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勇者か魔王か選ぶ権利は君にある  作者: いんなみさんとこの奥さん
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015:トラン王国

計画の実行のためにバラバラで王国入りした洋介たち。街中やギルドに出るよりも、レオンの家に1度出たほうが安全だろうと言う事でレオンの家に飛び、そこで一旦解散した。

皆がそれぞれに決めたルートで城へ向かうため出て行ったのち、最後に外に出たマクシムと洋介、迷宮姉妹がレオンの家から出た時に、思わぬ事が起きた。


「ゲートから来た者は必ず1度、国王陛下と謁見しなければなりません。貴殿には国家侵略罪の疑いがかかっていますから、それを晴らすためにも今からお越し下さい」


そう告げるのは兵士ではなく、治安部隊だと名乗った。3名の男らは特に急かすでもなく、森での一件とは関わり無くもともと洋介の事を探していたような口ぶりだ。


「ゲートを監視する魔法でもあんのか?」


「もちろんです。治安部隊の仕事は王国の安全を確保する事にありますから」


マクシムに頷いた彼らは、どうしますか?と洋介に向き直った。

選択肢を与えているように見えて、そこに選べる答えはひとつしかない。有無を言わせぬ物言いに、洋介は思わず眉間を寄せたが、目的は同じなのでついていくのがいいのかもしれない。


