魔人の章 二部 はじめての来客
産まれたての迷宮の最奥にあるコアルームにて……そこの主人が煙を吹き出し倒れていた。
「無理だぁぁぁ‼︎全っ然わかんねぇぇぇ!」
「教えて欲しいと言ったのはサバトだろ?もっと真剣に憶えてくれないか?大体、僕はナビゲータだよ?アドバイザーではない。この待遇は破格も破格、出血大サービスもいいところだ。嫌ならやめてもいいんだよ?」
サバトは現在、菌類について猛勉強中である。
自分になにが出来て、何が出来ないのかマリモに頼み込み教鞭を取ってもらっている真っ最中である。
「わかってるよ!生き残る為にゃ必要なことなんだからやるよ!でもちょっとぐらい休憩してもいいだろ?」
「マズダー!アレ!アレグレ。ギノゴグデ。」
そう言ったのはゴブたん。サバトに初めて召喚された魔物第一号のゴブリンである。サバトに記念だからと名前を付けられ言葉を教えてみると一応、日常会話ができるようにまで言葉を覚えたのでゆくゆくはゴブリン部隊の隊長でも任せようかと密かに企んでいるらしい。
「お前はそればっかりだな!食ったらちゃんと働けよ!」
サバトは懐から薄い茶色のキノコを取り出すとゴブたんは奪うように受け取りガツガツとキノコを食いだした。すると……
「ウッホホーー!アヒャヒャヒャヒャー!」
嬉しそうに笑い出した。持っている鉄の剣をブンブン振り回して大はしゃぎである。
「っはぁぁぁ…………しっかし誰も来ねぁな!やることちゃんとやってんのに何でなんだ?暇は無味無臭の猛毒っつうけど、こう暇だと干からびちまうな。」
「おや?サバトのツルツルの脳細胞からそんな語録が出てくるなんて奇想天外摩訶不思議だね。これは明日は隕石の雨でも降るんじゃないかな?」
「うるさい!でもこれでイケル筈なんだ……この迷宮で俺はビッグになれるはずなんだ…………」
サバトが考え抜いた迷宮を開通させてから一ヶ月……野生の動物以外に侵入者はいなかった。
「売り込みが足りないんじゃないかな?もっと強力な魔物を召喚して近くの村を焼き払ってみたらどうかな?」
「それじゃダメなんだよ!俺の目指す迷宮はそんなんじゃねぇんだ…………」
サバトがした事と言えばゴブリン数匹を近くの村に派遣して田畑や家畜を少し襲った程度である。
人的被害はゼロ。これはサバトの命令であった。
「そろそろなんらかのアクションがある筈なんだけどな…………」
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「ええと……ゴブリンの集落の調査ですか?」
「ええ。そうよ。ちょっと遠いけどアルツール地方の村にゴブリンが数匹で村を襲ったと報告があってね。依頼がまわってきたの。その近くの森でゴブリンの集落がないか調査をして欲しいの。貴方達に丁度いいんじゃないかしら?それにこの依頼を完了させれば晴れて二人はEランクに昇格よ。ロイス君にミリアムちゃん。」
「本当ですか⁈やったなミリィ!」
「うん!これで晴れて一人前だねロイ君!」
彼等はロイスとミリアム。同じ村で育った幼馴染である。一年前に二人で冒険者になる為に村を出て帝国の地方都市で登録をした。
ロイスは剣士、ミリアムは魔術師。前後衛に別れたバランスの良いペアである。年齢も14歳と若く能力もなかなかのもので冒険者組合も期待をかけていた。
「依頼をこなせたらね。気を付けなさい。今回は調査だから無理は禁物よ。ゴブリンといえど数十匹で囲まれたら貴方達でも危ないわ……命は最優先で依頼をこなす事。わかった?」
「「はーい」」
そして二人はアルツール地方へと向かう。
運命の転換点となる森へ…………
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聖歴2017年 10月 30日
今、俺は夜営の最中だ。
ミリィは今、交代で仮眠をとっている。
ミリィと冒険者になって一年……やっとここまできた。
冒険者組合には期待の新人なんて言われてるけど本当は違う。
凄いのはミリィであって俺じゃない。
ミリィは天才だ。しかるべき場所で修行をすれば国を代表するような魔術師になれると俺は思ってる。
なのに幼馴染だからって俺について来て冒険者をやってる。
俺が彼女の足を引っ張る訳にいかない。
もっと頑張って強くなって彼女に並んでみせる。
そのときは胸を張って彼女に…………
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そこでロイスは日記を閉じた。
隣で眠る赤毛のポニーテールの少女…………この子は俺のことをどう思ってるんだろう?
