋介の体は重力に従うように下へ落ちていく。

スカイダイビングの経験はないが、落ちる自分が妙にリアルだった。

友康の顔はどんどん見えなくなって、いつの間にか目が覚めていた。




部屋には朝日が差し込んでいて、ロイが食事の用意をしてくれたのかとても良い匂いがする。


後輩がくれたスポーツドリンクを見たから、おかしな夢を見たのだろうか。

面白いやつではあったが、友康に対して特になにか感情があるわけではない。

よくしてやりたいとか、可愛がっていたとか、そういうものでもなくて、単なるサークルの後輩だ。


自分の記憶の引き出しに対してスポーツドリンクが引き金になったのだとしても、府に落ちない夢だった。

父や母が出てくるならまだしも。


着替えを済ませリビングに出れば、食事を作っていたのは迷宮姉妹だった。


「おはようございます主様ァ」


「食事の用意ができておりまする」


目を丸く、とはこういうことか。と洋介は思う。

彼女たちにこんなスキルがあったとは。


「ゆっくりおやすみのようでしたので、ロイ様が出かけられる時にも声をおかけしませんでした。頑張ってこいよ、と仰っておりました」


「おお、もうロイが畑に行く時間だったのか。朝ごはん済ませたら俺らもギルドへ行こう」


マクシムとレオンを待たせたら申し訳ない、と洋介は食卓につき、手を合わせた。


しかし手の込んだ朝食だ。

ロイの飼っている鶏みたいなのの肉がこんがり直火で焼かれているのだが、しっかり味が染み込んでいる。

野菜を煮込んだスープはトロットロで、ほかほか炊きたてご飯。

いくつか揚げ浸しのようなものや、温野菜サラダ的なものがあった。


「もしかして、夜に仕込んだの?」


「そうですわァ。やる事もありませんしィ主様喜んでくださると思いましたのォ〜」


「ロイ様のお手伝いにもなりますし、これから朝食は我らにお任せください」


「そっか、美味しいよありがとう。朝からこんな手の込んだものばかり食べられるなんて」


洋介が笑うと、迷宮姉妹も嬉しそうに笑っていた。

彼女たちのことには、なにしろ突然でびっくりしていたけど、ロイの事もちゃんと考えてくれていい子たちなのはよくわかっていた。

マクシムに冷たいのは、洋介の胸ぐらを掴んだからだろうし、レオンにはキチンとした態度を取るのだ。

迷宮姉妹の態度にマクシムもとりたてて不満そうな感じはないから、このままで問題なさそうだ。


食事を完食する頃には夢に疲れていた洋介もすっかり元気が湧いていた。


外を見渡してみたが、ロイはいなかった。

山へ入ったのだろう。

夕飯までに帰る、とメモを置いて迷宮姉妹とギルドへと赴いた。




「おせぇーよ!!」


移動魔法のためのスペースに降り立つと、マクシムとレオンが円形の部屋の隅に壁に沿ってぐるりと作り付けられたベンチに座っていた。

なるほどここで仲間との合流を待てるらしい。


「洋介おはよう。アカネとウグイスもおはよう」


レオンは今日も爽やかに微笑む。

今日のローブは若草色だった。


「お待たせしました」


洋介はぺこりと頭を下げて、おはようございますと付け足した。


「一足先に依頼をチェックしたんですが、新しい迷宮の依頼が出ていましたよ」


レオンが電光掲示板を指さした。


「早速行こうぜ。普通なら王国から行くにはちと骨がおれんだけど、ヨースケがいるなら余裕だろ」


「と、いうと…」


洋介が電光掲示板に目をやる。

ウグイスたちがもうその依頼を確認していた。


「どうやら山脈を越えた向こうの国、ローレイ公国のそのまた更に端の端にあるようです。正確にはは公国の土地ではないようですが。距離的に移動魔法で行くとなるとかなり消耗するのでヨースケの魔法が頼みの綱ですね」


