勇者の章 二部 なりたかった訳じゃない
「聖剣?……聖剣ってあのお伽話に出てくる勇者が持ってるあの聖剣ですか?」
ルクスは何を言ってるんだ?これが聖剣?あり得ないだろう。
到底信じてることができないでいた。
「ああ。その聖剣で間違いない…… 先日の夜、王城の観測で異常な魔力が検知された。魔力の性質や伝承からして魔術師は聖剣であると言い張っている。」
「異常な魔力ってどれぐらいですか?」
ふと気になって尋ねてみると…
「その魔術師によると…………国が軽く吹き飛ぶ程だ。と報告が入っている」
「ええっ!……国が⁈それで街は大丈夫なんですか?」
ルクスは心底驚いた。国が吹き飛ぶほどの魔力を人間に扱えるとは到底思えない。それが喩え『英雄』であってもそれ程の魔法を撃とうとすれば暴発で身体が砕け散ってしまう。
それこそお伽話の世界なのである。
「今のところ街で被害の報告は来ていない。そして発生源へ向かうと倒れていた君とその剣が有った。という訳だ。」
「これが…………聖剣?」
その時、治療術医院の入り口がこじ開けられる音が聞こえた。遠くの方で
「セルフィ!どこにいるのじゃ!聖剣はどこにあるのじゃ‼︎」
と大声を上げながらどんどんこっちに近づいてくる。
セルフィアは頭を押さえて「ああ……やっぱり来られたか…城でお待ち下さいと伝えた筈なのに…………」
一体、誰がこっちに向かってくるんだ?嫌な予感しかしなかった…
とうとうその声の主は部屋の前に到達して「ここにいるのじゃな‼︎」と部屋に飛び込んできた。
入ってきたのは身長130センチ程の銀髪の美少女である。年齢は10歳程度であろうか、服装は一眼でわかる上等なピンクのドレスを着て腰まで届く様な長い髪を振り乱しながら喚き散らしている。
「居た!セルフィ‼︎居るのなら返事をせぬか!聖剣は何処じゃ⁈お?お主が勇者か?ちょっとそこへなおれ‼︎えぇい届かんではないか!ちょっとしゃがむのじゃ!早くせぬか‼︎早く早く!」とルクスを捲し立てる。
勢いに負けアワアワとルクスはしゃがむと、いきなり髪を何本か抜き取られた。
痛っ‼︎と呻くと少女は「良し!次は血じゃ!早く腹をかっ捌け!その剣でかっ捌くんじゃ!早くせぬかぁ‼︎」
と、とんでもない無茶振りを言い出した。
そこまで来てやっと助け船が到着。シスが
「プリマ王女様!そんなことしては死んでしまいます!ほら!昨日の治療の時に少し頂いて保管してありますから落ち着いて下さい!」
「ぬ?そうか?研究材料があるなら良い。良きに計らえ。それで聖剣はどこにあるのじゃ?早よ教えんか!早く早く‼︎」
「一旦、落ち着いたと思ったらまた勝手にヒートアップしていくなぁ。この王女様は………………王女様だと‼︎」とルクスは驚愕していると、腹の底から響くような低い声でセルフィアが
「プリマヴェーラ・リム・オースリン王女殿下………………気をお鎮め下さい………………怒りますよ…………」
「「「はい…」」」
三人が同時に返事をしていた。
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皆んなが落ち着く為に一息入れようと料理が完成し運び込まれるとルクスはオロオロしだしプリマが「お前の為の料理だ好きなだけ食え」と言うと恐る恐る食べたした。