なにか良い夢で見てるのかニヘラと笑いながら腹をボリボリと掻いている。
いくら兄妹みたいに育ったとはいえ男の前でこんなに無防備になるか?
いいところ面倒見のいい兄貴程度にしか見てくれていないのだろう。
この季節、朝方はかなり冷え込む。
ロイスはミリアムにはだけた外套を掛け直してやりそんなことを思った。
昼には目的地に着く。しっかりしないとな。そんなことを考えながら弱くなった焚き火に薪をくべた。
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目的地に到着した二人は村人に話を聞き早速、森の探索に出かけた。
到着したのは昼過ぎになってしまったので日が暮れるまでそんなに時間はない。
深追いはせぬよう慎重に探索を続ける二人はあるものを見つける。
「ねぇロイ君!あれって椎茸じゃないの?」
「本当だ。多分、椎茸だと思う。ってあっちにあるのは舞茸か?」
この国では椎茸に舞茸などは良い出汁が取れ、食べても美味である。高級食材として高値で取引されていた。
それがこの森の中では所狭しと生えていた。
「すっげぇ……これって宝の山じゃないか……」
「ねぇねぇ!こんなに生えてるんだから持って行ってもいいわよね?」
もはやミリアムの目は$マークになっている。
ロイスは、またいつもの癖がでたか……と頭を抱えそうになる。
「おい!ミリィ!今は集落の調査で来てるんだぞ!そんな事してる暇はないんだぞ!」
「えぇ〜。ちょっとぐらい良いじゃない。ほら!ロイ君の装備もそろそろガタがきてるしさ!これで新しいのに取り替えれるんじゃない?」
ロイスは少し悩む……確かにこの宝の山を前にしてむざむざ見逃すのは勿体ない。装備もガタが来ているのも確かだ。
そして何よりも一年もの間、節制を強いてきた目の前の少女に女の子らしい服かアクセサリーを買ってやりたいとは常々思っていた。この依頼をクリアすれば晴れてEランク……
記念としてそれぐらいしてもバチは当たらないだろう。
「仕方ない。少しだけだぞ。それから警戒は怠るな!」
「やったー‼︎流石ロイ君!話がわかる〜。そういうところ大好きよ」
そう言われてしまうと少し照れてしまう。
「全く調子がいいんだから…………って危ない‼︎」
そこへ茂みからミリアムに向かって矢が飛んでくる。
いち早く気付いたロイスが割り込み左手の小盾で受け止める。
ガン!と音と同時にギャギャギャギャと叫びながら錆びた銅のナイフを持った一匹のゴブリンが飛び出してきた。
「ミリィ!こいつは任せろ!茂みのアーチャーの射線に入るな!木を盾にして詠唱に入れ!索敵も怠るなよ‼︎」
「了解‼︎」
二人はゴブリンの急襲にも慌てない。
ミリアムはロイスがゴブリン程度に負けないと信じているからだ。
ロイスの指示に従いアーチャーの居場所を探す。
もちろんゴブリンが二匹だけとは限らない。周りの周囲にも気を配る。
「ロイ君!恐らく敵は二匹!詠唱入るよ!
