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清廉勇者と外道ダンマスの物語  作者: ハル
第1章 二人の生き方
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勇者の章 四部 セルフィの夢 2

王立魔導開発局 第三研究所


そこは魔導開発局の中でも特に異質な研究を行うことで有名であり、国のエリートと言われる錬金術師達の中でも変人ばかりが集まった研究所である。


此処では個々人自由に好きな研究を行っており、その研究も多岐に渡る。

新魔法の開発から子供の玩具としか言えない様なものまで皆自由に開発に勤しんでいる。

先般、開発が完了した音に反応して踊り出す花型の置物など何の役に立つのかと議論になったほどである。


その研究所の一室でプリマとルクスは優雅なティータイムを過ごしていた。

白磁のカップに注がれたローズマリーティーのスパイシーな香りが鼻腔を擽り一見して高価とわかる。

ルクスはそれを一口飲んでみると香りからは想定外の癖はあるがサッパリとした味わいに


(これが美味いというやつなのかな?)

……との感想を持った。


「それはハーブティーの一種でな。癖の強い味じゃが慣れてくると美味いと思うようになる。何より集中力が高まる作用があって研究員の間でもよく愛飲されておる。

飲み過ぎると興奮してくるから間違っても妾を襲うなよ。

襲うならセルフィかシスにしておけ」


プリマはまたいつもの、しししと下卑た笑いをしてルクスをからかった。


「プリマ様……本当に十歳ですか?発言が少し大人というか…………正直おっさん臭「不敬罪……」


「えっ?」


チャラけた空気につい口を滑らしたルクスであるが相手は王族……本来お茶を共にするどころか口を聞くのも憚られる存在である。自分の失言に冷や汗が流れ落ちる……



「冗談じゃ。じゃが妾は構わんが他の貴族連中には気をつけよ。プライドばかり高く中身の伴わん輩も多い。勇者となるならそんな連中のあしらい方も覚えねばな……」


「…………はい。……」


プリマのアドバイスにルクスの返事は歯切れの悪いものでしかなかった。


そんなルクスをみてプリマは神妙な顔付きに変わる。

諭すような声でルクスに問いかけた。


「辛いかの?」


「えっ?いや……訓練は辛いですけど……プリマ様にはお世話になってますし、セルフィアさんとシスさんには迷惑もかけてますから……仕方ないですよね。」


「そうではない。勇者になるのが……戦わされるのが辛いのかと言う意味じゃ。強くなれば勇者として戦わされる。それが訓練に身が入らん原因ではないかの?」


見透かされている。そう悟ったルクスはどうしたものかと思案するが出てくる言葉は……


「怖いんです。戦うのが……」


「ふむ……そうか…お主は以前、自分は戦える人間じゃない。といったの?では戦える者とはどう違うかわかるかの?」


ルクスはしばし考え込むがここは正直に言うことにした。


「生まれ持った気質や才能でしょうか。」

「それは違う。戦うことは皆が怖いものじゃ。では何故、戦争に身を投じる者がいるか。冒険者になって魔物と戦う者がいるか。それはより怖いものを知っているからじゃ。」


戦って傷付き死んでしまう以上に怖いもの……それはルクスには考えられないことである。


「理由は様々じゃの。家族や恋人を失うのが怖い者もおるし、得た地位や名誉、金を守りたい者。これから成り上がることを夢見る者は言い換えれば貧困が怖いんじゃ。不様に陵辱、略奪、蹂躙されるのを恐れて剣を握る者もおる。

お主にはそれがないんじゃろ?自分の命以外に価値あるものなど考えられんのじゃろ?」


図星。それ以外の言葉はない。

何も欲しがらない、何も要求しない、敵の攻撃は反撃などせずにじっと耐える。それが自分の身を守る術と信じてきた。


『復讐の連鎖はいつか自分の身を滅ぼす』


先生の言葉をそう信じて生きてきた。

耐えればいつか暴力も終わる反撃はそれを長引かせる。

ルクスはそう解釈していた。


プリマは給仕に「例の物を」と言い、小袋を持って来させた。それをテーブルの上に置いて一言。


「よいぞ。逃げても……」


「えっ?それはどういう意味ですか?」


「勘違いするでないぞ、見果て呆れたという訳ではない。

言ったであろう?お主の様な不遇な人生を送る人間がいることは王族の恥であると……

じゃがわかっていても全ての人間を救うこともできぬが今の現状じゃな。

なら逃げ出す者を妾は責める権利をもたぬ。

ここに金貨100枚が入っておる。これがあればどこか田舎の村にでも行って妻を娶り静かに暮らすこともできよう、聖剣の代金として受け取っておけ。」


逃げることを許された。ここで出された金貨を持って逃げ出せば誰にも傷つけられず静かに暮らしていける。

その甘美な響きは毒のようにルクスの身体に浸透していく。しかし胸の奥でその毒に抗う何かがルクスを葛藤させる。


『泣いてる女の子を見捨てるのは男の子として失格よ』


先生の言葉を思い出し葛藤はさらに強くなりルクスを思考の渦の中に深く誘う。


(泣いている?誰が?

いつから?初めて会ったときからだろ!

なんで?このまま逃げたらどうなる?ずっとこのままか?

夢ってなんだ?僕なら?無理だろ。

でも勇者なら……でも死ぬかもしれない……

先生…僕はどうしたら……僕はどうしたい?)


