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清廉勇者と外道ダンマスの物語  作者: ハル
第1章 二人の生き方
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勇者の章 一部 聖剣に選ばれた男

空が徐々に白み出し太陽が一日の始まりを告げようと東の地平線から顔を出し始める。

空気は肌寒く、凍えた手を暖めるため白い吐息を吹きかけると少し湿り気を帯びていく。


気休めだな。と思いながら少し童顔な女性は目の前で剣の稽古をする二人に視線を戻した。


場所はオースリン王国、騎士団専用訓練所

二人の男女が木刀を打ち付け合う音を響かせていた。


いや、打ち付け『合う』というのは少し語弊があるだろう。何故なら女が一方的に剣戟を繰り出し、男は防戦するだけで精一杯だったのだから……


「ほらどうした!守ってばかりでは敵に勝つことなど出来ないぞ!」


「ぐっ…ぬぅ……やぁぁ!」


男は必死で隙を探したが結局そんな物は見つからず無理くり剣を横に薙いだ。

女は当然とばかりにヒラリと剣戟を躱し男の肩を打ち付ける。


「そこまで!……もうっ!セルフィ……やり過ぎじゃないの?」


「そんなことはないぞシス。時は待ってはくれないんだ。それにお前が居るからこそ多少の無茶も出来るというものだ。」


そう言ってシスと呼ばれた女は今も肩を押さえて呻く男の下に駆け出した。


「ルクス君、大丈夫?今治してあげるからね。

『大地の精霊よ、我が身を通り彼の者を癒せ…治癒ヒール』」


シスは手持ちの杖を肩に当て魔力を流し込んでいく。

すると恐らくヒビでも入っているであろう肩が瞬く間に癒されていき、ほんの十秒程で元に戻ってしまった。


「ハァ……ハァ…もう大丈夫ですよシスさん。痛くもなんともありません。」


「見事なものだ。流石は我が国一の治癒術師だ。それからルクス。毎回言っているが腕だけで剣を振るんじゃない。それに身体の芯もブレている。そんな事だから身体が流され今の様に隙ができて打ち込まれる。これが真剣ならばとうに真っ二つだぞ!」


そう告げる彼女の名はセルフィア・ビスコット

オースリン王国 王国騎士団第三部隊所属の騎士である。

シス等友人からはセルフィの愛称で呼ばれており、身長は女性にしては少し高く175センチはあるだろう。ルクスより少し高い。

昇りきった朝日を受け背中まで届くほどある輝くような金色の髪を今は後ろで束ねている。

日々の訓練により無駄な贅肉など一切なく、稽古着の中はさらしで抑えられているが一度それを外したならば街の男連中は全て眼を奪われるだろうと容易に想像できる。

容姿にしてもルクスが初めて会ったとき、絵画の中の住人。と評するほどの美貌とプロポーションを持っている。事実、騎士団内でも非常に人気が高く求愛を受けたのは一度や二度ではない……………がその全てを袖にしてきた彼女は質実剛健という言葉が相応しく一切の笑顔を見せた事がない。

