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勇者か魔王か選ぶ権利は君にある  作者: いんなみさんとこの奥さん
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001:世界情勢をつかもう


 暖かい空気と、気持ちのいい風が頬を撫でる。それになぜかいい匂いまでする。


 洋介はうーんと伸びをした。


「あー。よくねたー。のどかわいたーなんか体いてぇーー」


 ぐるりと体を返してうつ伏せになると、ガサガサと音がした、枕に埋めたはずの顔は、どうにもチクチクする。


「そりゃよかった。ひとんちの藁の上で酔っ払って寝こけるなんて、あんたよっぽど気がでかいね」


 聞きなれないおじさんの声。洋介は昨日のことを思い出し、ハッと起き上がり声の主を見た。


 なんとまさか、ムキムキで真っ黒のおじさん……牧場主のような姿だがガタイはラグビー選手のようなおじさんが立っている。


「まさかここにどうやってきたか覚えてないとか、言わないよな? こんな山の上に」


「いやぁ……。どうも、布団お借りしてたみたいで…」


 洋介はとりあえず藁から降りると、ありがとうございます、と頭を下げた。


「あんた、みたとこ此処らのもんじゃないみたいだな。山に捨てられたんか? こっから街へは、酔っ払いが歩けるような距離じゃねぇけどな」


「僕にもさっぱり……」


 頭をかく洋介に、おじさんは仕方ないなといった様子で肩をすくめた。


「ちょっと頭ん中整理してろ。ほんで朝飯食わせてやるから、ここで待ってろ」

「え、いやいやそんな……」


 洋介が何か言う前に、ため息をつきながらおじさんはログハウスのような家の中に消えた。


 何が何だかさっぱりだ。

 ただ空気が違う事はわかった。なぜか吸い込む空気が違うことがはっきりとわかる。ここはどこだろうか。


 見渡す周りは山山山。

 木々を見る限り日本の山ではない。

 ムキムキおじさんも、日本人とは言い難い感じなのだ。かと言って、外国人とも取れないような……。

 草原と言って差し支えないこの家の周りには、何匹か山羊か羊のようなものがいる。


 ようなもの、であるのは、洋介が知る山羊や羊よりも丸く手足が極端に短く、ツノもない。


「毛を刈ってないだけか…?」


 あれなんて名前だろう、と目を凝らし見ていると、ホログラムが羊か山羊のようなものを指し示し、何かを表示した。


◯ハイランドコーン

地球でいう山羊のような存在、毛が多くすぐ生える、乳を飲んだり、肉も食べられる

山あいで草を食べて暮らす

人間によく懐く。


「……なんだこれは」


 洋介はホログラムに手を伸ばす。


「お、さわれた。タッチパネルか」


 触れるとステータス、と書かれた画面が表示された。


◯ハイランドコーン

5歳 メス 体重130キロ 全長103センチ

毛が刈りごろ


「ほう、毛が刈りごろなのか」


 洋介は頷いた。


「他にも見れるかな?」


 彼は大きな山を見つめてみる。


◯ハイランド山脈

ゲオルグ大陸の中央に位置する高い山

地盤移動のために山が南から押されているため、徐々に高さを増している

伝説の特効薬、アイザンの実が採れる


「なんだハイランド山脈って……。他になんか分かることないかな…」


◯ロイの家

ハイランドコーンを育てながら暮らすロイの家

ロイ自ら建てた

築10年


「おお! 意外と新しいな。ロイってあのおじさんの名前かな」


 自分も見れるかも、と手のひらを見つめた。


◯榊原洋介

21歳

◯称号

元大学生

異世界転移者

選ぶ人

勇者見習い

魔王見習い


「いや、元大学生てなんだよ。勇者見習いて…。つーか魔王見習い……異世界転移…」


 洋介は理解した。彼には異世界系の耐性があったからだ。そう、彼は大好きなのだ、転生ものや、転移ものが。


