6、念力にも負けず
私は今人生の大きなイベントに遭遇していた。
「俺の知り合いの息子だ。仲良くするんだぞ」
「・・・・」
「・・・う、うん」
無言でこちらをじっと見つめる少年と呼ぶには幼い男の子を目の前に私は昨日のやり取りが頭をよぎった。
昨日のお昼を食べてすぐ、いつものように床の上で積み上げられれた本の山に囲まれて読書をしていると突然抱き上げられた。
なんだよー、私の癒しの時間を邪魔すんのかー。
「なにー?」
かなり嫌そうなトーンで言ってみたがお父さんは全く気にしてないようだ。それどころかほっぺに頬づりしてきやがる始末だぜ。
「陽菜、幼稚園行きたくないよな。」
「・・・へ?」
・・・お父さんよ、最後に[?]を付けるのを忘れてるぞ。そのせいで言い切りの形になってますよ。
幼稚園かー、行ったことないから興味あるんだよねー。
「べつにいいやー」
しかし行かんぞ私は、何故なら頭脳はお子様では無いのに無理に合わせるとか絶対苦痛だろ。
「けど・・・・・・・・・おともだちはほしい」
私を降ろしたあと「・・・そうか」と短く言い、涙目でお父さんは部屋から出て行った。
え?何?私が悪いの?なんか失恋した女子高生みたいだったけど私が悪いの?でも今から友達作ってもまだ相手は小さいから合わせるの大変そうだよな。暫くボッチでいいや。
・・・なんて思ってたのに目の前には子供がいる。真っ黒なふわふわとした肩に着くぐらいの髪の毛は前髪も長く少し目にかかっている。
「じゃあ、あとはお若い二人だけで・・・」
「・・・」
ちょ、今二人きりにすんな。いつもの過保護はどこにいったんだよ。さっきからその子無言だから、幼児にして無言の圧力をこっちに飛ばしてるから。幼いながらに物凄い威嚇してるから!!
「えっと、・・・よろしくね」
ちらりと伺う様に言ってみるがひたすら無言。下を向いて目すら合わせてくれない。 駄目だ、きっと私は子供向いてないんだ。
そう思いかけたときだった。
男の子は少しだけ顔を上げてこっちを見た。その瞬間私は電撃の様なものを浴び気がした。。
何この子めっちゃ可愛い。
それは正に私が母性に目覚めた瞬間だった。ゆっくりと男の子に近づいて手を伸ばすと男の子は一瞬ビクッとして、次には私は宙に浮いていた。
比喩とかじゃなくてマジで。全身に食らった衝撃で壁に叩きつけられたんだとわかった。
「くぅ・・・いったぁ」
この子は超能力が使えるんだ。普通の子供だったら泣いて親に助けを求めるだろう。だが私の涙はそう安くはない。
立ち上がり男の子のもとへずんずんと歩いていく。
このときやっと男の子の表情が変わった。眉間に皺を寄せて信じられないものを見る目で私を見てくる。
「っ!」
「うわ!」
また手を伸ばすと壁に叩きつけられた。だけど私は諦めない。近づいては飛ばされて、また近づいて、また飛ばされて、近づいて。
何度も続けるうちに男の子は眉間に皺を寄せ歯を食いしばりながら涙をボロボロ流し初めた。
それでも私は手を伸ばした。
最初手を伸ばしたのはただ頭を撫でてみたいという気持ちだったから、でも今はただ抱きしめたいと思った。私にはあの子が迷子の子供か何かに見えた。
私は前の人生で一度だけ行ったことがある遊園地で迷子になった。凄く恐くて、不安で、泣きたくて。だけど、お母さんが見つけて抱きしめてくれたとき私は心のそこから安心した。
やっと男の子に届いた手を背中に回して力いっぱい抱きしめた。自分の体が痛いなんて気にしない。とにかく抱きしめた。
「あったかいね」
今は春でそんなに寒くないし日によっては暑いくらいだ。だけど二人でくっついていると何だか胸がポカポカして気持ちよかった。
「・・・・・・・・・ぐっず、びっぐ・・・ゔえぇぇええん!」
男の子のだらしなく力の抜けて垂れ下がっていた腕に力が入り私を抱きしめ返してきた。そして大声を張り上げて泣いた。