「…全員連れてってなると、長距離移動はしたことないんで、適当なところ経由してもいいですか?」


「もちろんです」


「俺らもおっことされちゃ、かなわねぇからな」


そうこう話しているうちに、アカネとウグイスが勝手に依頼を受けたので、洋介たちはそのまま受付に赴きスカーフを出した。

もちろんアカネとウグイスも。


「ちょっと、あんたら正式にパーティー組んだの?しかもゲートくんと!!今日は槍が降るわ」


受付嬢リエッタは、今日も切れ長の目を滑らせて冷たい視線でこちらを一瞥した。

洋介としては、女王様とお呼びしたい。

そして自分がゲート君と呼ばれているのは衝撃だった。こちらでは向こうから来る者のスタンダードなあだ名なんだろうか。


「なんでだよ。俺らだって迷宮行きたい時もあんだよ」


「あっそう、迷宮の恋人殺しマクシムが居れば安泰ね」


ふんっとリエッタは鼻を鳴らし皮肉ってそういうので、マクシムはそれに突っかかろうとした。

が、何か言う前にぐいぐいとレオンに押しやられた。


「リエッタ、心配してくれているみたいで嬉しいです。僕らも過去を乗り越えて羽ばたこうとしているので見守ってください」


「別に心配なんかしてないわよ。ハイ、スカーフお返しします。いってらっしゃい」


リエッタはぶっきらぼうにカウンターにスカーフを戻し、書類に押印。バサバサっと雑に後ろの棚へと追いやったのだった。


行動は照れ隠しに見えたが、付き合いの浅い者には機微な感情は読めないくらいにはポーカーフェイスだった。


その後レオンの提案で、ローレイ公国のギルドを経由して迷宮へ飛んだ。

ギルド間の移動魔法は座標の調節がいらないらしい。

洋介のやり方では関係のないことかと思ったがそうでもなくて、移動魔法スペースから発動すれば、イメージすら必要なくローレイ公国側の移動魔法用スペースに出られた。

一瞬しか降りたたなかったローレイ公国のギルドは、やはりトラン王国とは趣が異なっていた。


まじまじとはみていないが、絨毯敷きの床や壁に装飾がある様子をみるにホテルのような内装。

ギルドだけなのか他の建物もそういうものなのかはわからないが、高級感のある装いだった。


ステータスを確認して、MPの減りをみてみたが、経由する必要もなさそうで洋介は胸を撫で下ろした。

帰りは直接帰ろう。


「しかしヨースケの魔力は底知れねぇな。使いこなせるかは別として」


マクシムはローレイ公国隅っこの隅っこ、ギリギリ国外というところに降りたち、そう言った。

気候的には、少し肌寒く感じる。


「今回、いいタイミングで依頼のある迷宮があってよかったです。どうやらこの近くに街があるらしく、そこから依頼が出たみたいですよ」


レオンはローブの襟元を直し、フゥッと息を吐いた。


「タダで迷宮潰しなんて、頼まれてもごめんだわな」


マクシムがヒラヒラ〜っと右手を振ってみせ、レオンも頷いていた。


「あの、ちょっと疑問なんですけど聞いてもいいですか?」


洋介が右手を上げてマクシムたちを見た。

いいぜ、と軽く頷く彼に質問を続ける。


「俺が住んでたところでは、どの国の土地でもないなんてところはまあなかったんですよね。過去歴史も、侵略やら戦争だらけで。この世界では、そういった誰のでもない場所がたくさんあるみたいですけど、何故ですか?」


