3-1
オレ様はコタローの気配を探した。運のいいことにコタローはこの繁華街のどこかにいるのだ。
そして、コタローの気配を追って辿り着いた場所は。
『くらぶ美少年』
コタローの奴、いくらお金が必要とはいえこんなところでバイトをやっていたとは。オレ様だってここがどういう店なのか重々承知している。綾女には口が裂けても言えないのだ。
中に入ってみると、照明が薄暗く、けばいおばちゃんたちの化粧や香水の臭いが充満していた。
「気持ち悪いのだ」
早くコタローを探さねば。店内を見通せるようにテーブルの上に立つ。しかし、みんな似たような格好をしているのでよくわからないのだ。
オレ様は一番手っ取り早い方法を取った。
「コタローッ! どこにいるのだーっ?」
五秒も経たないうちに、黒のタキシード姿のコタローが猛ダッシュで飛んできた。前髪もムースでちゃんとアップしていて、最初は誰かわからなかったのだ。
「何、人の名前大声で叫んでんだよ」
「気にするな。どうせ他の人間には聞こえていないのだ」
オレ様の声はオレ様の姿が見える者にしか聞こえないのだ。
「またわけのわからないことを言って。ここは子供来るところじゃないんだ。早く帰れ」
コタローはオレ様をテーブルの上から降ろす。
「そうはいかないのだ。コタロー、綾女が危ないのだ。力を貸してほしい」
「尊酉が? 尊酉がどうかしたのか?」
オレ様の切羽詰まった顔に、さすがのコタローも無視はできなかったようだ。
「虎太郎、何してんだよ。宮郷夫人ご指名だぞ」
コタローと同じように黒のタキシードを着た男が話しかけてくる。
「何って、この子が」
「この子? 何寝呆けたこと言ってんだよ。誰もいないじゃないか」
この男にはオレ様が見えていないのだ。コタローの表情が硬張る。
「何者なんだよ?」
「オレ様は座敷わらしだ。くわしく説明しているヒマはない。後二時間で奴の所に行かないと綾女が殺されてしまうのだ」
オレ様は強引にコタローの手を引っ張って店を出た。
「放せよ」
コタローはオレ様の手を振り払う。
「座敷わらしとか、尊酉が殺されるとか。わかるようにちゃんと説明しろよ?」
時間がないというのに、しょうがない奴だ。オレ様は簡略に事のあらましを教える。
「お前が座敷わらし?」
コタローは半信半疑でオレ様を見つめていた。
「しかも、宮郷和規がゴーストを使ってて、それを見破った尊酉が捕まったってのか?」
「そうなのだ」
「で、その妖怪除けの符が剥がせなければ、尊酉は救えないと?」
「信じてほしいのだ。早く行かないと綾女が殺されてしまうのだ」
コタローは拳を強く握りしめた。
「二年ほど前に宮郷は父さんにもゴーストになれと誘いを掛けてきたことがあった。断った父さんはその直後に交通事故で死んだ」
もしかしたら、コタローの父親も宮郷に、いや空丸に殺されたのかもしれない。オレ様の胸は哀しみと悔しさに締めつけられた。
「クビ決定か」
コタローはあきらめにも似たため息を吐き出した。
「コタロー、協力してくれるのか? いい機会なのだ。あんなバイトは早く辞めてしまうのだ」
綾女のためにはあんないかがわしいバイトをやらせておくわけにはいかないのだ。
「お前が言うことじゃないだろう。けっこういい金になったんだ。チップももらえたし」
「いいではないか。これで綾女に絵のモデルを頼むきっかけができたのだから」
「ななな何で、それを」
顔を赤くして照れるコタロー。綾女の言った通りこいつはいい奴なのだ。
オレ様はコタローの協力を得て、綾女の気配を探ることに集中した。しかし、綾女の気配が察知できなかった。空丸の奴、綾女に気を失わせたのだ。
「くそっ、これでは綾女の居場所がわからなのだ!」
「もしかしたら、宮郷のアトリエにいるんじゃないのか?」
「アトリエ?」
「白鳥山にあるらしいんだが、奥さんさえ近付けようとしないそうだ」
「何でそんなこと知っているのだ」
コタローはばつが悪そうに、
「宮郷夫人はあの店の常連なんだよ」
小声でいう。
なるほど。コタローのバイトも役に立つのだ。コタローはすぐにタクシーを呼び止める。 綾女、すぐに行くのだ。無事でいてくれ。




