昼休み
教室に入ると1ヶ所に人だかりができていた。
高美の席があるあたりだ。
どうやらぼくが食べ終わるのが一番最後だったようで、教室にはほぼ全員が集まっているようだ。
「な、なんなのよこれ!誰がやったの?白状しなさいよ!」
高美が声を張り上げ叫んでいる。
どうしたんだろう?
疑問に思い、人の山をかきわけのぞいてみる。
すると、そこには高美の席があり、机の上にはなぜか中が空のビーカーが置いてある。
そして、もう一つ置いてあるものがある。
表面が溶けた、高美のボールペン。
たしかに、彼女が朝自慢していたボールペンだった。
原形をとどめていないというほどではないが、滑らかだった表面はデコボコしていて、過去の美しさはどこにもなかった。
教室には高美のどなり声だけが響き、クラスメイトには沈黙がただよっていた。
「先生に報告してきた方が…」
誰かが呟いた。
「ダメよ!この間も純金下敷きの件で怒られたのに、また怒られるわきっと!」
純金下敷きとか、柔らかすぎて下敷きの役目を果たせるとは思えないんだが。
「最後にこのボールペンを見たのはいつだ?」
そう聞いたのは上野だった。
「…二時間目が終わったときが最後よ。体育だったし、筆箱はそのまま置いていったわ。更衣室で制服に着替えて、体操服を置きに教室に戻るのも面倒だったし、そのままランチルームへ向かったわ。荷物を持ってね。昼食を食べて、教室に戻って見たらこうなってたいわ。」
「誰か、教室に鍵をかけた覚えはあるか?」
みな一様に首をかしげている。鍵はかかっていなかったようだ。なんて不用心な。
「なるほど。じゃあ弁当を取りに教室に戻った人はいるか?ちなみに僕もその一人だったが、ビーカーとかはまだなかった。」
しかし、まわりをきょろきょろ見回すばかりで、誰も手をあげない。
「ちなみに、ここでウソをつくとむしろ疑われるから。」
その言葉でビシッと数名が手をあげた。
仕方のないやつらだ。
「それなら、最後に教室を出たのは?」
「俺だけど。まだ来るかもしれないと思ったから鍵はかけてないよ。」
それは…大哉だった。
まじかお前かよ。
「彼のあとに教室に出入りしたやつはいないか?」
ざわざわとするが特別反応はない。
「よし。お前が犯人でほぼ確定だ。」
「はあ?それだけで俺だと分かるわけがないだろ。」
大哉は素っ頓狂な声をあげる。
いきなり論理が飛躍しすぎだ。大哉が犯人のわけがない。
黙って聞いていた、高美が声をあげる。
「そうよ。こいつが犯人で間違いないわ。」
そうよ、そうよという声が、女子の間に広がっていく。
「おい、ちょっとまてよ。最後に出たからって俺が犯人とは限らないだろ?」
「犯人は決まって『自分は犯人じゃない』っていうんだぜ」
それ、犯人でも犯人でなくても、同じ台詞にならないか?
「犯人でないというなら、何か言ってみろ。」
少し大哉は考えて喋った。
「まず、薬品はどうするんだ。ビーカーがあったということは、硫酸とか何か酸性の薬品を理科室から盗んできたと考えていいだろ。でも、俺たちは最近生物分野の授業で、理科室には入っていない。」
「どうせ鍵が開いていたんだろ。」
上野がめんどうくさそうに答える。
「金本、確かめてきてくれ。一人だけだと信評性に欠けるから、何人かと一緒に。授業はまだ始まってないし、そのままになっているはずだ。」
「OK☆」
そう言って金本は3名の男子と一緒に確かめに行った。
☆にイラッとしたけどね。
「盗み出すのは何も今日じゃなくていい。それこそ先週でも。鍵がかかっていたとしても、他学年が授業をしていれば、休み時間に隙をついてビーカーや薬品を盗みだすことは可能だった。」
「うっ、それは・・・」
言葉に詰まる。彼に改めて60個の疑いの目が向けられる。
やれやれ。助けてやるか。
「上野君、それは現実的に不可能なんだ。」
「なんだ?友達だから庇ってやろうというのか?」
「そうじゃなくて、きみは薬品金庫というものがあるのを知ってる?」
『は?』
みんなが首をかしげる。
「普通、学校とか研究所には薬品金庫というものがあるんだ。もし、塩素などの害のあるガスや、劇薬を盗みだされたら大変だろ?もし、きちんと保管されてなかったら各地でこれらを使った事件が起きてるさ。」
「で、でも4ケタのナンバー錠とかなら、コツコツやっていれば、そのうち開けられるはずだ。」
「鍵がどんな種類なのかは知らないけれど、希望的観測だ。もしナンバー錠だったとしても、開けるのに時間がかかるからそのうちばれるだろう。」
そこで金本たちが戻ってきた。
「たっだいま☆みんなで確かめてきたけどきちんと理科室に鍵はかかってたよ。」
☆つける必要ないよね。ないですよね。
「なるほど。たしかに彼には無理なようだな。疑ってすまなかった。」
そういって頭を下げる。
よかった、よかった。
「じゃあ誰が犯人なのよ!」
「ちなみにこんなことをしてくる相手に心覚えは?」
「自分では心当たりはないけれど、この私に嫉妬する女は山ほどいるでしょう。美人で、成績優秀で、お金持…」
「わかったわかった。怨恨から犯人を絞ることは無駄だということは理解した。」
こいつ、自分の普段の行いを棚に上げてるな。
しっかしこの状況だとほとんどの人に溶かすことは無理そうだけど…
「おれは遅れてきたから状況がよく分からないし・・・」
「そういえば浅間、教室に来るのが極端に遅かったな。どうしてだ?」
「体育の先生に怒れてたせいでランチを食べるのが遅れちゃったからだけど。」
『!』
「そうだ!跳び箱に隠れてたのがばれたんだった!」
「明らかな自滅をしてたぞ!」
教室がざわざわし始める。
どうしたんだい、みんな。そんなに見つめられると照れるじゃな
『お前怪しすぎるだろ!』
え?おれが怪しいだと?