「よし、世界地図!」


 彼がいうからか、念じたからか、『この世界』の世界地図が目の前の画面に現れる。

 そこには見たこともない地形や、いくつかの国の名が刻まれている。細かな文字は集落のような独立した所も示しているようだ。

 どうやらここの世界は全ての土地がどこかの国ものというわけではないようだ。


 そして大きな大陸が3つ。

 小さな島々がたくさん。

 ここは3つ大陸の中でも2番目に大きな大陸の1つゲオルグ大陸、ハイランド山脈の近くらしい。GPS付きなのか、地図は洋介を赤丸で示し、小さく現在地と書かれている。


「他に見れるもんは……。お、シナリオがあるのか、複雑な気分だな」


 彼が開いたメニュー画面、上のタブにいくつか項目がある。


ステータス

アイテム

シナリオ

世界地図

そして、セーブ&ロード。


 なんという事だろう。


 これはゲームか?洋介は頭を抱え焦っていた。

 まんまRPGゲームである。


 ――とりあえずセーブだ。


 セーブを押すとセーブできるのは3つのようだ。セーブデータがありません、と表示されている。


 1番上をタップすると

 はじまりの小屋

 に変わった。


 これをどのように活用できるのか、また実際に意味を持つのかわからなかったが、とりあえずの保険である。

 死んだらセーブから、なんて都合よく行くとは思えないし、死ぬようなことがあるとは思いたくもない。


「ほんじゃ、まあ、シナリオみてみるか」


 シナリオがある、というのは少し引っかかるが、これからどうすればいいのか考える助けになりそうだ、と洋介はシナリオを開いた。


 長々と何か書かれているのかと思いきや、そこには短い文章だけだった。


◯榊原洋介は異世界転移を果たした

ゲートで手に入れた力を使い

剣と魔法のこの世界で

勇者となるか魔王となるかは君次第である


「ゲートで手に入れたってのがこのメニュー画面の力か?」


 洋介はステータスを開き、この世界で強いのか弱いのかわからない数字に頭を抱えた。


榊原洋介

HP 100000000

MP 100000000

剣技 LV.250

魔法 LV.250

スキル

メニュー使用

ステータス閲覧


 ――普通ゲーム的に考えたら、HP1億はボスクラスだよなぁ……。剣技と魔法は赤ん坊が1だとしたら、世界的には年齢相応なのか?


 魔法と剣技を押すと、それぞれ色々な技が表示された。ただ剣技だけが半透明の文字になっている。

さらに技名を押してみると


◯剣を所持していないので使用できません


 と表示。

 ならばと魔法、炎から闇まで一揃えあるらしい。技名はなく、単純に炎、水、などと書かれている。移動や重力など気になる項目もあったが、とりあえず山を燃やしたりしないであろう水をタップしてみる。


◯対象となるシンボルがいません

放つ場所を指差してください


「指差し……。こうかな?」


 洋介は手頃なものがなかったので、ハイランドコーンのいない方向を指で差す。その先には数本の木。


 するとその瞬間、洋介の指先1センチ先から水が放たれた。ピュンっと鋭利な音がする。

 メニュー画面から洋介の放った魔法は、指の先で膨張して、凄まじいスピードで彼が指し示す方へ飛んでいき、数本の太い木を全てなぎ倒した。

 ドゴゴゴゴゴと濁流が流れ、その後には引きちぎられた木の幹だけが何本分も残っていた。あたりは水浸しである。


「……なん!?」


 洋介はプルプルと震えながら、右手の人差し指を遠くへ遠くへやろうとする。悲しいかなそれは自分の体であり、離れることはできないのである。


「ちょっ…! おまっ! 何してんだ! それどんな魔法だよ!」


 おじさんは大慌てで指笛を吹いた。その瞬間ハイランドコーンたちは水浸しの濁流から離れ、皆で寄り添って身を固めている。濁流は山の下へむかって流れ、徐々に勢いを弱め散開した。


