006:ターニングポイント
「はぁっはあっ!はっ!はぁっはぁっ」
洋介は肩で息をし、膝に手をついた。
(だめだ、これ以上走れない…)
未だ迷宮の中。距離はあるが亡者はズルズルと這うように追いかけてくる。
「ヨースケ!走ってください!!」
(くそ、俺のせいだから俺がなんとかしないと…っ!)
洋介は呼吸も整わぬまま、荒っぽく戦闘タスクを叩き、魔法を開いた。
レオンが放ったのはおそらく光魔法、それなら自分にも使える。
「めいっぱい、やるっっ!!」
洋介の指はすかさず「光」をタップしていた。
◯複数のシンボルを確認、自動発動します
「いけえぇぇぇぇえ!!!」
彼は敵を見逃すまいと目を見開き、足を踏ん張った。光の粒が集まりそれは無数の矢になると、洋介の周りでステータスの言う、シンボルに鏃が向いた。
シュッ
聞こえたのは小さな音ひとつだった。その光の矢は文字通り、光の速さで亡者に向かっていくと、吸い込まれるように次々と突き刺さり、黒々とした影たちは悲鳴もなく消え去った。
亡者が消えると同時にひやりとした空気は嘘のように引き、もとの迷宮の温度に戻る。それに暖かく感じるほど亡者は冷たい空気を纏っていたのだ。
洋介ははぁーっと大きく息を吐いて、しゃがみこんむ。心臓は跳ねたままで、息が整わない。
肩が大きく上下する。緊張と全速力で走り続けたことで、ドッと汗が噴き出し気持ち悪くこめかみを流れ落ちた。
「できるならできるって言ってくださいよ!」
背後から投げかけられるレオンの言葉には、ぐうの音もでない。
だが洋介は、ただ走り逃れることに必死で、レオンたちから千切られないようにすることに必死で、冷静さは亡者に奪われていたのだ。
「…………ごめんなさい」
洋介は立ち上がり、レオンとマクシムに向き直ると深く頭を下げた。
2人の顔を見るのが怖かった。本当に、マクシムの言う通り、自分は迷宮を舐めていた。そして、この世界も。
ゲートの力を手に入れて、まるでゲームのように非現実的で、戦いは画面をタッチするだけ。ギルドで出会った誰のことも、人間として見ていなかったのだ。
自分はまるで、高みの見物。
「一先ず、あの青いゲートをくぐりましょうか。あそこの中なら魔物は出ません。もちろん亡者も」
レオンが指差す先には、青く光る入り口と、その奥は行き止まりのようだが洞窟内で"部屋"として孤立しているように見える。
3人は青いゲートをくぐり中へと入った。大人が10人は横になれそうな広さがある。
相変わらず同じ洞窟なのだが、地面も平らで休むには良いスペースだ。
(魔物が出ないってのは迷宮共通ルールなのかな?なんでこんな場所が…)
洋介は、その当たり前の疑問を聞きたくても聞けなかった。こんなにも振り回しておいて、また質問だなんて…とても彼にはできないし、それにこちらが口火を切ってもいい空気はどこにもなかった。マクシムはもちろん、レオンも、休むための荷ほどきをしながら、とても難しい顔をしていたのだ。
レオンは敷物を敷いてくれて、座布団のようなものはマクシムが出してくれた。
そこに座った彼らを真似し、洋介も腰を下ろす。
レオンが着火石と呼ばれる、見た目は小さな石ころだが、火種に触れると長く燃える石を地面に転がし火をつけると、その上にポットを置いて湯を沸かしていた。
同時進行でマクシムが、3人分のコップにララ豆を1つずつ入れた。
ここに湯を入れると、ララ豆茶ができる。
蜂蜜のように甘く、そしてほのかな花の香り、色は綺麗な白色だ。
この世界の定番の飲み物で、コーヒーのような立ち位置らしい。
休憩の際には飲むもので、どこにいっても出てくるとロイが言っていた。
「ほら、おまえの」
マクシムはぶっきらぼうに熱々のララ豆茶を洋介に差し出した。
目がまだ怒っている。
