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勇者か魔王か選ぶ権利は君にある  作者: いんなみさんとこの奥さん
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004:ギルドマスター


 ――山で試した中で、でかい音がなって壁にいい感じの穴があきそうなやつにしよう…。


「初手は外して威嚇!」


 洋介はユマニコフに聞こえないくらいの声で言うと、剣術、柳倒しを選択、スッと軽く剣を振った。


「え?」


 ユマニコフがびくりと体を強張らせた。


 ドゴォーーーーンッ!!


「同じの。次は当てます」


 洋介がもう一度剣を構えると、ユマニコフは大慌てで剣を下ろした。


「ままま、ま、まて! 規格外すぎた! そんなん当たったらいくら俺でも死ぬ! 魔法か!?」


「違いますよ、剣術柳倒しです」


「柳倒しぃ!? あれにあんな威力はない!」


 ドタドタと足音がいくつも聞こえ、テスト部屋に数人の人が入ってきた。


「ちょっと! なんの音!?」


 先陣を切ってきたのは、受付嬢。そのうしろに、ホールでだらだらと時間を過ごしていたであろう数名の冒険者が押し寄せていた。


「ヨースケが柳倒しで大穴あけやがった!」


 ユマニコフがそう言うと、受付嬢は洋介と壁の穴を見比べ信じられない、とつぶやいていた。


 ――ありえない。


 と口々に声がする。

 騒然となり、テストは終了かと思った時。


「何事だ!」


 凛と声が響き、野次馬の声が止んだ。


「「マスター!」」


 マスターと呼ばれたのは、洋介と背丈の変わらない女性だった。薄い水色の長いストレートの髪が印象的で、額に赤く小さな石がついている。

 そういう人種なのか、おしゃれなのかどちらであるかは、ステータスを見るに明らかであった。


◯アミタ・マルタ

68歳 ラルヴァの民

HP2500 MP250

スキル 千里眼

称号 ギルドマスター


 ――つええええ! この人ロイよりずっと強い! しかも68歳にはみえない……どう見ても二十代…。


 ラルヴァの民というのがそういう種族なのであろか。彼女はとても六十八歳にはみえなかったし、何より髪色が印象的すぎた。白に近い淡い色には、神々しささえ感じる。


 ――しかもスキル、千里眼! めちゃくちゃ気になってきた!


「……君はゲートをくぐった者なんだな?」


 アミタは洋介にそう言った。


「え、どうしてわかるんですか?」


 駆け引きも何もなく、彼は照れたようにそう言ったのだが、彼女にとってその嬉しそうな返答は想定外だったようで、肩透かしを食らった、と一瞬だけ額の小さな石に触れた。


「その体つきに似合わない剛腕な剣術は、ゲートを通った者でしかありえない」


 アミタは洋介が開けた穴を指差した。確かに、彼が剣術に長けているようにはとてもみえないのだ。


 それもそのはず、洋介はこちらに来てから力をコントロールする練習だけをしていた。軽くロイと手合わせしてはいたものの、剣術というより軽い運動だ。筋肉などつくはずもない。


「じゃあ魔法もみてもらえますか? ランク審査ですよね、これ!」


 ――これで終わらせてそこそこ上のランク程度じゃ困る!魔法も見せないと!


 洋介が魔法を選ぼうとする背後で。ユマニコフがぶんぶん首と手を振っていた。マルタはそれに頷いて返すと


「いや結構、君の魔法を披露してもらうとここが更地になりそうだ。君は間違いなく特級冒険者ということで誰も異論無い」


 と言い、ユマニコフはそれに心底胸をなでおろし、我が子が無事に産まれた時以上に安堵していた。


「特級というと、何番目くらいですかね? ギルドの仕組みに疎くて申し訳ない…」


 洋介の問いからやや間があり、マルタはまた頷いた。


「1番上だよ、ヨースケ」


 ギルドマスターのマルタは、押し寄せていた野次馬を散らし、ユマニコフに優しく声をかけ、受付嬢に持ち場に戻るよう指示していた。


 それから洋介をテスト部屋の反対側に位置する部屋に連れていき、ヌガの花茶、というものを淹れてくれた。味はほうじ茶みたいだったが、わずかにレモンのようなにおいがする。


 冷やして飲んだらうまいと思う。


 お茶を飲んで洋介は思う。さわやかなレモンの香りは、絶対に冷たい方が活かされる。たっぷりの氷を入れて飲みたい。


 お茶のステータスを見ると、ヌガの葉茶というものもあるらしかった。


「さて、ヨースケ。冒険者の階級の話をしようか」


 マルタは洋介の向かい側に腰掛けると、そう切り出した。


「それは助かります。こちらの世界のこと全然知らないので!」


「そうだろうな……冒険者の階級は全部で七つ。上から特級、1級から6級だ。そのほかギルドに特別な貢献をもたらした者に、階級とは別に純級という称号もある。現在存命の該当者は1人だけだ」


