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勇者か魔王か選ぶ権利は君にある  作者: いんなみさんとこの奥さん
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002:洋介、身の振り方を決める

 

 ロイの家に滞在して1ヶ月が過ぎていた。


 卒業旅行も、必死で勝ち取った就職も、洋介にはもう遠くなっていて、戻れないのならば一財築いてやろう、そう考え始めていた。


 毎日新聞を読んでわかったのは、トラン王国がメルディブ聖国とローレイ公国とは仲が悪いということ。

閉鎖的なメルディブ聖国が、最近はローレイ公国と仲良しだということ。

 メルディブ聖国はやはり宗教国家で、教会の高僧が歴々メルディブという名を襲名しながら国を治めているということ。

 ローレイ公国は貴族の議会により治められていることと、新聞でガジェットという記者がトラン王国の絶対君主制を否定しまくっていたこと。


 トラン王国の国王が、毎日遊びまわっている事。そしてそれを新聞に書かせている事。ロイは豊かな国のアピールなのだろうと言い、国庫を食いつぶす悪魔だ、と国王を罵った。


 彼にとって尊敬し護りたかった王国とは前王で、現国王の事は爪の先ほども王だと思えないようだ。実際振る舞いも酷いものだったようで、妻子をなくし、流行病の打開策をと死を覚悟で進言したが


「城下にいるのは働きアリだ。それが何匹死のうが大した事はない。ことがおさまれば彼らは無限に増えるのだから」


 と、言い放ったらしい。


 彼はこの一言をきっかけにその日のうちにトラン王国を飛び出した。国王がこれほど歪んでしまった原因は乳母なのだが、それは洋介にとってどうでもいい話だった。


 人は変わる事はないのだ。


 魔法の制御の仕方もロイに手伝ってもらいながら学んだ。そして、魔物が実際にいる場所までロイが連れて行ってくれてわかったのだが、こちらに敵意があるものが近くにいると戦闘モードよろしく、魔法や剣技をすぐに選べるように、画面が戦闘モードとして出てくるのだ。索敵いらずである。


 索敵することは難しかった。どのようにすればいいか思いつかなかったからだ。この世界でよくある魔力的なものが洋介には感じられなかった。ロイ曰く、索敵魔法が得意な者もいて、近衛兵には実際何名かそういう係がいたらしい。移動魔法を応用するんだそうだが、なかなかむずかしかった。


 洋介の移動魔法は簡単だった、地図で行きたい場所をタップするとそこに行けるのだ。ロイに確認したが、街中に突然現れても問題はないそうだが、彼は移動先に失敗して肥溜めに突っ込んだことがあるらしい。しかし意図せず洋介の移動魔法は、人様の邪魔にならず、目立たない所に連れて行ってくれる。


 一度ダイニングテーブルに座るイメージを抱きながらロイの小屋の外から中らへんを地図で押したら、ダイニングテーブルに座った状態にワープした。イメージしなければ、適当に事故が起きない場所に連れて行ってくれるようだ。


 洋介のするようにステータスから魔法を使うのは一般的ではないようで、イメージから魔法を形作るのが普通らしい。


「そもそもステータス画面なんてもんは普通は存在しない。みんななんとなくで魔力の残りを感じて、体力の残りを感じて、ほんで魔法もなんとなくだ。剣は練習あるのみ」


 ロイの言葉通りなのだろう。


 少しずつ距離を伸ばして、MPを確認しながら、実は隣の大陸にもロイに内緒で行ってみた。これも問題なく、同じ距離を帰ってくることができた。


 MP1億というのは伊達ではないらしい。


 問題の剣技だが、実際剣を握って構えてみたら、ステータスが表示され技が選べた。なんと剣技もMPを消費するらしい。

 MPは食べ物を口にするか眠ると補えるようだったが、莫大なMPを底まで使うことは難しそうだ。


「ロイ、俺無敵といっても間違いないんじゃないだろうか」


 1ヶ月寝食を共にし、すっかり打ち解け、洋介とロイは気さくに話す仲になっていた。


 今日はロイとニ人、剣技を磨くべく少し川の方へ下ったのだ。彼が連れてきてくれた河道は、傾斜はあるものの広いスペースだった。


「魔力を数字で言われてもピンとこねぇが、俺が50なんだから1億ってのは半端じゃないな。使い切ったこともないなら、散々魔法やら剣技使ってても一生使い切ることないんじゃねぇのか?」

「俺もそんな気がする」


 洋介は川で顔を洗うと、ロイに向き直り言った。


「俺やっぱギルドに入るよ」

「まあ、ヨースケならゴロツキどもに絡まれたところで返り討ちだろうけどよ。ギルドなんていいもんじゃねえぞ? どこの国も守ってはくれない」

「それはいまも同じだろ! まずは俺の名前を世界に知らしめる!」


「…ゲートから出てきたやつらはみんな有名になる…ヨースケは有名になってどうするんだ?」

「俺は……魔王になる」


 洋介がグッと拳を握ると、ロイはゴクリと飲んだ水を吹き出した。


「おまっ!…え!…は、本当におかしなやつだな。普通勇者だろ」


 ロイは笑いをこらえるのに必死で、洋介はそれをジロリと睨むとため息をついた。


「勇者は仕事がない」

「魔王がいないからな」


 そうそれだ! と洋介はロイを指差した。


「そもそも魔王と言えば目的はなんだ?」


 いきなり問われたロイは、あー?っと首を傾げ


「世界征服?」


 と問いかけた。洋介はウンウン頷いて、ロイを指差す。


「そうだよそれだよ! 俺はこの星全部の大陸を征服して、ヨースケ大帝国を作るぞ」

「なんだそれ、連合国ってことか?」


「まあそんなようだがまあいいんだ。名前はなんでも。とにかくこの星を1つにまとめてやる。世界征服する手始めにまずは小さな国を作る」


「国作るったって、住んでる人がいないとなぁ」

「いるだろ! ここに!!!」

「……て、まさか俺か?」


「そう!ロイは第1国民だ!」


 あちゃーとロイは頭を抱えた。けれど同時に、洋介ならばいい国を作ってくれるのではないかとも期待した。


 ただの青年。

 まだ無知で年若い、ちょっとアホそうな彼。

 でも悪いやつじゃない。


 勉強しようという姿勢も見える。


 強すぎる力をコントロールしようと、日々努力している事も知っている。


 てっきりどこかへいなくなり名を馳せるのだろうと思っていたが、まさかそれがここだとは。


 ロイの家はどこの国でもない。


 洋介はそんな山あいに、ヨースケ大帝国を興したのである。


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