「あ、ありがとうございます…いただきます」
洋介はそれを両手で受け取り、そっと口に含んだ。
心も体も疲れている今。このほのかな甘さが嬉しい。
「それで、君のゲートの能力は他にどんなのがあるんですか?」
洋介はこんなにも落ち着き、丁寧に話すレオンを、先ほどあんなにも取り乱させてしまった事が恥ずかしかった。
キレない人をキレさせてしまったのだと、しっかり自覚できていた。
かといって、いきなり怒り出すマクシムの事に納得がいったわけでもない。それでも自分があまりにバカであったのだと自責の念にもかられ、申し訳なさでいっぱいなのだ。
「地図は行ったこともない場所でもわかります。自分の場所も…あと魔法と剣術はコントロールを間違えると強めに発動します……僕自身が強いわけではないので、体術や至近距離の攻撃はつらいです…」
「なるほどな、おまえ自身は殴ればボコボコにできるってことだな」
マクシムはフンと鼻を鳴らす。
「…そ、そうですね…魔法も剣術も発動するのにも選ぶためのタイムラグがあるので、その隙がないと…はい、ボコボコですね」
「ヨースケ、すごく殊勝な態度ですね……それはいいとして、もしかしてヨースケは文字盤のようなものが手元に見えるのではないですか?」
「え!!!なっ!なんでそれを?!」
ヨースケは慌ててしまい、ララ茶をズボンに少しこぼしてしまった。
あつっ!とばたばたしていたらレオンの水魔法がズボンに飛んだ。
「僕の実家に勇者関連の本がいくつかあります。200年ほど前の勇者が自叙伝を書いたらしいのですが、それがうちにあるんですよ」
レオンはそういってじいっと洋介を見つめる。
「勇者の日記……どうやって戦うとか書いてあるんですか?」
洋介にとってほかの異世界転移の事についてはかなり興味があった。
災害的なものなのか、神的ななに何かのいたずらか、興味があるし、自分のこともよく知らないのだから、ほかの人の話を、いわばレビューのようなものは確認したい。
「もちろん。目の前に触れたら選べる技の文字盤なんて信じてませんでしたが……というかその自叙伝がそもそも創作なのだと認識していましたが、どうやらそうではないようです」
「厚かましいとは思ってますが、ぜひ読ませてもらえませんか?ほんとに何も知らなさすぎて、手探りなんです、まだ」
洋介の懇願に、あっさりといいですよ、と返答が来た。
レオンはそもそも読ませるつもりでその話をしたようだった。
「それは迷宮を出てから決めるとして、ヨースケは進みますか?帰りますか?」
試されている、のであろうか。
レオンの青い瞳は洋介を捉えて離さない。
ドギマギしながら絞り出すような声で
「進みます……」
と洋介が返した。
「では、マクシム。ヨースケ。互いに謝ってください」
「なんで俺が!!」
マクシムはありえない、と声を上げ、ガンと拳で地面を叩いた。
「当たり前です。亡者の件など初歩の初歩。あなたは先輩として失格なんですよ、自分じゃ亡者を叩けないくせに感情に任せて怒りをぶつけるなんて」
「それはコイツが変なことしやがるから…!」
「それはそれ、これはこれなんですよそんなこと。亡者に捕まったら死ぬよりつらいんですよ?ちょっと気に入らないからって迷宮の亡者をいちいち呼び出して回るつもりですか?」
「くそっ!けどこいつがあいつらみたいに俺らハメる気だったらシメとかねぇとだろ!一連托生、それが迷宮なんだからよ!」
「一連托生については同意ですが、元メンバーの2人とヨースケはなんら関係がないでしょう。ゲートをくぐったと知っているのだから、少し考えればわかります。だから冷静に、といつも言ってますよね」
「なんだよクソ!こいつの肩もつのかよ!」
「肩を持つとか持たないとかじゃないんですよ。ヨースケたしかにあなたは連絡不足です、怪しい行動でしたよあれは」