するとルクスはポロポロと涙をこぼしだした。そして出された料理を半分程で
「うっ……ううっ………………ご馳走様でした」
「もう良いのか?少食じゃのう……それに泣く程の料理でもあるまいて……」
「はい。お腹いっぱいになる日が来るなんて思っていませんでした。……ありがとうございます。」
するとセルフィアがプリマに耳打ちをしだした。
「ふむ。そうか……不憫な暮らしをしていたようじゃな……農業大国と言われて久しい我が国で国民の腹も満たせんとは………王族として恥ずかしく思うぞ……」
「いえ……勿体ないお言葉です。」
と謙遜をしだす。そこへセルフィアが話を切り替えようと
「ああ……では改めて紹介させて頂こう。こちらに在わすはオースリン王国アイン・オム・オースリン国王陛下が第三王女、プリマヴェーラ・リム・オースリン王女殿下である。
知っているかもしれないが殿下は稀有な才能をお待ちの魔術師で昨晩の聖剣の魔力をいち早く感知なされ場所を特定されたお方だ」
彼女は国で知らぬ者は居ないと言われるほどの有名な魔術師であり又、錬金術師である。数々の魔法、魔道具を開発してきた王立魔導開発局の局長も弱冠10歳で務めている。
余談だが彼女は銀髪であるがこれは王族特有の髪色である。誰が言ったか王族が金より価値が低い銀であるはずがない!この髪色は白金髪だ!とおべっかを使ったのがキッカケで王族に対して銀髪と言うと不敬罪になる。ひどい話である。
先般、対魔族用殲滅魔法の開発に雷魔法の電磁力を利用し大量の火魔法を圧縮させる実験に見事、大失敗をして研究所を跡形もなく吹っ飛ばした稀代の天才魔法少女である。
彼女は「理論上は可能なはず……今回の爆発は良いデータが取れた。次は失敗しない」と言い、また吹っ飛ばした稀代の天才魔法少女である。
「それで、早く聖剣を見せてくれんかの?」
プリマはそわそわしながらルクスに告げる。だがヒートアップは出来ない…………セルフィアが怖いからだ…………
ルクスは「はい。こちらがその聖剣……らしいです」
と鞘に収まった聖剣をプリマに渡した。
「ほう!これがそうか……ふむふむ……この鞘の金属は……聖鉄でもアダマンタイトでもない…オリハルコンのようにも見えるがこれは違うのぅ。ぬふふ……研究心が擽られるのぅ…どれ」
と言い聖剣を抜こうとする。しかし「ぬっ?ぬぐぐっ‼︎ぐわぁぁ〜‼︎抜けんではないか!どうなっておる⁈」
「殿下。聖剣はどうやらルクスにしか抜けないようなのです。」セルフィアがそう告げた。
「先に言わんか!脳の血管が切れてしまうところじゃったぞ。ルクス。抜いてみてくれんかの?」
ルクスはちょっと落ち込んでいるセルフィアも綺麗だなぁと思いながら聖剣を受け取ると先程のプリマが嘘の様に簡単に引き抜いた。
プリマはその純白の剣身に、ほぅと息を吐く。
「美しいのぅ…材質はなんじゃろうな?見たこともない…全く未知の材質じゃ。それにその宝玉……聖属性の純度が桁違いじゃな。触らせてもらって良いかの?」
プリマが聖剣に触れようとしたときに異変がおこった。
彼女の全身が粟立ち血の気が引いていく。そしてガクガクと震えだし後ろにペタンと尻餅をついてしまった。
「殿下‼︎ルクス!貴様、殿下に何をした‼︎」
セルフィアが二人の間に割り込み騎士剣に手をかける。完全に抜剣の構えである。
ヤバイ!返答を間違うと首が飛ぶ!