フラれた男共は皮肉めいて『セルフィアが笑えば地震が起こる』や『彼女を堕とす男は王都も堕とす』などと恨み言を言う。

それ等一切を気にせず剣の道に生きる。そんな女性である。

対して治癒術師の女性の名はシス・ブライト

王立治癒術医院に所属する才女である。

髪は赤みがかった茶色ブラウンをしており肩口で切り揃えている。

身長は高くなく150センチ程でありセルフィと並べば頭一つ分以上差がある。

顔は小さく眼はクリッと大きい。鼻筋も通っていて小動物を思わせる愛くるしい顔立ちに庇護欲を駆られる男性も多い。

体型はどれ程の美辞麗句を並べようと『五年後に期待の美少女』と言われている。

……しかし彼女は23歳。成長期はとうの昔に過ぎている。

そして性格は……


「ふふふ……ルクス君。お姉さんが肩だけじゃなく心も癒してあげてもいいのよぉ」


意外と強かである。


セルフィはため息をつきながら

「シス………つまらない冗談を言うものじゃないぞ……」


「セルフィは可愛くないなぁ………貴方もう19歳でしょ?せっかく美人なのに笑顔の一つでも振り撒かないと嫁に行き遅れちゃうわよ!ねぇ?ルクス君?」


「え?あの………いや……」


この時代、女は十五,六歳で嫁にでるのが普通であり二十歳も越えれば完全に行き遅れである。


「そんなものに興味はない。私は剣一筋だ。それに既に行き遅れのシスに言われたくはない。」


「キィー!言ってはいけないことを言ったわね!私はモテますぅ。選り取り見取りですぅ。私に相応しい男が居ないだけですぅ。」


ルクスは、素でキィー!と言う女性は初めてだ。と喉まで出かかったがやめておいた。拗れるだけである。

彼は他の人より顔色を伺ったり心の機微を読むのが上手い。歳の割に大人なのである。


「さぁ…朝の稽古はこれぐらいにして朝食でもとりにいくか。ルクス、食べ終わったら素振り千本だ。忘れるなよ。」

そう言ってセルフィはスタスタと兵舎の食堂に向かっていった。


「そうね!私たちも行きましょう。ゆ・う・しゃ・さ・ま。」


「いや……僕は…勇者じゃ……」


ルクスはナニやらモゴモゴしているとシスは追い討ちをかけてくる。


「今日も、いーっぱい食べさせてあげるからね」


「えぇ?今日も詰め込んでくる気ですか?」


今までの人生で常に飢えと戦ってきたルクスは、まさか食べ過ぎを苦痛と思う日が来るとは思わなかった。と独りごちた。


もちろんこれはイジメなどではなく元々、身体が細いルクスは筋肉を付けねばいけなく食べる事も訓練の内と強制的に食べさせられているのである。

全ては戦う為に…………勇者となる為に……


ルクスがこんな生活を送る様になったのは今から一週間程前、治療術医院で眼を覚ますところまで遡る。



スラム街で倒れていたルクスは直ぐ様、衛兵に保護され治療院に運び込まれる。

治療に当たったのがシスであり、生死の境を彷徨っていたルクスは一命を取り留める。


目を覚ましたルクスにシスは


「あっ!起きたのね。どう?どこか痛い所はない?体調はどう?気持ち悪いとかない?

だいぶヤツれてるけどご飯は食べてる?あっ、そうだ直ぐにご飯用意するね。いきなり固形物は身体がビックリするだろうからスープがいいかな?ちょっと人を呼んで来るね。今は大人しく寝てなさい。じゃあね!」


とルクスに有無も言わせずバタバタと部屋をでていった。

呆気に取られたルクスはハッとして周りを見渡す。

今の娘は誰だ?此処は?僕は助かったのか?誰が?なんの為に?