『雷精よ我が矢となりて敵を穿て……』射線に入るよ!」
ミリアムは矢が飛んできた茂みに身を晒す。
そこへバシュ!と音と共に矢が飛んできたが……
「させねぇよ‼︎」
ロイスが射線上にゴブリンを蹴り飛ばした。
矢はゴブリンの右腕に当たり武器を落とす。その隙に……
「見えた!雷矢!」
ミリアムの持つ杖から電撃を纏った矢が現れアーチャーの放った矢の射出点に向けて撃ち出す。
雷矢はゴブリンアーチャーの心臓に直撃し全身を感電させた。恐らく即死だろう。
ロイスは銅のナイフを蹴り飛ばし残ったゴブリンと相対しロングソードでジリジリと牽制を始める。すると不利を悟ったゴブリンは一目散に逃げ出した。
「ちょっとロイ君!今のヤれたんじゃないの?」
「ワザとに決まってんだろ‼︎早く追うぞ!集落に逃げる筈だ!突き止めるぞ‼︎」
「あっ‼︎そっかぁ。さっすがロイ君!」
二人は逃げ去るゴブリンを追跡する為、森の中を疾走していく。
「ミリィ!遅れてるぞ!これじゃ見失っちまう!」
「ハァ!ハァ!わかっ……てる…よ」
ミリアムが息も切れ切れ走っているとゴブリンが一目散に洞穴に逃げ込むのをロイスが目撃した。
「ハァ!ハァ!ちょっと……待って…ハァ!ロイ…君」
「しっ!あそこに逃げ込んだ。見張りもいないし集落って感じにも見えないな。」
「えっと……どうするの?この場所を報告して依頼完了ってことにしちゃう?」
ミリアムはどうやら依頼をさっさと終わらせて先ほどのキノコの山を漁りたいようである。
もちろん真面目なロイスはそんな事を許さない。
「そんな訳にはいかないだろう……ゴブリンの数も把握してないんだ。今までの情報で依頼完了なんてできない。子供の使いじゃないんだから。」
ミリアムは、ぶ〜っと膨れっ面になるがロイスは折れない。だがやる気が削がれたまま調査の続行も危険を伴う……リーダーとして妥協点は示さなくてはならない。
「はぁ……わかったよ。キノコ狩りは明日、必ず時間を取る。だから今は洞穴の調査に集中してくれ。いいな?」
ミリアムの目がパーッと明るくなるのがわかる。
「絶対だからね⁈嘘ついたら歯茎に針刺してそこに電流を流し込むからね!」
「なにそれ⁈地味に怖いな!」
ロイスはポーチから松明を取り出しミリアムに火をつけてもらうよう催促する。
火の付いた松明を持ち、入り口を照らしてみる。
「よし!入り口にゴブリンはいないな。数匹程度のゴブリンならそのまま殲滅させる。数が多いようなら急いで撤退だ。挟み撃ちに会わないよう後ろの警戒は頼んだぞ?」
「了解!任しといて!」
二人は慎重に洞穴の中に歩を進める…………
少し進んだ当たりで異変に気付いた。
「なぁミリィ……おかしくないか?松明がなくても周りが見えるんだが…………俺の目がおかしくなったか?」
「ロイ君…………私の目にもそう見えるよ……もしかしてここって………………」
「「迷宮か‼︎」」
その洞穴の最奥では一人の男が叫んでいた。
「よっしゃ!初来客様のご入店だ‼︎野郎共!盛大に持て成すぞ‼︎」
男はニヤっと笑って脳内に流れる映像を見ていた。その頭の上に乗る緑の毛玉は……
「上手くいけばいいけどね…………」
とどこか他人事であった。
聖歴とはギリアム・ローレンが生まれたとされる年から数えての年号になります。
ん?何かと似てるって?……。きっと気のせいですよ……。
暦や食材なんかは現実世界に準拠してます。
私がわかりやすいからと言うのが最大の理由です。