「ボボボボ僕じゃない!無実だ!無根だ!濡れ衣だ!」
強烈な殺気が突き刺さってくる。
ああ……ダメだ…ごめんなさい先生…今そちらへ「良い…大事ない。やめよセルフィ……」
間一髪、プリマの制止が入った。
「しかし殿下!」
「セルフィア・ビスコット卿……控えよ。と言った。」
セルフィアは、うっ。と気圧され「申し訳ありません殿下…」と剣から手を離した。
助かった……やっぱり王族なんだな。こんな小さな女の子なのにすごい威厳だ。などの感想を大量に吹き出た冷や汗を拭いながら漏らすルクスであった。
「シス!来てくれ!殿下を診て差し上げてくれ!」
「は……はいぃ」
とシスは焦りながらプリマの診察をしだした。
「大事ないと言うておろうに…………しかしすまなかったなルクス。どうやら聖剣に拒絶された様じゃ。」
「拒絶……ですか?」
「うむ。限られた高位の魔剣などに見られる現象でな…剣自身が持ち主と定めた者以外には強く反発するんじゃ。今回は魔力が吸われるような感覚であったがな…抜き身の状態では下手に他者は触ふれられんようじゃ。」
ルクスは聖剣を鞘に収めプリマに気になっていたことを質問してみる。
「あの……僕はこれからどうなるんですか?」
「ふむ。お主は今の人類の現状を正しく認識しておるかの?」
ルクスは逆に質問で返され自分の知っている現状を答えてみる。
「えっと……60年程前に侵攻してきた魔王軍をベルガ帝国が押し留めて戦線を維持している。ってところでしょうか……」
「うむ。今やこの大陸の北西、三分の一は魔王領じゃ。そして侵攻ルートは三つ。大陸中央西寄りにあるパラケドゥ大火山の西回りと東回りルートをベルガ帝国が…大陸海岸線の北から東回りのルートをローレン聖教国の聖騎士隊が戦線を維持しておる。我々としても物資支援や人員派遣など行っておるがハッキリいって人類の疲弊は激しくこのままではジリ貧というのが現状じゃな。」
ルクスはその現状を聞いて不安になってきた。
「人類は…………負けるんですか?」
「我々とてむざむざ殺されるつもりは無い。が今は何とか打開策を探しておるところじゃ。そこで現れたのがお主じゃ!」
僕が打開策?聖剣を持っているからか…………
「歴史上、聖剣を持つ勇者が現れたのは二度。
およそ二千年前に現れた初代勇者アルベルト・アーガイル!聖母マリア・ローレンと共に大陸真西の海を渡った先にある竜の大島にて天竜王ヴェルハザードを打ち倒した。まぁこれは古過ぎてお伽話の可能性もある。と言われているがのぅ。」
それはどの子供でも聞かされる英雄譚だ。
孤児院で先生によく話てもらったもんだ……
天候を自在に操り空一面に稲妻の雨を降らす天竜王ヴェルハザード……山を切り海を真っ二つに割る大聖剣を持つ勇者アルベルト。
竜の大島にて一人と一匹は相打ちとなり死んでしまう。結果を見届けて帰った聖母マリアは聖都バースでギリアム教の開祖ギリアム・ローレンを産む。これがローレン聖教国とギリアム教の始まりとされている。
開祖ギリアムはアルベルトの子であるとギリアム教徒は主張している。
「そして二度目が八百年前に現れた二代目勇者ハイネス・オルフェウス!彼は刀と呼ばれる聖剣トツカノツルギを持って第一次魔軍戦争で大陸の三分の二を侵略された人類の旗頭として三人の仲間と共に戦線を押し返したのじゃ。これは文献も残っておるから確かな事実じゃ」
これも有名な話だ。勇者ハイネスと三人の英雄。
大賢者 高位耳長族のイーリア・ノーマン
闇の棟梁 忍者フーマ
神の拳 拳聖バルガン・ボルクス
英雄三人を引き連れて敗北寸前の人類を立て直して魔王軍に勝利し続ける。
そして魔王軍を大陸から追い出し最北西の岬から海を渡った先の魔王の本拠地ラゴス島で最終決戦に挑む。
勝敗は不明。だが魔王軍はそれから七百年余り活動はしていない。だが勇者達も帰らなかった。
普通の人間はラゴス島に辿り着けなかったのだ。荒れた海流や結界などに阻まれ勝敗の確認をする事ができなかった。
「そして六十年前にラゴス島より魔王軍が再侵攻。
これが第二次魔軍戦争じゃな。それは現在も続いておる。
現在の魔王が当時の魔王なのかそれともその後継者なのか定かではない。
が、その侵略速度は凄まじく一気呵成に大陸の三分の一を飲み込んだ。
それを止めたのが英雄皇エルトゥール・ベルガ一世じゃ。
彼は周辺小国家を纏め上げベルガ帝国を立ち上げる。そして魔王軍の侵攻を止めて今に至る。というわけじゃな。」
そう。これが大まかな人類の歴史だ。ということは…………
「僕に…………勇者として戦えと……いうことですか?」
「そう………なるのぅ……できるか?」
僕が?魔王と?魔族達と殺し合う?そんなの……
「無理です……剣なんか今まで握った事もないんです…………ほ…ほら!こんな細い腕で魔族を切れると思います?勇者なんて勤まる筈ないじゃないですか。」
自分で言ってて情けない……でも怖いんだ。考えただけで手が震えてくるんだ……
「貴様、恥ずかしくないのか!人類の危機だぞ!
