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<零´>

 私は失恋というものを経験したことがない。


 好きな相手に告白して振られたことも、好きな相手に嫌いだと拒絶されたこともない。


 勿論、これは決して自慢話ではないのである。


 私は恋を経験したことが、そもそもなかったのだ。真剣に誰かを好きになったことがなかった。恋そのものをしていなかったのだから、それを失うこともまたなかったのである。


 男を見て格好良いと思ったことはあっただろうが、その男を思うと堪えられないくらいに苦しくなることはなかったし、堪らなく幸福な気持ちになることもなかった。


 どうしてだろうと考えてみたが、そんなことは考えるまでもなく明白だ。私は私だけが可愛かったのだ。自分ばかりが大好きで、大切で、人を好きになる余裕がなかったのだ。自分と同等に、或いは自分以上に大切な人間が出来るなんて、全く思いもよらなかった。


 私はどこまでも利己的で、愚かで、悍ましい人間なのである。


 あいつは私を嘘の吐けない女と見做しているようだが、そんなことはない。本心を隠して何も言わないことが嘘ならば、私は紛うかたなき大嘘吐きだ。自分を騙して、人を欺いている。


 だって私は、人に好きになってもらいたい、なんて、少なくとも人間でいる間は一言も発したことがなかったし、誰かの一番になりたいなんて、惜しげもなく叫んだことは、人生で一度だってなかった。本当はただそれだけの動機で生きているのだと、恥を捨てて告白したことなど一度だってありはしなかったのである。


 それが嘘でなくて何だろう。偽りでなくて何だろう。


 結局私は、初めて出来た大切な友人にも、自分の口から、神様の力を借りずに、本心を、自らの醜い本性を伝えないままでいたではないか。


 嫌われるのが怖かった。離れてしまうのが嫌だった。だから私は長らく口を噤んで、しかし良い子にもなれずに、そうして心に泥を溜めていった。


 私は嘘を吐き続けてきた。他の誰でもなく、自分自身に。言いたいことがあっても、本当に大切な人の前では、それをひた隠しにしてきた。


 押し殺して、抑圧して、いつしか自分でも忘れていた。自分が、何を求めているのかを。


 これはそれを私が思い出すという物語だ。私という人間が、何故神にまでなってしまったのかを知るための、そして何より、私が私と、向き合うための物語なのである。

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