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僕は犯人じゃない  作者: 霜雪 雨多
7/8

4時間目 推理 (決して国語ではない)

「規律、霊」


日直、漢字おかしいぞ!

少しの間を置き、困ったような声で


「…着席」


思いつかなかったからって、ボケをあきらめるなよ。

そして全員スル―ですか…


「では早速、『走れウロボロス』の続きから入りたいと思います。教科書百十ページを開いてください。」


『走れウロボロス』とは、かの有名な太宰 賭の代表作である。

主人公のウロボロスになんとなく自分の状況が重ねられる。

彼もあまたの試練を乗り越えていったのである。

しかし!

彼と違うのは、肉体労働ではなく頭脳労働をしなければならないところだ。

つまり、この試練は気合じゃ何とかならないってこと!

夜九時には寝なくてはならないので、考える時間はすでに半日もない。

『走れウロボロス』の授業は受けたいが、推理してみようではないか。

それじゃあ、あの人を呼んでみよう。せーの!

助けて~優斗くうん~


「優斗ではなく、ホームズ優斗と呼びたまえ。ア○パンマンみたいに呼ぶのはいい加減やめてくれないか。」


茶色いマントをはおって・・・はいず、鹿撃ち帽をかぶって登場してきた。

彼はおれの脳内探偵である。

そこ、ツッコミを入れるのは無粋だぞ。


「で、どうした?テストの答えを教えるために呼んだのならお断りだぞ。」


「そんなわけないじゃないですか~お願いしますよ~」


それでも疑いの目を向けてきたが、彼に事件の概要をかいつまんで説明する。


「ふむ。つまり問題なのは、犯行に及んだタイミングと、薬品の調達の仕方なのだな。どちらから考える?」


「犯行のタイミングで。」


すると、意地の悪そうな笑みを浮かべる。


「お願いしますは?」


「…お願いします。」


「よし、では考えてやろう。」


ホームズに頼るたびに思うけど、性格悪いな。いや、これもおれの一部なのか。


「まず考えなければいけないことは何かな。ワトソン君?」


そうか。今おれはワトソン役なのか。では答えてやろうじゃない。ワトソンはホームズよりも少しだけ知能が劣るのが望ましいと聞いたことがある。しかしワトソンが間抜けな時代はもう終わったんだ!


「そのボールペンは一体いくらするのか!」


「やはり愚鈍だな。君は優秀な助手だ。」


そう言って気の抜けた拍手をされる。

褒められると照れる。

ところで「ぐどん」ってどういう意味なんだろう。後で調べてみようか。


「正解は、ボールペンがいつまで無事だったかということだ。」


なるほど。


「高美が言うには、たしか2時間目が終わった時までは無事だったそうです。」


「被害者自身での証言か。自作自演ならいくらでも時刻をごまかせるが、少なからず被害を受けているからな。その可能性は考えにくいだろう。」


自作自演は考えなくていいようです。

高美だったらこんな濡れ衣を着せるだなんて回りくどい手を使ったりせず、もっと直接的なことをするだろう。


「ということは、2時間目が終わってから十分、3時間目で五十分、ランチで二十分の、計一時間二十分の間ですね。」


しかも、何人か教室に戻っているのでめいっぱい時間は使えない。


「いや。2時間目のあと、犯行の準備をする暇はない。君以外のクラスメイトは授業に出席していたのだろう。つまりランチの二十分しか時間がないのだよ。」


いわれてみればそうだが、果たして満足に溶かせたのだろうか。

いや、だからこそあんな中途半端な状態でボールペンが残ってしまったのだろう。


「ランチの途中、トイレでときどき席を立つだろう。その人を君は覚えているかな?そうだ。人はそんなことをいちいち覚えていたりはしない。」


何も言ってないぞ。返答を待てよ。


「自然に席を立てれば、あとは犯人の独壇場だ。教室に行って犯行を終えるだけでいい。」


「肝心の薬品とビーカーはどうすればいいんですか?」


「ワトソン君、君はまだ薬品があったと思っているのかい?」


呆れた顔でおれを見据える。

どういうことだ。


「薬品など存在しなかった。犯人はボールペンをすり替えたのだよ。」


「すり替えた?」


「普通に考えて、物を溶かせるような危険なものを手に入れることは難しい。そこで、犯人はそのボールペンを家で加工したのだ。時間さえかければあらかじめ準備することはできるだろう。時間にして三〇秒もかからない。」


こうもあっさり謎を解き明かしてしまうとは、さすがホームズ。頼りになるではないか。


「で?」


期待の視線を送る。


「そのキラキラした昔の少女漫画のような目をやめたまえ。虫唾がはしる。」


お嫌いですか。そうですか。


「ところで、『で』とはなんだ?」


全く。ホームズさんはとぼけるのがうまいんだから。


「だからあ、はやく犯人を教えて下さいよ!」


ホームズの顔がピキッと凍った。

あれ、どうしたのだろうか。


「犯人とは、こここの事件の犯人のことかな?」


それ以外に何があるというのだろう。


「まさかここまでお膳立てしておいて、『すまねえ。犯人がだれか考えてなかったぜ!』…なんてことはないでしょうね?」


「…」


「それに、硫酸を手に入れる機会はあったみたいですよ。すり替えたと断定するのは根拠に乏しいと重みjますよ。」


「ああ、それはあり得ない。それだけは断言できる。」


何でもないことのようにホームズは答えた。

ありえないだと?

どういうことなのかと問いただそうとすると、ホームズは突然おれに背中を向けた。


「すまないね。新たな事件がわたしを呼んでいるようだ。ではさらばだ!」


そういうと、どこかへ走り去ってしまった。

えーと、これはどういうことかな?

本当に事件に向かったということはないだろうから…

手をポンとたたく。


「あのやろう逃げやがった!」


黒スーツのアンドロイドのように追跡したいが、もう姿は見えない。

ホームズも肝心なとこ抜けてよるな。やっぱおれだから仕方ないのだろうか。

そうなると自力で考えるしかないのか。

うーん。犯人は…

とそのとき、頭部に衝撃が加わる。


「うごふっ」


何だいまのは。

現実にもどり上方をみると、眼鏡を光らせながら辞書を構える国語教師の姿があった。

さっするに、辞書が頭に振り下ろされたようだ。

「起きましたか?」

いつのまにかおれは寝ていたようだ。


「はい!おめめぱっちりです!」


「寝るのはいいですが、せめてばれないようにしなさい。」


そうなんだ。寝ていいんだ。

近いうちにステルス能力を身につけよう。


カチッ

唐突に、脳のどこかでそんな音がした。

なんと閃いた!


「I got it !」


「授業を妨害する人は東京湾に沈めないといけませんかね。」


「申し訳ございませんすいませんどうぞ授業を進めてください。」


みんな、最近おれに厳しくないか。


「ワトソン君の頭でわかるわけないだろ。」


突然脳にせせら笑うような声が響く。

うるさいぞ。偽ホームズ。

きっと先ほどの辞書によるチョップの角度がよかったのだろう。

今すぐに向かいたいが、今度授業を妨害すると人生が物理的に終わってしまう。

はやる気持ちを抑えつつ、『走れウロボロス』の授業を受けるのだった。



別に浅間くんは二重人格というわけではないです

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