勇者の章 五部 年末祭 1
聖歴2017年 12月31日
王都ブルームの大通りでは朝から人が慌ただしく動き通りの脇では隙間なく屋台が並ぶ。
今日は本年最後の日であり、オースリン王国で最も大きな祭りを催す日、年末祭が行われる一日である。
この喧騒は時間が経つごとに勢いを増していき新年を迎える頃、ピークに達する。
その通りの入り口でルクスは人を待っていた。
約束の時間は間もなくであるが彼は一時間前からここで待っている。
万が一でも待ち合わせの相手より遅れる訳にはいかず寒空の下で待っていた。
「おはよう。時間通りに着いたと思ったが、待たせてしまったか?すまない……」
「セルフィアさん……おはようございます。大丈夫です、僕が勝手に早く着いただけなんで……時間通りです。」
セルフィアは白のウールのセーターに黒のパンツスタイル。
グレーのチェスターコートを羽織ってきており柄の美しいスカーフを首元に巻いている。
私服姿は初めて見るが、ルクスが見惚れるほどカッコよくデキル女性がそこには立っていた。
「…………お前……寒くないのか?そんな格好で……」
一方ルクスは布で出来たズボンと長袖のシャツを一枚着ているだけ。小刻みににカタカタ震え唇は真っ青である。
「全…然、平気で…す。慣れてますから。」
「おまえ……服を買うくらいの給金は貰っているだろう⁈一体何に使ったんだ!」
ルクスはセルフィアの騎士見習いという名目で剣を習っているので国から多少の給金は出るのである。それをルクスは……
「えっと…あの……孤児院に…寄付を…子供達はお腹を空かしてるだろうし……僕はお腹いっぱい食べれますから……」
「…………全部か……」
「いや!全部じゃないですよ!少しは貯金してますから!春先には服を買えるぐらい貯まるはずです!」
「春先?……なら今冬はどうするつもりなんだ?」
唖然とするセルフィアにルクスは
「す……すみません。こんな服装で場違いでしたよね?……帰ります。」
彼は今までの貧乏生活で殆ど自分の金というものを持ったことが無い。だから、いざ金を渡されても何に使えばいいのか思いつかないのである。
それに気づいて慌てて引き止めたセルフィアはルクスに
「謝ることじゃない。自分が育った孤児院に寄付をしたんだろ?褒めこそすれ責めてなどいない。
だがもう少し自分の為に使っても罰などあたらないぞ……よし。ルクス!着いてこい。」
返答に困っているルクスの手を引いてセルフィアは商店のある区域に向かって歩き出した。
「セルフィアさん。シスさんがまだ来ていませんよ!」
「シスは治療術医院の会合で来ない。さっさと行くぞ。」
「あの……何処にいくんですか?」
「仕立て屋だ、服を見繕ってもらう。」
そして手を繋いで歩く二人を見届けた後、少し離れた位置から怪しい二人組が追跡を始めていた。
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仕立て屋に到着したセルフィアは早速入店しようとするがルクスははっきり言って気後れしている。
店の外観は高級感に溢れ以前のルクスならば近づいただけで塩を撒かれそうな雰囲気である。……………………今でもそうかも知れない。
「セルフィアさん……ここっていわゆる高級店なんじゃ……僕お金はあんまり……」
「金のことは気にするな。それよりお前が風邪を引くことのほうが問題だ。早く入るぞ。」
一体どちらが男前なのか分かったものではないが、セルフィアは当然のように店に入っていき、ルクスはおっかなびっくりな態度で後に続いた。
店内は店の外観を崩さない程度の服が並んでいるが男性用、女性用、各々と取り揃えられており、そのどれもがしっかりした生地で作られている。
その色鮮やかさにルクスは目を奪われる。値段は彼の想像以上であろう。
そして店の奥から従業員であろうか店内の雰囲気に似つかわしく清潔感に溢れ、控えめな紺のスーツに身を包んだ白髪混じりの初老の男性が優雅なお辞儀で出迎えてくれた。
「ようこそいらっしゃいました。セルフィア・ビスコット卿。本日はどのような御用件でしょうか?」
「すまないな、こいつは弟子のルクスだ。服を見繕って欲しい。見ての通り薄着なんでな……暖かい服を希望する。それと儀礼用の礼服も採寸を頼みたい。」
「ほう。彼が噂のお弟子様ですか……畏まりました。今、主人を呼んで参りますのでこちらでお掛けになってお待ち下さい。
ルクス様。採寸を致しますのでこちらへどうぞ。」
(そういえば弟子って設定だったよな……それじゃ、お師匠様って呼んだほうがいいのかな?)