「す、すみません……こんなだと思わなくて…」


 洋介は涙目でおじさんに助けを求めた。これがこの世界の一般的な魔法なら、世界はとうに滅んでいる事だろうと言うのは、洋介も痛いほどに理解した。




「いや普通はな、魔法てのは目的に合わせて威力も調整すんだよ。あんな規模の魔法放てる奴もそうそういねぇし、できたとしても1発で魔力切れでぶっ倒れるだろうよ」


 おじさんの作ってくれた朝食は、酒を飲んだ次の日には最高のメニューだった。

 汁物で塩分を摂り、さっぱりとした温野菜、優しい味の粥。そしてハイランドコーンのヒレの生ハムは、あっさりとしていて油気もなく、なのにコクがある。塩気がうまい。


「いやーとにかくうまいっす。得体の知れない俺にこんな……ありがたいです」

「俺も王国から出てきて、こんな領外に住んでるからよ、わけありなんか、なんなんか別にいいんだけどよ……おまえあんな魔法が使えるのになんで山に捨てられてんだ?」


 先ほどの魔法が異常であることはロイのステータスを見てわかった。


彼は剣技LV.98

そして魔法LV53

 ここで国の庇護なしに暮らしているところを見るとこのステータスでかなりの手練れなのだろう。


 そしてなにより、1発で倒れると言われた先ほどの魔法だが、洋介のMPは10しか減っていない。1億あるうちの10であれば、それは減っていないのと同じである。


 ロイのHPは600でMPは50。

魔法のレベルが上がれば、MP消費量は下がるのだろうか。そうでないなら、彼はさっきの魔法を5回放てることになる。

 そしてこの食事をしているうちにも、洋介のMPは回復してまた1億に戻っていた。


「ちょっと聞きたいんすけど、勇者とか魔王とかっていますか?」


 洋介の質問に訝しげに腕を組む。


「勇者な〜。とんと見かけねぇな。ギルドの連中で名乗るやつはいるんだけどよ。魔王なんてのもな……そういう超人的な力のあるやつらは、早々現れるもんでもないさ」


「そうですか……とりあえずこの朝食のお礼をするにはどうしたらいいですか?」

「礼してもらう事でもねぇよ。ここに俺以外の誰かがいるなんて事は…まあ滅多あるこっちゃない。これもなんかの巡り合わせだろうよ」

「いやぁ……できたらしばらく置いて欲しいといいますか…」


空になった器を見て、ロイは満足そうに頷いた。


「そうだろうよ、俺の飯はうまいだろ」

「そうですね……昨日しこたま酒飲んだので、気持ちのいい朝食でした。ごちそうさまです」


洋介は手を合わせて軽く頭を下げた。ロイは一瞬驚いたが、洋介にはその理由がわからなかった。


「ふむ、変わった食礼だな。どうやら洋介は王国の人間でもないらしいが、いったいどれだけ遠くから来たんだ?」


 ロイの質問に、洋介は言い淀んだ。今までの感じからすると、東の果てとでも言っておけば追求はないだろうし、転移の話をするのはろくなもんでないのは過去読んだ異世界譚で学んでもいる。


 けれど彼には話してしまっていいような気もした。


 こんな領外のところに1人暮らしているし、暖炉にはロイと若い女性、その腕には小さな赤子が抱かれている写真が飾られている。


 今現在この家にロイ以外の生活の気配がないところをみるに、写真の中の2人はもういないか、何かしらの理由で別れているのであろう。


「そうですね…俺もまだちょっと…。理解はしたものの気持ちおいついてないんですけど、どうも俺は異世界から来たらしく、召喚されたわけでもなく歩いてきて、気付いたらここの藁の上だったん…ですよ」


 ちらり、ロイを見た。その顔は驚きに目を見開き、ただでさえ大きな彼の目が溢れるんじゃなかろうかというくらいだ。


「おまっ…ゲートをくぐったのか…っ!」

「ゲートってなんでしょう……酔っ払って、普通に帰り道歩いてて気付いたら寝てて。俺的には明日からの卒業旅行とか、ひとり旅のこととか、就職した会社のことが気になりすぎて……」


「ゲートってのはな、人が余裕で通れるような大きさの暗い入り口のことさ。誰かを待ってて、その誰かが通るか、誰かが出てくるかするとゲートは閉じる。けど、ゲートに入って戻ってきたやつはいないし、ゲートから出てきたやつも恐らく戻ってはいない、ゲートから出てくるやつは世界で名を馳せる事が多いが……帰ったとか、いなくなったって話はあんまり聞かねえ」