「ご、ごめんなさい!!」
すかさず洋介が謝ると、レオンは何度目かわからないため息をついた。
がくりと肩を落としてもいる。
「勝手がわからないから、迷宮の地図も想定外だったんだろうとは思いますが、ヨースケも我々への配慮を怠りましたね。そちらの世界は戦えない者が多数という話も頷けます。ヨースケは平和な世界で育ったみたいですね」
レオンは言ってからしまった、嫌味になったと反省した。
けれど洋介が年相応な振る舞いでないとは、最初から感じていた。
22歳と言っていたが、自分たちも同い年なのに、とてもそんな風に思えない。
マクシムもあんなでも、身を守る構えは心得ている。誰もが武器を持たずともいい世界とは、なんとも羨ましい限りだ。
冒険者稼業も5年。レオンたちには洋介の以前の暮らしなど、及びもつかない。
羨ましいというよりも、想像もつかないのだ。
魔物はおらず、武器を生涯触る事なく死んでいくものばかりの世界など。
「こっちきてずっと山小屋で世話んなって、ロイ以外誰にも合う事なくて、現実感がなくて、俺見下してたんです。この世界の人たちを、線引いて俺のがすごいって…」
「そうだろうよ…」
マクシムはぐっと唇をかんだ。
洋介の態度に、最初からずっと示されていたものだ。下に見ていると。
「でもやっと目ぇ覚めました。このままじゃ魔王なんてなれそうにないから」
「「え?」」
洋介の言葉に、2人とも目を丸くして見合い、洋介をまた見て、と2、3度繰り返した。
「みんなに好かれる人望ある魔王になりたいのに、このままじゃ独裁者だ!マクシムさん!気付かせてくれてありがとうごさまいます!俺ちゃんと変わりますから!!」
「力説してるとこ悪いんだが……おまえ勇者じゃねえの?」
「はい。魔王になって住みやすい国を作りたいです」
あっけらかーんとした洋介に2人は鳩に豆鉄砲状態。
「魔王ってのは恐怖と圧力の象徴だろ…お前はてっきり勇者とばっかり…」
「勇者には職がないんですよ、それにどこかしらの国のために働くことになるじゃないですか。それは俺には合わないので、自分で国を作ります」
「国を作るって言う発想は魔王的かもな…」
マクシムはララ豆茶を飲み干し、床に置いた。
そして、じゃあ-ーと立ち上がり
「世間知らずでバカな魔王様のために、迷宮の恋人を倒しにいくか」
と己の剣を担ぎ上げた。
「はい!よろしくお願いします!」
マクシムに拳を上げて頷く洋介だが、レオンは違った。
「いい感じでまとめたと思ってませんか?マクシム?洋介の話を聞く前にいきなりキレたことを謝りなさい。そして僕に対しても亡者を呼び出してしまった事を謝ってくだい、いま、いますぐに」
彼の有無を言わさぬ攻撃に、うぅっ、と低く呻くマクシム。
「…すまんかった」
「声が小さい!誠意が足りない!」
「すみませんでしたぁあ!!」
「わかればいい、光魔法も使えない何ちゃって迷宮冒険者め」
最後のは余計だ!とマクシムは頭をかきむしっていた。
青のゲートを出てしばらくいくと、レオンがここが恋人の部屋ですよ、と立ち止まった。
そこは赤いゲートが扉のように口を開け、挑戦者を待っていた。
「中入ったら倒すまで出らんねぇ。準備はいいかよ、魔王ヨースケよ」
「はい!ばっちりです!心の準備できてます」
洋介は頷き、一歩前へ出た。
ドキドキとうるさい心臓をやりこめて、何とか立っているという情けない状態だが。
洋介はいつもそうだった。ジェットコースターなんか余裕だよと言いながら、順番の直前は心臓が爆発しそうなのだ。
自分でも最初は平気だと思っているのだからタチが悪いというもの。
「ヨースケ、僕らもいますからリラックスしてください。ここは若い迷宮ですから、我々なら死ぬようなことはないです…ある意味亡者のが厄介ですよ」
