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中編3

 王国の国王アルフォンス14世は無能と言われている。


 無能と言われているが、彼は国王であり、国の重要案件の裁可権限をひとりで握っている。


 彼の仕事ぶりを見てみよう。

 例えばー


 レースで胸元を飾った貴族派の男爵が彼の前に罷りでる。

「陛下。臣民の子弟に初等教育を施す教室が足りませぬ」

「うむ?」

「教育は国家の大事。王国の未来のため何卒増設のご裁可を賜りたく」

「うむ。良きに計らえ」

 国王は男爵の提出した書類にポンと玉璽を押す。


 しばらくすると、今度は官僚派の目つきの鋭い男がやって来る。

「陛下!男爵の縁故のものが名ばかりの私立学園を建てて国からの補助金を不正受給しようと企んでおりますぞ!」

「うむ?」

「アストリアとの相次ぐ戦争、天災による税収の低減など今や緊縮財政が必須。このようなとき、不逞の輩を野放しにしておくなどもってのほか。何卒大規模捜査のご裁可を賜るようお願い申し上げます」

「うむ。良きに計らえ」

 国王は今度は貴族派の重鎮たちへの捜索許可状に気軽に玉璽を押す。


 次に、でっぷりとした官僚派の偉い官吏が書類を抱えてやってくる。

「陛下。陛下は王都東側にある市場の賑わいをご存知ですかな?市場の賑わいは臣民の生活が豊かな証」

「うむ?」

「ですが、今ある市場は場所が狭くこれ以上の発展を見込めません。設備も老朽化しておりますし、いっそ西側に新たな市場を設けてみてはどうでしょうか?」

「うむ。良きに計らえ」

 国王はやはり気軽に新市場設置の許可状に玉璽を押す。


 当然、貴族派の伯爵が血相を変えて飛び込んでくる。

「陛下。官僚派を支えているのは大商人や穀物業者たちなのですよ。奴ら、市場を移すことで自分たちに都合の悪い新規参入業者を締め出し、物価を思いのままに操作しようと企んでいるのでございますよ!官僚派は自分たちの味方に甘い汁を吸わせようとしているのでございますよ!」

「うむ?」

「一部のものだけが甘い汁を吸えば臣民の多くが不平不満を覚えます。穀物の値段を勝手に上げられては臣民の暮らしが立ち行きません。臣の忠誠をお信じになられ、新市場設置の撤回を何卒お願いいたします!」

「そうか。良きに計らえ」

 朝改暮令になるのも構わず国王はまたしても玉璽を押した。


 このように国王は無能である。何も見ないし、何も考えない。

 しかし、彼は特定の派閥に肩入れをしない。中立を保つ。その結果、貴族派と官僚派はみみっちい足の引っ張り合いに始終するばかりで他を圧倒することができない。


 このように国王が無能なおかげで結局、国内の派閥は三竦みとなり、国内政治は表面上なんとか平穏を保ってきた。今までは……。


 +


「貴族派と官僚派は相変わらず争っているけど、これといった決め手に欠けているね。僕たち、奴らに対してそれほど警戒する必要は今のところないみたいだね。

 そうすると、公爵派の動きが気になってくる。現公爵を牢にぶち込んでからまったく動きを見せないのがかえって不気味に感じる……。先代のチェザーレ4世の行方もまだ判明してないし」


 シンデレラの執務室の片隅に小さな机が新たに設けられてそこで王太子は仕事をしつつ盛んにシンデレラに話しかける。

 だが、シンデレラは聞いてはいない。


 カリカリカリカリカリッ カリカリカリカリカリカリッ パラりパラりパラり


 彼女は猛烈にペンを走らせるのみ。


 だがー。


「はっ!なんということでしょう!間に合いませんわ」

 シンデレラが突然、書類から目を離して懐中時計を見る。


「お昼ならまだ半時間はあるよ」

「殿下。何を馬鹿な。そんなもの、わたくしの体内時計であと34分32秒あることくらい把握しておりますわ。

 わたくしは自分の領地経営の障害排除計画達成まであと11日と12時間34分29秒しか残されていないことを申し上げているのです!」

「それ、自分で2年でやると決めた勝手な計画のこと?そんなもの、多少伸ばしたっていいじゃないか。(タイムリミットを過ぎたって)誰も困りはしないんだし」

「お黙りなさい!効率性の問題なのですわ!美しくないのですわ!