 洋介は戻ってきたやつがいない、と聞いて思わず唾を飲み込んでいた。どうやら帰れない系らしい。


「この世界にはちょいちょいゲートをくぐって人が来る。異世界人てやつだ。最後に聞いたのは50年は前だが…」


 ロイの話の途中、コンコンコンと窓が叩かれた。窓の向こうには白く大きな鳩のようなフクロウのような変わった鳥がいる。


「ちょうど新聞だ。こんなとこ住んでても一応世間に疎くならねえように、周りの国の新聞取ってるんだよ…。と、ごくろうさん」


「ロイ様ごきげんよう。今日はローレイ公国は休刊です。トラン王国とメルディブ聖国の新聞をお届けにあがりました」


 ガタンッ


「と、とりが喋った…!」


 洋介から出てきた言葉はあまりにまんまであったが、彼は驚き思わず立ち上がっていた。意図せず見つめた鳥のステータスは


◯ニュースレター配達鳥

遠方に手紙や新聞を届けるためだけに品種改良され、生まれた鳥

簡単な言葉であれば意思の疎通が可能


 驚きだ。


 品種改良するほどの文明であることも驚きだが、どうしたら鳥の声帯であれほど流暢に話せるのだろうか。

 そして新聞。遠目にみても薄い紙とわかるそれは、輪転印刷機のような大規模な印刷機があることを示している。


 文明としてかなり地球に近いか、ともすれば進んでいるのではなかろうか。


 このロイの家を見る限りでは家電的なものは見つからないが、ニュースレター配達鳥はかなりの衝撃である。荷物を持って飛べる鳥。そして喋る。


「おう、ありがとうな。お代だ。また明日」


 ロイはそう言って硬貨を渡した。一瞬しか見えなかったがステータスは表示され


◯世界通貨

白銅貨幣

銅80パーセント

ニッケル20パーセント

日本円にして150円相当


 ――銅!? ニッケル!? 日本の百円玉と同じじゃないのか! 金属を混ぜたりする事もあるのか……。


 洋介は衝撃に次ぐ衝撃で、もう一度椅子に座ると神妙な顔で一人頷いていた。

 大丈夫か?と声をかけるロイにも頷き返し、どうやらかなり近代的らしい、とボソボソと独り言で己の動揺を誤魔化していた。


「世界通貨に驚いてんのか? これは便利なんだよな。国と称しているところでは大抵使える。金という概念がない小さな村々もあるが、確かこれは五十年前にゲートから来たやつが開発したんだ。そいつはもう孫子に看取られて十年ほど前に死んだが、世界通貨はこの世界に根付いたというわけだな」


「その人は勇者ですか?」


「いや、そいつは違うよ。確かに俺たちから見たら革新的な事を色々してくれてはいったが、トラン王国で官僚として働き、魔王になるでもなく、勇者になるでもなく、公爵家のお嬢さんのとこに婿入りして大往生というわけだ。勇者を名乗るには、こっち来た時すでに年を取りすぎていたな。まあ肝心の魔王もいないんじゃ、勇者と言っても仕事がないだろ」


「おいくつくらいだったんでしょう?」

「来たすぐの時は、王に35歳だと話してたな」

「王に……というか、ロイさんはトラン王国で働いてたんですか? 騎士とか?」


「おお、そうだ。色々あって王国を出たが、近衛兵団団長だ」

「偉いさんじゃないですか…」


 洋介はなぜ、という言葉を飲み込んだ。聞くのがためらわれるのは、暖炉の上の写真のせい。


「前王が崩御して、息子が王位についてから、いろいろおかしくなっちまってよ。お前が気にしてる写真の……嫁と子供は、流行病で死んじまった。まあ流行病は王のせいじゃないがな。なんというか…」