洋介の質問に、マクシムもレオンもキョトンと目を丸くし、返事に困ると言うよりも己で思いついた事もない疑問といった感じだ。


「考えた事がありませんでした。普通のことなのかと」


レオンはうーんと唸り、遠く、自国の方角を見つめる。

風が彼のローブをはためかせていく。

一面草っ原で、ところどころに背の高い草がはえているが、どこまでも草原の続く気持ちの良い場所だ。


「……政治的小競り合いはありますけれど、国の領地というものは拡大ができないっていうのが我々の当然かもしれません」


「誰のモンでもないからって勝手に国のもんにすんのはよくねえよ。それは世界のモンなんだからよぉ」


マクシムは腕組みして頷いてから、そろそろ行こうぜと小さな入り口の洞窟を指さした。

せっかちな彼はすぐ話がそれる洋介とレオンに、もういいだろ、と背を向け歩き出す。

野山は世界のもの、とは、随分穏やかだ。

この大陸に限ったことなのかもしれないが。

だからこそ、ロイのような自活者がいるのだろう。


「まあ強いていうなら魔物の領というか、ある程度は手の入れないところが無いと街中まで降りてきてしまうからでしょうかね?」


レオンは人差し指をこめかみに立て、眉間にシワをよせていた。


「それでも、開発不可地区として自国の土地にしてしまうことはできますよね?領土が広い方が資源も豊かになるし」


洋介がそういうと、マクシムは低く呻いた。


「おいおい、話続くのかよ…」


2人が話し始めると長くてかなわん、と言わんばかりにマクシムは早々と歩き始めていた。





迷宮に入れば、馴染みを覚える洞窟だった。

迷宮姉妹の所とそうかわらず、強いて言えば入り口が草にまみれてわかりづらかった事くらい。


「主様、ここの迷宮はできたばかりではありませぬ」


「隠匿のスキルがあるようですわァ」


隠匿、という言葉にレオンがすかさずおうむ返しに投げかける。


「もっともォ、妾たちや魔物には効果のないスキルだけれどォ」


「人間を欺くにはてきめんです。人間は魔力に鈍感なので。隠匿のスキルは大迷宮でもなかなか持っていないスキルで、言葉通り隠すためのスキルです」


「隠すというのは、迷宮の規模的なところですか?」


レオンの言葉にウグイスはうなずいた。


「はい。周囲に漏れる魔力を隠せます。未熟な迷宮が育つまで隠し続け、ある日わずかに魔力を出すのです。さながらできたばかりの迷宮のように」


「そォして初心者冒険者をひとのみにしちゃうのよォ!主様ァ妾こ〜わ〜いィ」


アカネが洋介にまとわりつくのを見た瞬間、ウグイスもここぞとばかりにそっと近づいた。

アカネの激しさに紛れ、密かに自分の体を洋介に沿わせてくっついている。


「いや、怖いとか思ってないでしょ!!」


洋介は冤罪防止!と両手を上げた。


「ん〜っと。ということはこの迷宮、いつ生まれたものかわからないけど、いい感じに育っていて、1階層以上あるってことですよね?」


レオンが言った。

ウグイスがこくりこくりとうなずいて、一瞬沈黙が通り過ぎた。


「まあ、普通に考えたら一旦ギルドに報告だわな」


マクシムは近くの大きな石に腰を下ろした。

迷宮内で気軽に腰をかけるなどありえないが、一応まだ一歩二歩、すこーし歩いただけ。


「ヨースケの移動魔法なら、迷宮内でも使えるんじゃないですか?」


あぶなそうなら逃げるとか…とレオンが言った言葉に洋介は、試したことはないです、と肩をすくめる。

この判断は2人に任せる他ない。


「まあぶっちゃけ、依頼されてた迷宮より階層が増えると報酬もかなり飛び上がるし、俺としては大歓迎だけどな」


「問題は規模ですね。今朝の時点でギルドへ報告も上がっていないようですし、無人と見て間違い無いでしょう。想定外に大きな迷宮の可能性も…あるんですよね?」


レオンが迷宮姉妹に返答を求めると、アカネは斜め上に目線を、ウグイスはそれと反対方向に目線をやり、うーんとうなった。


「大迷宮ではないのは間違いありませんわァ」


「そこまで成長する前に、中に人を呼び込んでいないと自壊の恐れがあるのです」


「迷宮は人が入らなければ生きていけないんですゥ」


うふふ、とアカネがしなを作り、笑顔を見せた。

レオンとマクシムの顔を見れば、それはそれはたいそう驚いていた。

迷宮にとって人間が必要だとは、いまだどんな学者も確たる証拠を持って知り得ない事だろう。


「小さな頃は周囲の植物や、動物。空気中の魔力を吸い込むだけで成長できます。ですがある程度の規模になってくると、人間が吐く濃い魔力でないと迷宮の維持も成長も難しくなります」


ウグイスが人の魔力が一番、と洋介に寄り添った。

つまり彼女たちは今の姿にありつつも洋介の魔力を喰っている…のだろうか。

レオンは洋介の手前、口にはできなかったが、彼の魔力量で問題があるとも思わなかった。


「…まさか本当に共存関係にあったとは」


レオンは難しい顔で口元を押さえ、そんなばかな…と、小声で何度も何度も連呼していた。


以前からそのような学説はあった。

人間の出す魔力は動植物よりも密度がある事も知られていた。

それ故に人は動物や魔物よりも空気中の魔力変化に鈍感だという事も。

迷宮が魔力だまりを作り、人を誘うかのように場所を知らせるのは、人間を腹の中に誘う為だったとは。

まんまと自分らは腹の中に呼び寄せられていたのだ。


迷宮都市なんて、まるで牧場だ。


「ぞっとしないな。まあ害もねぇか。こっちが潰す迷宮も多々あるわけだしな」


「そうですわァ、若く弱い迷宮は殆どが人に喰われていますものォ」


「喰ってねぇよ」


「喰ってるわァ。迷宮の魔物を通して強くなってェお金を得てェ迷宮によっては希少な資源がある事もあるわァ」


アカネがマクシムを試すように睨んだ。

洋介にはその視線の意味がわからなかったが、マクシムはぐうっと黙り込んだ。


「まあ、まあ…ね。食うか食われるか、自然な理です。とりあえず進みましょう。迷宮姉妹もいるわけですし、パーティーとしては申し分ないですよ」


レオンはにこりと笑って、迷宮の奥を指さしたのだった。

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