 わたくしの完璧な計画が予知していなかった障害のせいで崩れるなんてあってはならないことですわ。

 ここはひとつ、非常の処置をとる必要がありますわね」

「……僕、なんかとてつもなく嫌な予感しかしないんですけど。地道にやろうよ。地道に」

「これは決定事項ですわ。殿下の意見など、誰も聞く耳を持ち合わせておりませんことよ」


 シンデレラは再び猛烈な勢いでペンを走らせながら付け加える。


「それと、食事をご一緒しても構いませんけど、わたくしの皿に嫌いなものを投げ込むのはおやめくださいね。今度やったらぶっ飛ばしますわよ」

「……僕って本当に王太子なのかな?最近、この疑問が頭から離れないよ」


 +


 シンデレラが非常の処置を決断してから2日後。

 現公爵家当主ロベルト2世は身を牢から公爵邸へと戻していた。


 彼は客間で豪奢な椅子にふんぞり返る、宗教関係者らしいローブ姿の怪しい人物に声をかける。

「父上。ご無事で何よりです。ご尊顔を拝し、安心いたしました」

「おまえの方こそ。牢に入れられたと聞いて肝が冷えたぞ」

「父上。ご安心を。このとおりピンピンしております。

 父上の方こそ王都などに戻られて大丈夫なのですか?誰かに見られでもしたら」

「覚悟の上じゃ。

 今や、我が派閥は存亡の危機。今行動せずしていつ行動するというのじゃ。

 幸い、あの無能王がやらかしおった。公爵家代々の悲願、この好機に達成して見せようぞ!

 我が公爵家が王家に成り代わりさえすれば、わしは追放の身から晴れて国王、おまえは王太子じゃ!そして、恨み重なるシンデレラを今度こそ八つ裂きにしてくれるわ!」

「父上。処刑前に是非ともわたしにあやつの体に剣を突き立てることをお許し下さい。牢に入れられた屈辱を晴らさずにあやつを昇天させることを許してはこの胸が張り裂けてしまいます!」

「好きにせい。むしろ大いにやれ。わしもあやつにどれだけ屈辱を味わされたか!」


 それから懲りない親子は嫁選びのために行われる王太子の誕生日パーティでのテロについて熱心に練りはじめた……。


「それにしてもなぜわたしは牢から出ることをゆるされたのでしょうか?解しかねます」

「大方、シンデレラの裏にいる王太子が甘いせいじゃろう。小僧だからな。

 わしならそんな甘いことはせぬ。敵が牢内にいる間に必ず毒殺しているところじゃな。ワハハハ」

「……そうだといいのですが。なにか見落としている気がしてなりませぬ」

「シンデレラのことなら案ずるな。あやつは王太子の誕生日パーティには来ぬ。それどころか王都にもおらぬ。

 あやつは北部のセレナとの国境付近で軍団の大規模な再編と検閲を執り行う。セレナとの戦争に備えて軍団に気合いを入れ直すそうじゃ。戦争屋め。

 じゃが、こちらとしては好都合。

 わしらが王都を押さえさえすれば、あやつはセレナとわしらに背腹にナイフを突きつけられることになる。いかに多くの兵士を抱えようともいずれは瓦解することが目に見えている。

 シンデレラのいない王太子など赤子同然、どうとでも料理できるというもの。クハハハハ」

「……」


 そううまくいけばいいのだが。


 不安の解けぬ現公爵家当主は最初の高揚感から覚めてしまいいつまでも暗い顔をしていたという……。




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