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勇者か魔王か選ぶ権利は君にある  作者: いんなみさんとこの奥さん
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000:エピソード・ゼロ


 異世界転移もの、それは主人公が大抵チート能力を有しているものである。


 彼、榊原洋介も例に漏れず、伝説の勇者から悪の大魔王まで思いのままのチート能力を与えられこの世界に降り立った。


 ガイド役である神的な存在(転移の犯人)こそいなかったものの、幼少期からゲーム漬けの洋介にとって、ステータス画面が見られる、という機能1つで世界征服も可能である。


 そして彼は今、世界征服か伝説の勇者の二択を手にして、ゲーム的に言うなればルート分岐ポイントにぶち当たっていた。


 どちらがハッピーエンドか。

 もしくは両方バットな鬱エンドか。

 選択肢を投げかけてくるのはこの国の王様である。


 金銀パールプレゼント。洋介の頭の中では昔懐かしいどこかで聞いたフレーズが流れ続けている。母がよく口ずさんでいた。

 呼び出され、半ば無理やりに連れてこられた王城。

ここは謁見の間である。豪華絢爛とはまさにこの通り。この国の財力を示すかのごとく、壁には凄まじく金のかかりそうな装飾。

 天井の素晴らしき絵画。

 こちら来てから初めてお目にかかるフッカフカの絨毯。絨毯が向かう先はもちろん玉座である。


 洋介は目を細めよろめいた。


 ――なっ……なんちゅー悪趣味な飾りなんだっ…!


 彼がそう思うのも無理はない。王の背後の壁には金の土台にはめこまれたパールがびっしりとくっついている。

 その小さな集合体は、洋介の内の何かをひどく刺激する。


 ――ああ〜! ぎーーーってやりてぇ!


 洋介はあのパールの壁をぎーっとこそいでやりたいのだ。もはや王に質問されたことも忘れそうだ。

 

 全身に悪寒が走り、地団駄踏みたい衝動の洋介。そんな彼を見て、国王は苛立ちを隠しきれないでいる様子で、先ほど開口一番に言った言葉をもう一度言う。


「もう一度聞こう……そなたは我が国の勇者であるか? それとも魔王なのか?」


 コンコンコンと王の指が玉座の肘掛を叩く。左右に整然とならぶ近衛兵にも緊張が見える。


 洋介はパールの群衆から目をそらして咳払いをした。



「俺は……魔王…大魔王ヨースケだ!!!!」



 彼は腰に両手を当て、ドヤァと踏ん反り返ってみせた。そして魔王というワードを聞いた謁見の間は、一瞬にして混沌とした雰囲気にかわり、皆があっけにとられている。

 ざわめきの中、近衛兵たちは一斉に剣を構え、王は慄きに思わず立ち上がる


「まっ魔王だと! もはやお前をここから出すことは叶わん! 皆かかれぃ!」


 王は右手を高く上げその手を洋介に向けて振り下ろす。


 ガチャッ


 くどすぎる装飾の謁見の間に近衛兵の鎧が一斉に鳴り響いた。




 ――――さて、すこし時を戻してお話ししよう。


 大魔王ヨースケが、榊原洋介であった頃。ニートでも引きこもりでもなかった彼が、大学を卒業しサークルの後輩たちに見送られ、散々酒を飲んで帰宅する夜のこと。


「先輩ほんとにかえるんスか?」


 髪をピンク色に染めた後輩が洋介に言う。彼はスッと洋介の肩に手を置いた。表情は名残惜しそうだ。


「おーバイト辞めたし、タクシー代はねぇよ。悪いが俺はベッドで寝る」


 洋介は肩に置かれた後輩の手をそっと下ろして握手をした。


「なんすかこれ〜」

「いや、お前には世話んなったな。それ以上に世話もしたが」

「女の子紹介して欲しい時はまた声かけてください」


 後輩はニヤリと笑い、手をぎゅーっと力いっぱい握り返した。


「洋介じゃーな。また明後日空港で」


 洋介の友人がそう言って彼に手を振った。それに合わせて皆も口々に彼に別れを述べ、手を振る。


「おーじゃーな」


 洋介はそれに手を振り返し、15人ほどのその群れから離れ、帰路へ。


「次どこいく?」

「あ、俺朝まで開いてる店知ってますよ」


 耳に馴染んだ声が遠くなっていく。


 今からしばらくは春休み。明後日からはサークルのメンバーと卒業旅行にヨーロッパをめぐる予定だ。


 ふらふらとした足取りは重いが、彼の気持ちは羽根のように軽かった。

 卒業旅行が終われば今度はひとり旅。趣味の世界遺産めぐりをし、仕事が始まる直前は惰眠をむさぼる予定だった。

 そして初任給が出たら、映画好きの父と母にホームシアター設備を買ってあげる予定なのだ。


「あ〜 歩くのだりぃ〜。タクシー捕まえてぇ〜」


 ほとんど足を引きずるようにして、洋介は夜の街を歩く。ザッザッと靴底が擦れる音がする。

 お気に入りのスニーカーだったが、そんな事も気にならないくらいには、彼は酔っ払っていた。


 だからだろう。


 彼は自分が、真っ黒な穴に向かって歩いている事に気がつかなかった。

 前方には見るからに怪しげで危険そうな黒い穴が空いているのだが、彼はそれに気付く様子はなく、そのまま人2人分ほどの大きな穴に入っていく。


「お、なんだ、急にあったかくなったな……前の方も昼間みたいに眩しいような…」


 ほんのりと春の陽気を感じる。すると急激な睡魔に襲われて、酒の力もあったのか抗えず、洋介の意識は沈み込んだ。

 ふんわりと何かに包まれるような心地よさに、彼は身を任せ目を閉じる事にしたのだ。



 ――かくして彼は異世界転移を果たした。

ゆるりとやっていきます

よろしくお願いします

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