次々と疑問は浮び解決の糸口を探していると自分がベッドに寝かされていた事に気付いた。


そういえばあれ程、暴行を受けていながら今は全く痛みもなく顔を触ってみても腫れている形跡も残っていなかった。さっきの娘が治してくれたのかな?そんな事を考えてみた。

ベッドは簡素な作りではあるがしっかり作られており軋みなど全くない。

シーツも清潔を保たれていて綿でできている。

部屋の中は衛生的で少し回復薬ポーションの独特の匂いがすることから此処は治療術医院ではないかと予測を立ててみた。


ベッドか……こんな所で寝れるなんていつ以来だろうな……


シーツの手触りを楽しんでいると壁に剣が立て掛けられているのを見つける。


あの剣は……夢じゃなかったのか……


ルクスはベッドから降り、鞘に収められた剣を持ち上げマジマジと眺めてみる。

鞘には何やら複雑なレリーフが刻まれており、材質は金属らしいことはわかるが知識に乏しいルクスにはそれがなんであるか検討も付かなかった。


抜けるのかな?と思い柄に手をかけたときに扉からノックの音が鳴った。

「はい。どうぞ。」


ルクスが入室を促すと一人の女性が入ってくる。

その女性をみてルクスは息を飲んだ。眼を剥き呼吸も止まり頭の中は真っ白になっていく。


「失礼する。ん?もう起き上がって大丈夫なのか?」


鼓動が早まり顔が紅潮していくのが自分でわかり、その恥ずかしさに紅潮は更に増していく。

女性は近づき頬に触れようとしてきた。


ルクスは

あ……いい匂い………


そんな感想しか浮かんでこなかった。


「顔が紅いがまだ熱でもあるのか?寝ていた方がいいぞ。」


頬に添えられる手は柔らか……くない。

むしろその風貌から予想される通り堅い。

鉄の胸当てとショルダーアーマーには見事な王国を表すレリーフが刻まれ腰には騎士剣を佩いている。

誰がどう見ても王国騎士様である。

女性の身でありながらどれ程の修練を積めばこんな手になるんだろう?そんな事をルクスは思った。


「ちょっとセルフィ!私の治療に手抜きがあるはずないでしょ!貴方を見て照れてんのよ。これだから美人は得よねぇ……」

と後ろから先程バタバタと出て行ったシスが皮肉を言っていた。


「ん?そうなのか?おい君、体調はどうだ?」


セルフィと呼ばれた女性に質問されたルクスは…「えっ…あの……ドキドキしてます………」

と正直に言ってしまう。


「そう言う意味ではない。痛い所や身体に不備はないか?と聞いている」


ルクスは茹で蛸のようになり「すいません。大丈夫…です」と答えた。


「そうか。ならいい。私は王国騎士団第三部隊に所属しているセルフィア・ビスコットだ。よろしく頼む。これから色々と答えて欲しい事があるがいいかな?」


ルクスは頷きセルフィアの質問に答えていく。名前、年齢、職業、何故スラム街にいて何故死にかけていたか……


「あの……これは取り調べなんですか?僕は何か悪いことをしましたか?」

ルクスは居心地の悪さにセルフィアにそう聞いてみた。


「ああ…そうじゃない。では単刀直入に聞こう。

君が今、持っているその剣だがどこで手に入れた?」


「え?これは……僕の記憶が確かなら…空から降ってきました……」


「…………信じられん…本物なのか?」


ルクスはヤバイと思った。これは盗品なんだ。どこかの偉い貴族の剣で自分に嫌疑がかけられている!そう確信した。


「う……嘘じゃありません!僕は盗んでません!盗みなんてした事もありません!」


「ああ……そうじゃない。シス?この剣は抜くことができたか?」


「いいえ。誰も抜けなかったわ。うちの院にいる力自慢でもダメだったわ」


ん?これは抜けない剣なのか?高価そうだが飾りの剣なんだろうか……

セルフィアがルクスに問いかけてみる。

「ルクス君……君は抜けるか?」


自分が?これを? 無理だろう。と思いながらも一応、試してみるとキンッという音と共にスルッと剣身が姿を現した。


セルフィアとシスは眼を見開いて驚いている。

「……本物………なのか?」

「嘘…信じられない。」


剣身の長さは60センチ程で幅は拳一つ分程、薄っすら魔方陣のようなレリーフが刻まれており、剣先は鋭く尖っている。翼の様な見事な柄にグリップはルクスに合わせたかのようにしっくりきている。

何より目を引くのは剣身の根元に埋められた蒼い宝玉であった。薄っすらと光っておりそれを見ていると何故か心が落ち着いてくる。

綺麗なショートソードである。儀礼用かな?と思ってしまう。

「あの……抜けましたけど…この剣は何なんですか?」


問われたセルフィアは「…………」言葉を失っていた。


「あの……すいません!聞いてますか⁈」


ハッと我に返ったセルフィアは「す……すまない。呆けてしまった。落ち着いて聞いてくれ」


「えぇ…大丈夫です。この剣がどうかしましたか?」


セルフィアは俄かには信じられない様なことをいった。

「我々の見立てでは、その剣は………聖剣の公算が高い」






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