従業員の男性に誘導されながらそんなどうでもいい事を考えていると店の奥からでっぷりとした体型の……しかし朗らかな笑顔の男がやってきた。
「おお!セルフィア様!ご機嫌麗しゅうございます。なんでも最近、弟子を取られたとお聞きしましたが?」
「ああ。店主、久しぶりだな。そこの彼が弟子のルクスだ。プリマヴェーラ殿下の推薦でな、なかなか見所のある男らしいので私の弟子になってもらった。良くしてやってくれ。」
(話が大きくなりすぎてる様な気もするがそう言われるとなんか身体がむず痒いな)
「なんとプリマヴェーラ殿下から直々の推薦ですか!ルクス様。私がこの店の主であるヤードンでございます。
我が店では貴族様御用達……というわけではございませんがご贔屓にさせて頂いております。
フォーマルな装いからカジュアルなものまで、あらゆるものを揃えさせて頂きますのでご贔屓のほどよろしくお願い致します。未来の騎士様……」
ふくよかな身体で溢れんばかりの笑顔を見せる男が手をモミモミしながら腰を直角に曲げて礼をしている。
以前の自分からは想像もできない待遇である。
ネズミでも見るような目で塩を撒かれてきたのに騎士というだけでこの違い様……なにやら複雑な気分になってしまう。
採寸を終えたルクスは服を選ぼうとするがどんな服がいいのかさっぱり分からずセルフィアに聞くことにしたがセルフィアは……
「実は私もさっぱりわからん。私の服もこの店でコーディネートして貰ったからな。
マルコさんに聞くのがいいんじゃないか?」
マルコとは先程の初老の男性のことである。
彼は快く引き受けてくれルクスに似合う服を見立ててくれた。
出来上がった服装が厚手の白いシャツに皮のベスト、黒のズボンに決まった。
冬用に作られているので保温性は先程の服とは大違いである。
「セルフィアさん!どうですか?」
「うん。いいんじゃないか?先程とは見違えたな。」
セルフィアにもなかなかの高評価のようである。そんな二人の仲を見ていたマルコが
「それはよろしゅうございました。私めも頑張った甲斐があるというもの……しかしお二人の仲を見てると実の姉弟の様ですなぁ。」
!!!!
その言葉を聞いてセルフィアがピリついたのをルクスは感じとる。
セルフィアにとって家族の話は禁句だということは周知の事実であったようでマルコの失言に店主のヤードンがマルコを激しく叱責した。
「マルコ!お前はセルフィア様になんと失礼な!」
「も、申し訳ありません……お二人の睦まじい仲に、つい口を滑らせてしまいました。どうかお許しを……」
畏まって平謝りする二人にセルフィアは表情も変えずに返答をする。
「ああ。気にしないでくれ。マルコさんも悪気があって出た言葉ではない。私は気にしていないから、そう畏まらないでくれ。」
なんでもないことと本人は言うがルクスはセルフィアの哀愁を敏感に感じとっていた。
セルフィアは服の代金の支払いをして昼食を食べに行こうとルクスを誘った。
ちなみに代金はルクスの目玉が飛び出すんじゃないかという金額である。
「あの……セルフィアさん……服の代金は分割で支払いますから……何年かかるかな?」
「ん?気にするな。こう見えても私は高給取りだ、はした金とは言わんが大した痛手でもない。
今日は私の奢りだ。礼は訓練の成果で返してくれ。」
「……ありがとうございます……大事にしますね。」
どこまでも男前なセルフィアにルクスはひたすら感謝して店を後にした。
そして店をでた二人の後を付け回す怪しい二人組みはボソボソと会話している。
「なんか空気が変わっとらんか?」
「そうですか?でもルクス君は見違えましたね。」
「馬子にも衣装じゃな。そろそろ例の作戦を開始するぞ。」
