4、パパとママ
風が頬を触れる中いつもの白衣とは対照的な真っ黒いスーツ姿の悠介さんに抱かれて、私はぼんやりと悠介さんの顔を見た。
その顔には表情が無くていつもの薬の匂いも薄かった。
チラリと横眼で寝ている父と母を見る。寝ている姿はいつもと変わらない。
本当に本当に綺麗な自慢の父と母だ。
「あぅー」
「・・・どうした陽菜?」
昨日は天気が良かったから私と父と母の三人で歩いて買い物に行っていた。たしか父が私を母に渡したときだった。急に大きな音が聞こえたと思ったら真っ暗になった。
次に目が覚めたときには悠介さんの白衣の匂いでいっぱいの部屋で、私は悠介さんの腕の中にいた。
体中が痛いし、よくわからない気持ちになってくる。
ヒソヒソと聞こえてくる言葉が嫌でも頭に入っていく。
「まだ小さいのにねぇ・・・」
「かわいそうに・・・」
「トラックが突っ込んでくるなんて・・・」
あぁ、もうやめてよ。
父、いつもみたいに高い高いしてよ。今なら特別大サービスでスマイルふりまくよ。
母、いつもみたいに私を抱きしめてよ。母の匂い大好きなんだよ。
ねぇ、違うんでしょ?私が思い出した悠介さんが荒れたキッカケって記憶違いなんだよね?
【唯一心を許していた兄夫婦が事故にあい、助けることができず自暴自棄になってしまう】
「あの子だけ助かってもねー」
本当にその通りだ。記憶があったとしても赤ん坊の私にできることなんて限られてはいるが、きっと私が朝からぐずれば買い物は中止になっていただろう。
なんでもっと早く思い出せなかったんだよ。きっともう悠介さんのは壊れてしまっただろう。私が壊し、
「っせーよ・・・」
真上からの声に私の思考は止まる。そしてその場にいる全員の視線が悠介さんに集まったのがわかった。
「うるせえぇんだよ!!!!!!黙れ!!!!!!!!!」
目から涙をボロボロと溢れ出しながら悠介さんは力強く叫んだ。その顔はさっきまでの無気力な顔とは違いちゃんと表情をもっていた。私をしっかりと守るように抱きしめなおすと声を出して泣き続けた。
悠介さんは小さい頃に超能力が強すぎて化け物扱いされ、捨てられたところを遠い親戚の家、つまり父の家に引き取られた。父の両親は高齢だったため歳が離れていた父と父の幼馴染の母が悠介さんにとって本当の両親のような存在だった。
そんな大切な存在を一気に失ったんだ。幼い子供のように泣く悠介さんを見て、きっと私の悲しさはこの人の何分の一かなんだろうと思った。
だけど悠介さんの涙が頬につくたび、泣き声が耳に届くたびに2人との思い出が頭の中を流れていく。
もっと一緒にお昼寝したかった。もっと一緒に笑いたかった。もっと一緒に泣きたかった。もっと一緒に遊びたかった。もっと一緒に生きたかった。
もっと一緒に家族でいたかった。
「ふえぇ!!ふぎゃああぁぁぁあああ!!!!!!!!!」
そう思ったらあとからあとから涙が止まらなくなった。もう、目が溶けちゃうんじゃないかってくらい泣いた。悠介さんと一緒に声を上げて泣き続けた。
空にいる二人に声が届くように。
大好きだったよ。大好きだよ。最初は戸惑ったけどあなた達は正真正銘私のパパとママだよ。