「へぇ〜。その純級冒険者はどこにいるんですか?」

「ローレイ公国さ。ホールに依頼の掲示板があっただろう?」

「ああ、あの大きな…」

「あれを開発したのがその純級だ。当時彼女は4級の冒険者だった。今は2級だ」


「あれ、純級になっても特級に上がるわけじゃないんですか?」

「そうだ。あくまでランクは冒険者としての強さの指標だ。一生6級の者もいるし、ランクが下がることもある」


 ただし……と、マルタは続ける。


「依頼の報酬は、級が上がるごと上乗せされ、純級の冒険者は階級に関わらず特級と同じ報酬がもらえる」


「なるほど! わかりやすいですね」

「依頼は掲示板から受けられる。階級制限のある依頼は、条件を満たしていなければ受けると罰金があるので気を付けること。依頼内容はよく読むことだ。受けたい依頼に触れれば、紙として出てくるから受付でこの冒険者証明書を提示して受け取りなさい」


そう言ってマルタが洋介に差し出したのは、一枚のスカーフだった。


「そう不思議そうな顔をするな。どこの国のギルドでもこれが身分証になる。これは銀の糸……特級の証だ」


 マルタから受け取ったスカーフはキラリ、キラリと光りを纏いきらめいた。


◯特級冒険者の銀スカーフ

銀糸と絹を合わせて手織りされている

魔力付与されておりギルドで身分証明やその他手続きの証明として使用可能


 ヨースケは自分の力の証明に、どう押さえつけても口角があがる。


 ――作戦通りだ。目撃者よ、どうか噂をばらまいてくれ。


「受付の者に渡せばヨースケの名前がわかる。こなした任務の履歴なども受付で見られる。報酬を受け取る際も必ず必要だ」


 ニヤついた彼を無視して、マルタは話し続けていた。ゲートをくぐってこちらに来て、彼はどういうつもりでギルドに入ったのだろう。


 ギルドはどこの国にも住民権などなく、行き場のない連中の集まりだ。乱暴な者、卑屈な者、野盗まがいの生活をする者、横道ばかりを歩く者たちだらけ。

討伐依頼を失敗したり、迷宮のエサになり帰らない者たちもいる。

 彼は一体、マスターである自分に何を見せてくれるのか、また彼は何を見てギルドの門扉を開いたのか。


「マスター! まずは俺依頼こなしてきます。1個も依頼達成しないまま帰れないんで!」


 洋介はスカーフを握り立ち上がった。マルタの青い目が揺れる。


「ヨースケ君は一体何のつもりでギルドへきたんだい?」

「俺、魔王になるんです! そのためにまずギルドで死ぬほど活躍して有名になります」


 いつでもすましたギルドマスターはああ……と頭を抱え込んでしまう。そっちかぁ…。とマルタが小さく呟く声が聞こえた。


「ヨースケ、魔王はまずいだろう…」

「まずいですか? 魔王と言っても、力でのし上がり一国作ってやろうと思ってるだけなんです。ほら、勇者って国の奴隷じゃないですか」

「勇者が奴隷か……間違った表現でもない気がするのがこわいところだな…」


「だから俺は、みんな楽しい最強な国をつくります。別にギルドや王国を滅ぼそうとか思ってないですよ!」

「勇者が来たらどうする?」

「勇者も俺と同じところからくるなら、この世界の人より俺の方が部があると思うんですよ。同郷のよしみ的な…」


 ヨースケは自分で言ってだんだん不安になっていた。果たして本当に自分は最強なんだろうか。勇者がどこかの国につけば、自分は豆のように簡単に潰されてしまうのではなかろうか、と。


「いいかヨースケ。どんな強者も1人では戦えない。仲間を作れ。君がどんなことを成すのであれ、ギルドは冒険者を等しく受け入れる。闇夜をいく者だらけのギルドだが、そうでない者もいる。茨の道をいくと言うのなら、君には仲間が必要だ」


 マルタの青い目はすっと洋介を見つめ、諭すようなその視線は、間違いなく年長者のものであった。


「…じゃあ、マスターが俺の仲間になってくれませんか?」


 洋介はこれしかない、とマルタの手を握る。冷たい手だ。


「……どこまでも君とは次元が違うようだ。ギルドマスターになって長いが、私を勧誘した者は君だけだ」

「もちろん、すぐにとは言わないですよ! 俺がもっとマスターを迎えるに相応しい魔王になったら、その時は…」


 マルタはすっと洋介の唇に指を置いて、彼の言葉を遮った。


「君の覇道に賛同するには、私は少し歳をとりすぎているんだ。こう見えて若くはなくてね」


 ラルヴァの民、それはてっきり長命な種族かと思ったが、そうではないのだろうか。洋介には知らない事が多すぎて、なんと返すこともできなかった。

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