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後編3

「真打ち登場っ!」


 なぜか会場へシンデレラが騎乗のまま乗り込んできた。うしろの白馬にはマントでぐるぐる巻きにされた物体が縛り付けられている。


「ちょっとそこの従僕さん。あそこの柱時計は正確ですか?」

「おお。閣下は御目が高い!あの柱時計こそ先代国王ソリチアーニ8世陛下が時の名工グリアーニ・バレンタインに作らせた国宝級の一品。部品には千余の中から選びに選び抜いた鯨のヒゲを使い……」

「おまえ。わたくしの時間をなんだと思っているの?

 わたくしは効率的でないものが大嫌い!くだらない講釈をそれ以上口から垂れると殺しますよ!?」

「は、はひィーい。せ、正確です。一秒たりとも狂っておりませんっ」

「あっそ」


 シンデレラはそのまま馬を進めると、国王の前でひらりと降りた。


「陛下。これらの書類に裁可の押印を。

 アストリアとの講和条約その他もろもろの文書でございます」

「うむ。良きに計らえ」


 周囲の驚きの中、いつものように国王がポンポンと玉璽を押す。


「あ、あのアストリアとの講和とはどういう意味で?」

 官僚派の外務省の役人が恐る恐るシンデレラに伺いを立てた。

 会場のほとんどのものは王国の軍団がアストリアへ攻め入ったことも、シンデレラが敵国の首都を落として征服してしまったことも知らない。みな、ひそとしてシンデレラを見守った。


「もう仕方ありませんわね。わたくしには時間がありませんの。一度しか言いませんわよ。こころしてお聞きなさいよね」


 シンデレラはサーベルを引き抜いて後ろの馬に近づくと縛りを切った。


「わたくしと王国の4軍団はロンバルディアを通ってアストリアへ攻め込み、32時間と27分43秒前に首都を攻め落としてアストリア国王と講和をしてきました。つまり、王国はアストリアに完全勝利し征服したのですわ」

「「「おおおオオォう!!!」」」

「うるさいですわ。黙ってお聞きなさいな。役に立ったことがない便所の糞虫ども。

 講和の内容は関税の撤廃、ヒトモノカネの自由な行き来の保障、民事裁判権の調整などですわ。

 やれ併合だの属国化だのと声高に叫ぶ愚か者がきっといるでしょうから先に申しておきますけど、そんなことをすれば彼の国の臣民の反発を招き愛国心などという厄介なものを呼び覚まして事態が泥沼化してしまいます。アストリアと経済的に一心同体となった方がお互いにウインウインの関係に立ち、経済的に得ですし、将来2度と戦争も起こりませんわ。

 アストリアは世界有数の商船団を持ち、諸外国との交易も盛ん。王国は特に労せずに広大な市場を得られるでしょう。そして、わたくしの領地からもワインの輸出が可能になります。

 さきほど陛下に玉璽を押させた文書のひとつが講和条約文ですわ。これはもう決定したこと。反対は許しませんわ」


 周囲の人間はマントから転がり出てきたのが絶世の美姫であることにまたしても驚きを隠せない。姫君はまだ猿轡を噛まされたままである。「モガモガモガッ!」


「この物体は『ここは乙女ゲームの世界だわ』とか『本来は悪役令嬢だけど、わたくし、前世の知識を利用してフラグを折ってヒロインになるの』とかいう妄言を垂れ流す頭の可哀想な小娘ですが、歴としたアストリア国王のひとり娘。

 見てくれだけは合格点なので、王太子殿下と番わせます。人質にもなりますし、将来同君連合となる礎にもなりますからね。

 先ほど陛下も結婚許可状に押印なされ賛成なさいました。反対は許しませんわ」


 ガ、ガビーン!!!


 アストリアとの講和云々よりこちらの方に衝撃を受けたものが多い。会場の令嬢たちはもとより当の王太子本人までもが……。


「ちょっとシンデレラっ!なんということを!」「わ、わたしたちの今までの努力は一体っ!?」

「お義姉さま方。お話なら後で致しましょう。今はしばらくお待ちください」


 シンデレラは会場の隅にかたまる集団を冷たい眼差しで見る。


「さて。わたくしのお話も後残りわずか。

 わたくしは今から1年と364日23時間55分21秒前に、2年きっかりでわたくしの領地経営の障害となる諸々を一掃しようと計画を立てましたの。特に王国の癌である3つの国内派閥の排除については念入りに。

 先ほど陛下は玉璽の押印をもって国家緊急権の発動と戒厳令布告を了承されました。

 わたくしは革命軍事評議会議長として喜びを持って公爵派、貴族派、官僚派を問わずすべての派閥の解散と構成員その他シンパ全員を法の外へ置くことをここに宣言致します!」

「「「クーデター!!!」」」


 会場全員が目をまん丸くした。


「第1軍団の兵士諸君はすでにここにいる以外のすべての派閥の構成員の逮捕拘禁並びに財産の押収を完成しておりますわ。

 つまり、手足をもがれたおまえたち、バチルスにも劣る害虫の糞虫どもは明日からは真っ当に働く臣民の皆さんの前で畏まり、敬意を払って土下座するのです。

 これからはお天道様の照る道の真ん中を歩くことなど以ての外。頭を低くして道の片隅をひっそりと歩んでお逝きなさい。オッーホホホッ!!!」


 口に小手を当てて哄笑するシンデレラ。人としてアレであることの面目躍如である。


「あら。大変。わたくしとしたことが。

 午前0時まであと2分17秒しかございませんわ。わたくしの計画は午前0時までに王宮を出ることで完成するもの。

 糞虫ども以外の皆様。お名残惜しゅうございますが、ごきげんよう。ですわ。

 王太子殿下も長いあいだお世話になりました。

 オンボワール モナミ」


 シンデレラは愛馬ロシナンデに跨ると逸さんに王宮の大階段を駆け下りる。


「ま、待てーい!シンデレラ!」


 シンデレラの後ろから王太子の声がかかる。


「殿下?わたくしにまだ御用がございますの?わたくしにはあと2分2秒と0コンマ8秒しか残されておりませんのよ」

「これを持っていけ!僕がおこずかいを貯めて買った銀の拍車付きの長靴だっ!」


 王太子が投げた物体をシンデレラがパシッと受け取る。


「あれ。殿下?靴が片方しかございませんが」

「ああ。もう片方は僕がシンデレラのもとへ出向いて直に履かしてやるっ!」

「まあ。殿下。そんなことはせずにいっちばん安い郵便小包で送ってくださいましな。効率的ではありませんから」

「ち、違う。それは僕の告……」


 王太子の最後の言葉が聞こえなかった(聞く気のなかった)シンデレラは長靴の片方だけを持って颯爽と王宮を去った……。


「こうして殿下は傷心を胸に不幸せな人生を歩んだのでした……」

「勝手に変なナレーションつけんな!チビ助!」


 王太子が睨みつけると緑の目をした美少年が嘲笑う。


「やーい。失恋してやんの。ちなみに僕は師匠の跡を追いますから。

 殿下はここで一生、不幸せに暮らしていてくださいね。チャオ!」


 ロミオ君は王太子に向かってあっかんべーをし尻を見せてパンパン叩いてから走り去った。


「あの野郎。抜けがけなど許すものかっ!」




 ……このシンデレラの物語の顛末は後世に伝えられてはいない。すべてはお読みになった方々の想像にゆだねられている……。


 









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