「了解しました。」
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二人は祭りを楽しむべく昼食を出店の屋台で取ることにした。
屋台が並ぶ大通りでは大道芸人達が様々な芸を催しながら通りを練り歩いており、ルクスは子供の様なキラキラした目でそれを眺めている。
ピエロに扮した男が五つのボールをジャグリングしながらルクス達に近づいてきて目の前でボールを高速で回転させていく。
ルクスは感嘆の声を上げそれを眺めているとボールは次々と消えていき、いつの間にかピエロの手には五輪の花が握られている。
「素敵なお二人を祝してボールは花束に変わってしまった様です。どうぞお受け取り下さい。」
ピエロはニッコリ笑ってルクスに花を手渡した。
「あ、ありがとうございます。」
「素敵なレディをお連れで羨ましい。お二人で良い新年をお迎えください。」
そう言ってピエロはまた列に戻っていき通りを練り歩き始めた。
「素敵なレディって言われましたね。セルフィアさん!」
「おべっかだ。真に受けるな。」
ルクスは出会ってきた中で最も綺麗な女性がセルフィアだと思っている。
しかしセルフィアはそういったことには興味がないことも知っている。
(なんでこんな無自覚なんだろ?もっと自覚してもいいと思うんだけどな?)
不思議がっていると通りの屋台から声がかかる。
「そこのお兄さん、お姉さん!ワイルドホーンの串焼きはどうだい?うちの味付けはブルームで一番だよ!」
ワイルドホーンは牛型の魔物であり凶暴で討伐難易度もそれなりに高いがその肉は美味であり滋養も高い。
常に需要のある人気の高い肉である。
ルクスが物欲しそうな気配を察してセルフィアは
「あの串焼きが欲しいのか?では買いに行こう。」
「あの……いいんですか?」
「ちょうど腹も空いてきたし構わないぞ。」
そう言って屋台の前に進みだした。屋台の主人はセルフィアを見て
「うお!お姉さん物凄い美人だねぇ。こんな美人に食べてもらえるなんて光栄だねぇ、お兄さんの恋人かい?羨ましいねぇ」
小指を立ててワキワキする店主にルクスは焦りながら
「ち、違いますよ!恋人とかそんなんじゃありません!」
「ま、まさか既に二人は夫婦なのか!いやぁ男冥利に尽きるってもんだねぇ……良し!これはサービスだ!持っていきな‼︎」
串焼きを二本、突きだしタダでいいと言う店主。
「但し……この店の味を盛大に宣伝してくれよな!あんたら美男美女に宣伝してもらえたら効果絶大ってもんだ!」
夫婦でもないとモゴモゴ言うルクスに串焼きを無理矢理、手渡し店主はコソッと耳打ちをする。
「これで精を付けたら夜は盛大な花火を打ち上げるんだぜぇ兄ちゃん……よっ!憎いねぇ……」
そんな話を聞かされルクスは顔を真っ赤にしてしまう。
期待などこれっぽっちもしていないが、もしかしたらと想像してしまうのは男の悲しい性である。
一方セルフィアは「ん?タダだったのか?得したな。」と無感動であった。
そんな二人を建物の脇から眺める二人組みは
「これが作戦なんですか?」
「そうじゃ。まず二人にはこれがデートであると印象付けをして恋人やら夫婦等のワードを刷り込む。知らず識らずのうちに二人は意識しだす。という作戦じゃな。この為にここら一帯の屋台は全て買収済みじゃ!」
「何という無駄遣い‼︎」
「では次は作戦βに移行するぞ!」
華蝶仮面を付けた二人組みは銀髪と赤みがかった茶色の髪を揺らしながら追跡を続行していく。
長くなりそうなので分けます
服装は18〜19世紀をイメージしてますがセンスの無さが浮き彫りですね…
それなりの格好だと思って下さい。




