3-2
宮郷のアトリエはタクシーで一時間程行った白鳥山の中腹にあった。アトリエは、想像していたよりはかなり小さなログハウスだった。オレ様たちは気付かれないように少し離れたところでタクシーを降りた。様子をうかがいながらアトリエに近付くと、綾女を乗せた黒い車が停めてあった。
「あれなのだ。間違いない。綾女はここにいるのだ」
「どうやって侵入するつもりなんだ?」
「表から堂々となのだ」
うまく忍び込んでも、空丸のことだ。すぐにオレ様の気配に気付くだろう。いや、もう気付いているはずだ。
「コタロー、行くのだ」
オレ様とコタローは表門の前に立った。離れていてもビシビシと感じる妖怪除けの符のパワー。
空丸の奴、一体何枚貼ったのだ?
まず、コタローが表門の符を剥がす。そして、玄関。
中に入ったオレ様たちを待っていたのは、空丸ただひとりだった。
「約束通り来てやったのだ」
「まさかお前が見える人間が他にもいたなんてな」
「綾女はどこだっ! 早く綾女を返せ」
空丸は急にけらけらと笑いだした。
「最高だよ。ここまで主人に忠実だとはね。ムシズが走るよ」
笑うのを止めた空丸は凍てついた瞳でオレ様をにらみつける。
「オレ、気が変わったよ。あの娘にはやっぱりここで死んでもらおう。そこのもうひとりの人間といっしょにな」
「約束が違うのだっ! 空丸、どうしてしまったのだ。何があったのだ?」
「夢を見る時代はもう終わったんだよ」
空丸は妖力でコタローを吹き飛ばした。コタローは壁に打ちつけられる。
「くっ」
「コタローッ!」
「ほらほら、ぼやっとしてるとその人間が死ぬぜ」
コタローの体がまるで宙吊にされた人形のように室内を飛び交う。その都度壁に激突するコタローは苦痛に顔を歪めていた。
「コタローっ!」
オレ様はコタローのダメージを軽減するため、コタローと壁の間に割り込む。コタローの全体重がのしかかってくる。全身の骨が砕けそうなのだ。
「バカ、何やってんだよ?」
「コタローにもしものことがあったら綾女が悲しむのだ」
綾女に辛い思いはさせたくないのだ。
「主人でもない人間をかばうとはな。お前もバカな奴だ。そして、そのバカを助ける人間もな」
空丸は余裕の笑みを浮かべる。エネルギーは充分に残っているようなのだ。
何が空丸のエネルギー源になっているのだ。どう考えても宮郷からは純粋な夢は感じられない。
奴から感じるのは……。
まさか?
今の空丸のエネルギー源は、負のエネルギーなのか。
「そこまでしてあの娘が助けたいか。だったら教えてやるよ。自分たちが無力だということをな」
空丸の身体が床に沈んでいく。
「空丸、待つのだ!」
空丸は消えた。
先に綾女を殺すつもりなのだ。
「どこかに地下へ通じる階段があるはずだ」
「よし、それを探すのだ」
オレ様とコタローは懸命に探した。焦るな。落ち着いてよく探すのだ。部屋を隈無く見回す。オレ様の目に悪趣味としか言いようのない宮郷の肖像画が映った。
「よく自分の絵など飾る気になるものだ」
オレ様は絵を外して後ろへ放り投げた。
「コタロー、あったのだっ!」
絵を掛けていた所に押しボタンがあったのだ。オレ様はボタンを押した。すると、ギギッという金属音がして、床に一メートル四方の穴が開いた。
地下へ降りる階段がある。
オレ様たちは急いで駆け降りた。
照明が異常にまぶしかった。




