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裏物件

作者: 貴名 百合埜

最近はよく聞くようになったよね、事故物件って言葉。

ネットでは専用の検索サイトも出来ている。


俺ら賃貸物件の仲介業者の間では事故物件とはまた別に、いわく付きの物件を呼ぶ総称があるんだよね。

事故物件以上の問題がある、客に紹介が出来ないレベルの不動産。



事故物件の場合、事故が起きた直後の次の入居者には告知義務があるんだよね。

契約前に必ず言わなくていけないわけ。


「以前にこんな事件が起きた部屋ですけど、住みますか?」


でも実際にこんな事言われたことある人います?

いないよね。

じゃあ何故そんな事を言われたことがないのか。

それはね、俺達が先に住んじゃうからなんだよね。

事故物件が舞い込んできたら

それをまず俺たち仲介業者の独身社員が社宅代わりに格安で住んじゃうわけ。

会社によってそこらへんは差があるけど、俺んとこだと家賃は一律3000円。

そして3ヶ月程で部屋を空けて別の部屋に行く。それで賃貸ロンダリングの完成。

もう次の新しい契約者には告知義務は無くなるわけで

堂々と賃貸物件として紹介が出来るようになる。


正直、契約後に入居者がどうなろうと俺たちには関係はない。

むしろすぐに引っ越してくれた方が、新しくまた紹介して仲介料がすぐに入ってむしろ美味しい。同じ考えの大家も多くいるよ。


そして俺達でも、さすがにこれを紹介するのは無理だろうってヤバイ物件が

通称、

【裏物件】

と言われる物なんだよ。

そして不思議なもんで、うちの会社やたらその裏物件が集まってくるんよね。

俺も裏物件で色々体験するうちに

ある意味慣れてきたんだ。

心配しなくてもこちらから客に対して裏物件を進めることはない。

客側からこの物件を紹介してほしいって指名がない限りね…


せっかくだから印象に残ってる裏物件を紹介していこうと思う。

話を聞いてみて是非住んでみたいと思ったらいつでも連絡くれたら紹介するよ。



これは俺がこの業界に入って初めて裏物件に住んだ時の話。


部屋は駅から徒歩10分圏内で日当たりも良好。

最寄り駅は都心部まで乗り換えなしで15分と便利な為に人気の地区。


マンション形式の建屋で4階建ての4階。エレベーターが設置されていないのがマイナスポイントになる。

部屋の間取りは人気の高い2LDK。築40年だがリノベーションはされたばっかりで内装は新築とそう変わらない。

近隣で同様の物件だと家賃は8万前後になる。


この部屋で起きた事象は……殺人事件。


長年引きこもっていた、いい年をした息子を高齢の母親一人で養っていたが、生活が厳しくなり息子にも働いてくれるように頼んだ事で逆上した我が子に母親が殺された。

当然、息子はすぐに逮捕されてもう刑務所にでもいるんだろうね。

最近割とよく聞く事件だよな。


事件後、3年間ほどは誰にも貸出されていなかった。

大家が嫌がって競売に掛けたためにね。

ようやく買い取られて、新しい大家が俺の会社に仲介を依頼してきたって流れ。


早速俺はこの物件に引っ越してきた。

リフォームされたばっかで、室内の匂いは新築のそれと変わんないレベル。

正直、この部屋は当たりだなって思った。

近隣の相場と同レベルの家賃設定でも問題ないと思った。


欠点を強いて挙げるとすれば、部屋の間取りの構造だろうか。

元々はここは広いワンルームだったのを2LDKにしているために、玄関を開ければすぐにリビングだった。

廊下や扉がない。

それでも角部屋なため、それぞれの部屋には窓があり自然光も充分。

どれだけの期間をここで暮らすのかは未定だったが、それなりに生活できそうだった。


年に何度も引っ越すため、俺の荷物は軽トラック1台で余る程度しかない。

洋室と和室がそれぞれあったが、片付けるのが面倒な為、ほとんどを俺はリビングで過ごしていた。


部屋にも慣れてきた頃だったかな。

俺はあることに気づいたんだ。


音って言えばいいのかな。

夜中になるとさ、音が聞こえてくんのよ。

そんなに大きな音じゃない。耳を済ませれば聞こえてくるようなレベルの音。

どう言えばいいんだろう。ぼこぼこぼこぼこって感じの音なのよ。

水の中を空気が通るようなね。


その音が始まると今度はドア付近からカチャンカチャンって音がなる。

これは割とはっきりした音。


この2つがいつもセットになって毎日ほぼ同じ時間に起きていた。

俺も慣れてきてさ、そろそろかなって思って耳を澄ましたりするようになってきた。


それから一ヶ月くらいしてからかな?ぴたっとそれらの現象が止まったんだよね。

止まったら止まったで気になってさ、その時間帯には起きて待ってたんだけど、引っ越すまでもう起こることは無かった。


そして次の物件に移動する日が来て、俺は部屋を掃除していた。

トイレやお風呂も掃除して水を流す。するとお風呂の水が流れない。

どうも排水が詰まっているようだった。


持ってきた配管クリーナを打ち込んでみる。そしてよくあるゴム製のやつね。

ラバーカップって言うんだけど、あれでスッポンってやったのよ。

するとさ、逆流してきてさ。

ゴミとかヘドロと一緒にさ、ぶわーって吹き出して来たのよ。

髪の毛がさ。長い白髪交じりの。


俺が呆気にとられていると、それらが一気に流れ出したの。

勢い良すぎて、空気混じりでさ。

ゴボゴボゴボゴボって。


嫌な予感してさ。

大慌てで部屋の片付けを終えると俺は暗くなる前に部屋を出たわけ。

そして、次の部屋に向かう途中のコンビニの駐車場で休憩してる時に調べたのよね。


あの部屋の事件さ、母親は風呂場で殺されてたわけよ。

頭を浴槽に沈められてさ溺死させられたんだって息子に。


息子んことも調べた。

あいつ、刑務所に入ってなかったんだよね、なんでも精神障害って判決出て病院送りになったってさ。

そしてもうとっくに退院してた。


なんで退院したのを知ってるかって?

この前、少し離れた場所で起きた無差別に人を刺した事件覚えてるだろ?

なんでも死にたいから死刑になりたくて適当に人刺したってやつ。

犯人さ、その息子だった。


その事件があった日。

最後に音が鳴ったあの夜のすぐ後だった。


見ていたんだろうね俺を。郵便受けを開いて俺を。毎晩毎晩同じ時間に。

聞こえてたのは郵便受けを開ける音だったんだ。


もし俺がその時玄関を開けていたなら、刺されていたのかもしれない。



きっとあいつはまた来ると思うよあの部屋に。

死刑にならなかったんだよ。

また病院に入ったようだったもん。そのうち退院するんだろうね。



この物件に興味ありますか?











以前からよくある事故物件系で書いてみました。このシリーズはまたネタを考えて新しい物を書いてみます。読んでいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] リアルな怖さが伝わってきます。怖くなってしまいました。 [一言] 応援してます。
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