聖剣に選ばれたんだぞ!勇者がこの戦況を打開すれば何万人の人が救われるか考えればわかるだろう‼︎こんな光栄なことはないんだぞ!」
セルフィアさんが怒ってる……怖い…………でも戦うのはもっと怖いんだ……
「そんなこと言われても……怖いものは怖いんだ。僕は戦える様な人間じゃない。貴方達とは違うんだ!僕は勇者なんかに憧れてない!そんな者になりたい訳じゃない‼︎」
「情けない……なんでこんな軟弱者に聖剣が…………」
やっぱり呆れるよな……失望されるのは慣れてるけど……やっぱり辛いな……
「ふむ。お主がそう言うても国としては、はいそうですか。とは言えん。しかし妾自身としては強制的に戦わせるのも忍びない……
それに見た感じ確かにお主に戦闘の素養があるとも思えんな……今のままでは世界に勇者が誕生したとは宣言できん……」
それはそうだろう。腕っ節があればこんな虐げられた人生は歩んでない……
「という訳でな。こういうのはどうじゃ?一時お主の身柄を妾が預かろう。そこで剣術や魔法を覚えてみんか?衣食住は保証しよう。それにお主の身体や聖剣も色々と調べたいしの。どうせ行く宛などないのじゃろう?」
え?確かにここを出れば浮浪者確定だけど……けど戦闘させられるのは……
そう迷っていると
「良し!決まりじゃ!迷っているならとりあえず行動じゃ!セルフィ、こやつに剣を教えてやれ。」
「私ですか殿下⁈なぜ私がこんな軟弱者を……」
「剣筋はお主が一番綺麗じゃ。師事を受けるにはもってこいじゃろ。それにこやつが勇者として大成すればお主の夢も叶うやもしれんじゃろ?」
夢?セルフィアさんの夢か……なんだろう?
セルフィアさんは納得していない様だけどプリマ様の「これは命令じゃ」に観念していた。
「シス。怪我もするじゃろうからお主も専属でついてやれ。体調管理は任せた。」
「は……はい!わかりました‼︎」
シスさんまで付いてくるのか……ドンドン話が進んで行く……
「ではルクス。話の詰めは王城に戻ってからしようかの……勇者の件もゆっくり考えれば良い。では行くぞ。」
プリマが素早く帰り支度を始め乗ってきた馬車に向かう直前にルクスにチョイチョイっと手招きをした。耳を貸せということらしい。
「実はの……セルフィは今フリーじゃ。」
この人はなにを言ってるんだ?とルクスは思う。
「『英雄、色を好む』というじゃろ?お主が勇者になればあの男好きする肢体を組んず解れつ自由にできるやもしれんのぅ?どうじゃ?少しはやる気になったかの?」
プリマはししし、と下卑た笑いを飛ばす。
ルクスはこの人本当に10歳か?と考えているとセルフィアと目が合った。
セルフィアは何事かと、?マークを飛ばしている。
(この人を……自由に?……)
いやいや自分になんて高嶺の華だろうと首を振る。
(でも勇者になれば……か)
そんなことを考えながら馬車に乗り込んだ。
そしてそれから一週間…………訓練所では今日もセルフィアにボコボコにされて横たわるルクスの姿があった。
地理を言葉だけで説明するのは難しいですね……
だいたい長方形の左上が魔王領、左下がベルガ帝国領、右上がローレン領右下がオースリン領と考えてくれれば間違いないです。
1ページあたり大体5000文字程度を目処にしようかと思います。少ないかな?