レオンの言葉に、ぐぬっ、とマクシムが胸を押さえた。
「ま、まぁいくか……」
マクシムは赤いゲートに手を触れた。
その瞬間、洋介は触れていないのに宙に浮いたような感覚が襲った。
見ればあたりは真っ暗なのに、マクシムとレオンの姿が見えている。
VRのようなわけのわからない浮遊感が終わると同時に、地面を足の裏が感じた。
見ればレンガの地面だった。
「きます、恋人です」
レオンが言った、前方を確認すると薄暗い部屋の先にチカチカと白い光が2つ見えた。
「やばいな、二体いるぞ」
マクシムはじりじりと前に出ながら、暗い前方に目を凝らす。
「なっ………」
洋介は自分で自分の目が信じられなくなりそうだった。
視界に映る迷宮の恋人は、女の子2人だったのだ。
「えっおんな、の…こ?」
「外見に惑わされないでください。艶かしい女性だろうが、ドラゴンだろうが迷宮の恋人には変わりありません」
「先手を取る!!」
マクシムは右足で煉瓦の床を蹴る、洋介には到底真似できない速さで飛び出すと、女の子2人に斬りかかりにいった。
女の子は2人とも修道服のような、白い大きな丸襟のワンピースを着ていた。
シルバーの長い髪に、それぞれ毛先の色が違い、鈍い赤色と緑色をしている。
それだけでも印象的なのだが、2人は武器を持っていない。
2人はそこに違和感はないのか、と疑問だったが2人の女の子はマクシムをすぅっと避け、洋介にまっすぐ向かってきた。
その速さたるや、宙に浮く2人は重力に引っ張られるかのように洋介向かって飛んでくるのだ。
「クソ!間に合わねえ!」
「ヨースケ!剣術!!!」
「待ってっ!!これを!」
洋介は適当にタッチしようとした、が間に合わない。
瞬きする間に迫ってくるのだ。
なんと役に立たない機能だ、コマンド決めてコントローラーで戦いたい。彼は悠長にそんな事を思ってしまった。
「主様、おまちくだされ」
「そうですわ、おまちくださいましィ」
女の子2人は洋介の手をスッと掴んで止めた。
右手に左手に、動かせないほどすごい力だ。
「主様、あなた様が決意されてから早一月。お会いしとうございましたァ」
赤い毛先の子が言う。巻き髪だ。
「そうです、お待ち申し上げておりました。主様」
今度は緑の毛先の子が言った。ストレートだ。
「「恋人が喋った?!」」
マクシムとレオンの声が重なる。
どうやら迷宮の恋人は話をしないものらしい。
「主様ァ、妾たちを主様の行く道に連れて行ってくださいましィ」
「主様、お願い申し上げます。我ら2人は主様の力になりとうございます」
2人とも青い目をしている。
容姿の違いは毛先の色だけで、声色は違うが同じ声だった。双子なのだろうか。
それ以上にどんな罠かと洋介は目を回していた。
「迷宮の恋人が話をするなんて初めて聞いた。どうなってやがる…」
マクシムは剣を下ろしつつも、しかと握ったまま洋介たちに近づいた。
「主様は大魔王となられるお方。我ら主様の降臨をずっとお待ち申し上げておりました。我らは必ずや主様の助けとなりましょう」
キリリと話す緑の髪の子。
本気で言っているのだろうか?仲間になりたそうに…とはまさにこの事。
潤んだ瞳で2人はこちらを見つめている。
そもそも、この子らは人なのだろうか。
「主様ァよろしいですわよねェ?妾、ずーっとずーっとお待ち申し上げておりましたのォ。亡者を蹴散らす主様を見たらもう、心臓がやぶれそうでしたのォ」
赤い毛先の子は反対にねっとりと甘えた話し方をする。
2人が濃すぎて、洋介はどこにもついていけない。迷宮の恋人が味方になりたいと言う、それは果たしてどんな状況なのだろうか。
「つまり、君ら2人は俺の味方ってことでいいのかな?」