「じゃあここで別れようか」


洋介が言う。

城門付近まで送ってもらう予定だったが、その必要もなさそうだ。


迷宮姉妹は納得いかない顔をしているが、ここで発言する事は控えているようだ。

実にお利口さんである。


「では、こちらへ」


「申し訳ないがしまっている武器は城門で預からせてもらう」


「あ、ああ。武器は持っていない」


洋介は肩を竦める。

治安部隊の3人は信じられない、と顔をしかめていたが特にそれ以上つっこまれなかった。

こんな事もあろうかと、武器はアイテムに移したのでせっかく覚えた『しまう』だがまた空っぽだ。


後ろに2人、前に1人とガッチリ固められ、城門までは徒歩だった。

魔法の乗り物でも呼び出してくれるのではと期待したが、そんな物はないのか、それとも使ってくれないのか。

案の定、城門ではまず武器のチェックが入った。

門番が腰に携えた杖を手に持ち、ぶつぶつと聞き取れないほど小声で呪文を唱えると、洋介の体が光り門番に


「何も持ってないのか?」


と呆れられた。

ありえない事らしい。子供でも短刀くらいもっている、と言うのでなんて物騒な、と心の中で反論しておいた。


「ここで待たれよ」


治安部隊は報告に行き、城の警備らしき兵士に謁見控室を案内された。

特に森の迷宮の件は知れていないのか、洋介の面が割れてないのか、だれも何も言わないし特に刺々しさもない。

ゲートを通ってきた勇者かもしれない人物という事で、無体な扱いをされる事はなく、謁見が終わるまでは接待もできないのか給仕たちは居心地悪そうにソワソワとしている。

お茶を出される事もなく、しばらくして治安部隊がどうぞ、と言うので洋介は立ち上がりぐっと伸びをした。

ロイは無事に入り込めただろうか。



謁見の間に入った洋介は地図を開く。

もちろんこれで他所へ飛べない事は分かっていたが、仲間たちが無事に目的地に居るのか確認しなければならない。

場合によってはここでの時間を引き伸ばす必要がある。


何か国王が話し始めた。

洋介の地図にはロイ達が無事書架室に到着しているし、レオンも謁見の間に表示があるので、吹き抜けのあたりに身を潜めているのだろう。

書架室の丸印は忙しなく右左と動き回り、すぐに書架室を出た。


「俺は……魔王…大魔王ヨースケだ!!!!」


洋介は出来るだけ偉そうに見えるよう、ふんぞり返ってみせる。

一変に雰囲気の変わる謁見の間。


「まっ魔王だと!もはやお前をここから出すことは叶わん!!!皆かかれぃ!!」


立ち上がり国王が洋介にむけて手を振り下ろす。ガチャッと大きく鎧の音が響く。


洋介は謁見の間に足を踏み入れた瞬間、王の背中にある壁の装飾に別の意味で目を奪われとても不愉快な思いをしたが、結果的に騒ぎを起こす事はできた。

成果としては上出来だ。


ロイとマホガニーの丸印は王の私室から真っ直ぐに壁らしきところも突き抜け始めた。

どうやら秘密の抜け道へと無事入れたようだ。

それをみて洋介は手を挙げた。

それが合図である。すかさずレオンは移動魔法を放ち、湖へと飛んだ。


「追跡しろ!だれか!追跡魔法だ!」


国王の怒鳴り声が響いて、数名が杖を振り何かを唱えはじめる。

レオンが言っていた。

移動魔法を追跡する魔法は常時展開できるようなものじゃない、と。

移動魔法を使うのと同じ、もしくはそれ以上に魔力を使う。

けれど移動魔法を目視してから追跡魔法を展開しても遅いのだ。予測して発動ギリギリまで溜めて展開しておくものだと、レオンはいっていた。

あまり使い勝手はよくないらしい。


光となり消え去った洋介が居た場所に、国王は懐刀を投げつけた。


「なんという失態か!!謁見の間で移動魔法など!!どういう事だ!技師を呼べ!」


国王は玉座を叩き、怒鳴り散らす。

近衛兵たちが顔をしかめたくなるのを必死に堪えているのも気付いていない。


「申し訳ございません!どの部屋も術に異常はなく、外から他の魔法使いが放ったものと思われます」


跪いて顔もあげないまま、技師、と呼ばれた男は小さく肩を震わせていた。

この城の魔法を制限する術式を管理しているのは彼だ。

少なくとも数年前までは外から魔法を打ち込むようなことはできなかった。

以前、技師は30人以上いたのだが、今現在はたった6人で広大な城を魔法制御するための術式を展開している。理由もわからぬまま挨拶もなく、いつの間にか1人2人と技師が消えていく。そんな中、指定した空間で発動する魔法を消去する術式から、指定した空間で魔法を発動できなくする術式に変えねば術式展開自体ができなくなる。

理由は簡単だ。

後者の方が制御がたやすく、費やす魔力も少なく済むからだ。

しかし、前者の問答無用で魔法が消される術式と違い、後者では発動ができないだけで、一歩そこから出たら中に向けて魔法をはなてるようになってしまった。


もちろんこの変更は国王に伝えた。

認証の判も押されていた。

技師の男は、いつの間にか王に髪を掴まれていた。


彼は思った。怒り狂い、髪を引っ掴み振り回し、床に打ち付け罵詈雑言を浴びせてくるこの人は、本当にこの国の国王なのだろうか。


床に打ち付けられるたび、視界に血が飛び散る様子がうつる。自分の血だとわかっていたが、抵抗しても殺されるだけだとわかっているのに、騒いだところで何も良くなりはしない。

ゴン、ゴン、ゴン。

何度か床に叩きつけられて、折れた鼻の感覚がなくなった。

歯が完全に折れて飛んだので、打ち付けられた時に痛むこともなくなった。

フカフカのカーペットのおかげで幾分マシだが、打ち付けられているのは石の床だ。


「ああーー!!!何という嘆かわしいことか!!このような無能がおるから!この!この!愚鈍な奴め!早くどこへ行ったか突き止めろ!」


国王はパッと手を離し、3度、男の頭を踏みつけると何事もなかったかのように、玉座の奥の戸から謁見の間を出て行った。

たっぷり数秒後に、急いで、しかし静かに皆倒れ込んで動かない技師に駆け寄った。


「ひどい怪我だ。ここでは治癒もできないから急いで救護室に運ぼう」


「すまん、何もしてやれなくて‥」


「よく耐えた。お前は最高の技師だ」


小声で皆が口々に言っていた、それだけで技師の男は救われる。

そうして彼の意識は暗転した。




-





洋介が泉に到着したとき、やや遅れてロイとマホガニーも到着した。


「ヨースケ、追跡はされていないようですが、念のため国外に飛んでください。それからロイのうちへ行きましょう」


レオンの提案にコクリと頷いて、洋介は地図を開いた。


「しかし城内の様子がおかしかったぞ。私室の近衛も居ないわ、道中2、3人叩く覚悟で行ったら1人もすれ違わんかった」


ロイの言葉にマホガニーも深く頷いた。


「謁見の間にはかなりの数人がいましたよ。ヨースケも囲まれるくらいに」


「そこは前のままなんか‥じゃあ城内の警備を減らしたのか‥なんでそんな事」


「単純に人が減ったんだろうよ」


マホガニーのため息に、それもそうか、とロイは同意した。

自分が城を出た時の状況が続くならば、臣下が離れていくのは当然だろう。

自分のように王国を捨てられなければ、近衛や警備隊を辞めるのは難しい。やめる時に様々な制約を課せられるため、定年や健康上の理由でもない限り自ら去る者はほとんどいない。城の外で活動する軍部であれば、もう少し話はかわってくるのだが。


「じゃあとりあえず公国経由でいい?」


洋介は皆が頷くのを確かめて、ヤマブキが居た公国の外れを選択しようとした。

けれど唐突に耳に入ってきた声に、ぴくりと手がとまる。


皆、敵が追ってきたのかと、反射的に武器を構えた。

洋介はどうすることもできず、ステータスに触れる手を下ろした。




「先輩!先輩じゃないっすか!」



間違いない。

少し老けた印象はあるが、間違いなかった。





「友康‥‥?」





最後に別れた日よりも、少し歳を重ねた後輩がそこにいた。

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