「色々あったんですね……」


 流行病は王の責任ではなかったかもしれないが、その対策やらは王の責任だろう。

 洋介はまた暖炉の写真に目をやる。まだ若い写真の中のロイは朗らかに笑っていて、今まさに幸せなのだと言う顔をしている。


「まあ、なんだ。新聞読んでみるか?」


 ロイはまずトラン王国だな〜と床に新聞を広げた。

新聞の配置というか作り方が、まるで地球と変わらない。これもゲートをくぐった誰かの仕業だろうか。

 見慣れぬ文字が洋介にも読めるのは、ステータスのおかげだ。新聞を見つめたらステータスに日本語で表示された。


「新聞があるなんて、皆一様に文字を読める国なんですか?」

「貴族連中はな。金持ちの商家とかなら、貴族でなくても字の読めるもんは多いが。前王の時代は文字を皆が読めるようにしようとか、そういう動きもあったんだがな〜。現王は良き王とは言い難い」


「他の国でも同様に?」

「いや、メルディブ聖国だけはほとんどの者が文字を読めるらしい」


 あそこは閉鎖的な国でな、とロイは続けた。


「新聞の購読権を手に入れるのも苦労した。近衛時代の同期が猊下のお気に入りでな〜 なんとかコネを使って買っている」


 ――猊下、ということはメルディブ聖国は宗教国家なのだろうか……。


 疑問はたくさん降って湧いたが、洋介はいちいち質問するのをやめた。ステータスからも確認できそうな内容よりも、ロイの生の声が聞きたかった。


「ロイはなんで……国外で暮らすことにしたんですか? ここはどこの国でもないんですよね?」


「王国に嫌気がさしたというのもあるが。――妻も子もいない。自分だけの守るものがなくなった俺は……もはや国王を護るのも嫌になった。給料もなくていい、それなら自分が食って暮らすだけでいいと…まあギルドに入っても良かったんだがな、あれはあれでしがらみもある」


「ギルド! やっぱりそういうものもあるんですね!」

「なんだお前、冒険者ギルドなんてのは行き場のないゴロツキの集まりだ。入るつもりでいるならやめておけ」


 洋介は頭をかいた。デタラメな魔法や、未確認だが半端ないだろう剣術を活かすにはそこだと思ったのだが。困り顔の洋介を見て、ロイは大げさにため息をついて続けた。


 まあ、新聞よんでみろよ、と。


 洋介はステータス画面を見ながら、トラン王国の最近の情勢を頭に入れた。新聞は貴族向けに作られているようで、有益な情報とは呼べなかった。どこどこ貴族の誰々が婚約するとか、王様が狩りに出かけてなんとかの魔物を仕留めたとか。


「読むに耐えない内容だろう」


 ロイはすまんな、と口元に手をやる。彼はメルディブ聖国の新聞も広げてくれた。

 そこには猊下の慰問についてや、聖国お隣の国、ローレイ公国から使者がやってくること、トラン王国の悪政について書かれていた。トラン王国のくだらない貴族通信に比べ、こちらはかなり政治的だ。


「ローレイ公国の昨日までの新聞はありますか?」


「おう、これだ」


 ロイはソファーのテーブルの上にあった新聞を、他のものと重ならないよう広げてくれた。


 ローレイ公国の新聞にも、メルディブ聖国に使者団が出発したことが書かれている。他にはニュースレター配達鳥の飼育員募集や、どこかの店の広告まで。

 南の平原ではいつになく豊作だとか、今日の議会便りなんてものもある。トラン王国のお遊び通信に比べると、新聞として完成されているし、近代的である。


「新聞を発行しているのはこの三ヶ国だけですか?」

「他の国にもないことはないかもしれないが、ニュースレター配達鳥で手に入れられるのはこんだけだ」


 ――交通網はそこまで発達していないのか……


「今のところ魅力的に感じる国はないですね。今後の身の振り方を考えたいので、やっぱりロイさんちでしばらくお世話になってもいいですか?」

「おう、もちろんだ。ただし、雑用は頼むぜ」


 ロイが嬉しそうにニコニコとしていると、洋介はホッとした気持ちになれた。人里離れた所に出て、それが人のいいロイの家だったのは幸いだった。

 1人で野宿しながら行き場を探す、それにふさわしいサバイバルスキルは持ち合わせていない。


「もちろんです。魔法や剣を試したいので、使ってもいい剣とか、ちょうどいい場所があれば教えてください」

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