洋介がなんとか言葉を絞り出すと。2人の青い目は眩しいほどに輝いた。
「あァ〜嬉しいです主様ァ〜!」
「光栄です。命を賭してお仕えいたします」
手を組み喜びに耐えられないと体をくねらせる赤い子。
そして三つ指をついて深々と頭を下げる緑の子。
同じ容姿でこうもちがうか、と口に出さないツッコミをレオンは心にしまった。
「一般人としては、迷宮の恋人が人間に忠誠を誓いついていくなんて信じられませんが…」
勇者の手記でも似たようなことは書かれていた。
人だか魔物だかわからないような臣下ではなかったが。
「ちょっと待て、迷宮の恋人がどーやってヨースケについてくんだよ。お前ら倒さなきゃココ出られねえだろ、俺ら」
マクシムがぶっきらぼう全開で言うと、赤い子は顔を歪め、緑の子は無視をした。
「オイ、シカトこいてんじゃねぇよ」
「下賤の者とは会話できぬ」
「そうだわァ品がなーいィ」
「マクシムは確かに品がありませんが、この迷宮内で僕ら3人は仲間です。どう言う事なのか教えてもらえませんか?」
レオンが丁寧に言うと、2人は満足そうに頷いた。
「うむ、主様の臣下としてそなたの品格は合格だ。励めよ」
緑の子がレオンをじっと見ながらそう言って、洋介に向き直った。
「臣下て……」
レオンのその顔は不服そうだったが。
「主様、我ら2人は魂を分けし迷宮の核。主様が我々を解放するとおっしゃって頂ければ、それだけで我らはこの迷宮を閉じ、主様の盾と成れます」
「そうですわァ、妾たちやっと主様のしもべと成れますゥ!地の果てまで着いていかせてくださいましィ」
レオンとマクシムの2人が動じていないのはなぜなのか、よくある事なのだろうか。
得体の知れない怖さに洋介は冷や汗をかいていたのだが。
「……よし、2人を解放する!俺についてきてくれ!」
「嬉しいですわァ主様ァ〜とろけそうですのォ」
「これで主様と1つに…!なんと感慨深い!!」
2人の恍惚とした表情に、洋介はただ、ただ、引いていた。
これが人であったなら何も考えずに喜んだだろう。
モテた覚えもない彼の人生に、こんなモテ期があったのなら、両手をあげて小躍りし、鼻の下も伸ばしまくったにちがいない。
だが彼女らは迷宮の核、つまり迷宮。迷宮の恋人とは人の呼び方で、実際は核なのだから単なる迷宮の事なのだろう。
迷宮に恋人などいないのだ。
つまり魔物的な何かである。
レオンは艶めかしい女性だろうがドラゴンだろうが、迷宮の恋人と言った。
それはつまりどんななりだろうが迷宮は迷宮なのだ。それ一体で巨大モンスターとでも言える。
それが可愛い顔をして洋介好みのふわっふわとさらっさらの長い髪をしていようが、女の子ではなく迷宮なのである。
「では戻りましょう、我らの体内から外の世界へ」
「え、やっぱそう言うくくりなんだ…」
洋介がぶるっと体を震わせると、2人がそっと左右から手を掴んだ。
「主様は妾たちのお腹の中で走り回っていたのですわァ、妾それだけでもう天へ召されそうでございましたァ」
「そ、そんなに待ちに待っていてくれてありがとう…」
洋介が無理やり笑ってみせると、
「主様が緊張しておられる姿、尊いです」
そう返された。
ため息ついてリラックスしようとした瞬間、洋介たちはもう迷宮の外、移動魔法を使ってたどり着いた場所にいた。
湖畔が光を反射し、宝石のように煌めいていてやけに美しく見えた。
(あぁ、時間の流れがわからなくなるってこういう事だったのか…)
おそらく3.4時間程度の短い迷宮旅行。
しかしもっと長く中に居た気がした。
それほど草の匂いも日の光も待ち遠しく思っていたようだ。
「この感覚は久しぶりです。迷宮から出た後は世界が優しく見えますね」
レオンもそれは同じだったようだ。
マクシムはそうか?と首を傾げていたが。