「プリマ様……ひとつ聞きたいことが……」


「なんじゃ?」


本来こんなことは聞くべきではないのだろう。

でも聞かずにはいられない。


「僕が勇者になればセルフィアさんの夢が叶う。っていうのはどういう意味ですか?」


「ふ〜む。……………………妾から聞いたと言わんでくれよ。それに少し長くなるが良いかの?」


ルクスは二つ返事で承諾する。自分の中で何かが変わりそうな予感を感じながら……


「セルフィは元々、貴族の出でな。少し田舎の領地を持つビスコット男爵家の長女として生まれておる。

家族構成は父に病弱じゃった母とセルフィ、そしてセルフィより二歳下に嫡男としてフランツという弟がいたのじゃ

ビスコット卿は領民からも評判が良く悩みの相談も良く聞き解決に奔走しておったそうじゃし収穫祭も領民達と祝いあったり相当な為政者であったと聞く。

ビスコット家はフランツが当主になることが決まっておったからセルフィは他所の貴族に嫁ぐのが通例じゃが、あ奴はそれを嫌った。

当時セルフィは天真爛漫を体で表すような活発でよく笑う少女でありそんな貴族の生き方に嫌気が指し自由に生きたいと思っておったそうじゃ。

元々、剣の才があるのも手伝って、騎士を目指すようになった。

ところがセルフィが十歳の時にフランツが突然、病死してしもうた。

病弱じゃった母君はそれにショックを受けての……病が重くなりそのまま帰らぬ人になってしもうた……

立て続けに奥方と嫡男を亡くしたビスコット卿は気を病んでしまい領地の経営を放棄してしまう。

その隙をみて他の貴族が謀略を張り巡らせ領地を乗っ取りビスコット男爵家は断絶に追い込まれてしもうた。

断絶が決まったビスコット卿は荒れに荒れてのう……最終的には屋敷に火をつけて自殺したんじゃ。」


(そんな事があったのか……)


当時十歳の少女がこんな立て続けに家族を失っていく心境は如何許りか……


想像もできないな……そんなことを考えながらルクスは話に耳を傾ける。


「平民落ちしたセルフィは伝手を頼りに王都の騎士に弟子入りをして騎士になるのを目指す。そして努力の末に騎士爵位を叙任した。これが経緯じゃな」


「えっと……確かに壮絶だとは思いますがそれと勇者はどんな関係が?……」


「うむ。セルフィの夢とはビスコット男爵家を再興させることじゃ……騎士爵位は一代限りの名誉爵位じゃからな、今のままでは夢を叶えたとは言えん。

妾も叶えてやりたいとは思うが他所の派閥の体面上、軽々しく職権濫用などできんしな……誰の文句も言わせぬ功績が必要なんじゃよ。」


「それで勇者ですか……」


「そう。世界を救う勇者が師事を受けた人物ともなれば功績十分じゃ。爵位を与えても誰の文句も言わせん。

おっと……これはお主を利用するようなことになるがセルフィが考えたことではないぞ?

剣の腕前はセルフィが確かなのは事実じゃし決めたのは妾じゃ。責めるなら妾に責がある。」


そう言われると逆に責める気はなくなってしまうものである。

それにルクスはセルフィアから教えを受けるときに私利私欲の為に自分を利用しようという考えを感じたことはない。

ルクスが死なぬ様、生き残れる様、厳しくも真剣に師事してくれたことは感じている。

それに彼女は…………


「まぁ。それもお主がここを出て行けば関係のない話じゃ。

なに、気に病むでない。セルフィのことは又、他に手を考えるし勇者のことにしても今まで何とかやってこれた。きっと人類は魔王軍に勝ってみせよう。

お主は人と接することに向いておらん。静かに暮らしていけばよい。」


ルクスはしばし考えたのちにボソッと話し出した。


「あの…………今はその金貨は受け取れません……少し考える時間を貰ってもいいですか?」


「それは構わんが……どうかしたかの?」


ルクスは自分の心境を正直に話してみることにした。

ここが転換点なんだと、自分が変わるには今しかない。金貨を受け取ってしまえば永遠に今の自分は変えられない。


「僕は……他人が怖いんです……僕にとって他人は僕を利用しようとして騙してきたり、気に入らないからと暴力を振るって傷つけてきて……

そんな人達ばかりでした。

それを受け入れて耐えて、嵐が過ぎ去るのを待つしかない自分も…………嫌いなんです。

でもここの人達は……プリマ様やセルフィアさんにシスさんはちょっと違うな……って人達で……

戦うのはまだ怖いですけど……これから死ぬまで静かに怯えて暮らすのもなんか……嫌だなって……

ここなら、もしかしたら自分は変われるかもしれないって……思うんです。」


プリマはニッコリと笑った。

ルクスはプリマが十歳らしい笑顔を見せたのはこれが初めてじゃないか?と思う。

それぐらい眩しい笑顔であった。


「そうか!うん。よいぞ!よいことじゃ!

お主は変わりたいんじゃな!それがお主の望みなんじゃな!

ならば妾達をとことん利用すればよい!それからドンドン悩み迷えばよい!それはお主がなりたい理想に近づいておる証左よ!」


(変わるのが願い?人を利用してもいい?)


ルクスの心に少し光が差すような……価値観が少し変わるような感覚……


「良いんですか?利用するなんて……」

「構わんとも!それがお互いの利に叶うなら好きなだけすれば良い!やっと本音を漏らしよったな!ハハハ!妾は嬉しいぞ!」


ルクスは胸に何か込み上げてくるものを抑えようとするが堪え切れず目尻から溢れ落ちる。

プリマはそれを察したのかルクスと目を合わせぬ様、立ち上がり窓に向かって歩き出した。


「そうよな……まずお主は思い切り笑うことを覚えねばならん。

それはお主が変わる第一歩と心得よ。

明日はちょうど年末祭じゃ!休日をやる故、思い切り楽しんでくるが良い。」


笑う……それが僕の願いの第一歩……

そしてルクスは目尻を拭いてから温くなったローズマリーティを飲み干した。







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