おれの行動のどこがそんなに怪し……いですね。
「予想できる犯行の流れとしてはこうだな。まず、3時限目が終わると、真っ先に体操服に着替える。そして体育館に向かうふりをして、教室に戻るんだ。そして薬品をビーカーに入れて、高美のボールペンを溶かす。溶かしたらビーカーをロッカーかどこかに隠しておく。作業が終わったら体育館に向かい、跳び箱に隠れる。先生にわざと怒られ、誰もいない教室でビーカーの中身を回収して、薬品は水道にでも捨てればいい。そしたら何食わぬ顔でランチを食べにくる。これで終了だ。」
一見筋が通っているように見えなくもない。
しかし、それには穴がある。さっき言ったことを忘れたのか?
「溶かすのに使われた薬品はどうするんだよ。これを盗むのは誰にも無理だったはずだ。」
『君ならできる気がするんだ!いや、できる!』
一斉にいわれる。
ええー。そんな根拠のないこと自信持って言わないでよ。
「ま、待ちたまえ!いくらなんでもそれはおれにも無理だ。だったらどうやって跳び箱から出てくるんだ?一度教室に戻ったりしたら授業も始まってる。そんな中で改めて跳び箱に隠れることはできない!」
ふう、これで疑いが晴れ
「おまえならイリュージョンぐらいできるだろ。」
中山が肩をポンと叩く。
ちょっとまて!まだ根に持ってるの?
「そうだよな、北野。」
「うん。できると思う。」
なにあっさり肯定しちゃってるの?
大哉さん確実におれの状況を面白がってますよね。
あとでゆっくり日本の経済について話し合おうじゃないか。
「ばれて怒られることまで計算に入れていたのか。恐ろしいな。」
ちがうんだって。誰か助けてくれ!
「そうだ動機だ!動機がないぞ!」
『盗んだ薬品を面白おかしく使ってみたかった。』
「即答ですか。そうですか。」
おれへの認識が明らかに危ない人だな!
「おれは犯人じゃない!」
「犯人のお決まりのセリフよ。さっさと白状しなさい。」
だからそれ、犯人でも犯人でなくても同じ台詞になるだろ!
くそっ、どうしたら・・・
そこで上野が提案をしてくる。
「たしかに犯行の過程で手段がはっきりしないものがいくつかある。浅間が100%犯人とはいえないだろう。」
そのとおりだよ!
「そこでどうだろう。自分が犯人じゃないというのなら、明日の朝までに真犯人を突き止めてもらい、事件を解決する。」
周囲からはおお、いいね、賛成などの声があがる。
難易度高すぎだよ。
「いいわ。真犯人を突き止められなかったら・・・どうなるか分かってるわね?」
高美に鋭い視線を向けられ、ガクガクとうなずく。
ピーマンの肉詰めを口に押し込められるんですね。わかります。
おれの頭にははっきりと浅間君がみえている。
『がんばれ、浅間(笑)』
「応援する気あるのか!」
こいつらは打ち合わせでもしてるのかよ!
「浅間(笑)、無実だというのならそれを証明するしかないぞ。」
「上野にまで(笑)認定された!」
ふざけているように思えるけれど、ガチでやらないと学校生活が社会的に終わる気がする。
「せいぜいがんばりなさい。まあ、あなたで決定でしょうよ。」
そういって高美はすたすたと歩いていってしまった。
ああ・・・
「質問はしていいんだな?例えば現場の最初の状況とか。」
「もちろんだ。」
はあ、やるしかないらしい。
おれをこんな目に遭わせた犯人へ、ふつふつと怒りがわいてくる。
くらわせてやらねばならんな。しかるべき報いを!
やっと事件が起こりました




