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「どうなっているのだ?」
「久しぶりだな、天丸」
さっき宮郷のそばにいた男が、オレ様を見下してうれしそうに笑っていた。このオレ様を見下すとは生意気な奴だ。青年ヴァージョンになれば貴様のような男は……って、こいつオレ様のことが見えている。しかも、今オレ様の名前を呼んだのだ。
「仲間の顔も見忘れちまったのか?」
大人の容姿から子供の容姿へと変化していく。
「貴様は?」
オレ様の目の前には、オレ様にそっくりな子供が立っていた。違うのは髪の色だけ。茶色か、黒色か。
「空丸、なのか?」
「まさかこんなトコでお前に会えるとは思ってなかったぞ」
空丸はオレ様と同じ座敷わらしだ。こいつも生きながらえていたとは。どうりで仲間の気配を感じるわけなのだ。しかし、昔の空丸とは何か違う感じがするのだ。
「どうして、ここにいるのだ?」
「悪いが、お前の主人には死んでもらうぞ」
「それはどういうことなのだっ? 空丸、自分の言っていることの意味がわかっているのか?」
空丸はニタリと笑う。昔はこんなことを言う奴ではなかった。仲間内では気の弱いおとなしい奴だったはずだ。
「今のオレの主人は宮郷和規。主人の秘密を知った人間には消えてもらわなければ困るんだよ」
「綾女は純粋な夢を持った、今では残り少ない人間なのだ。なぜ、それを殺そうとするのだ?」
「今の時代にそんな人間は必要ないんだよ」
空丸は憎しみの瞳をオレ様に向ける。
この六十年の間に奴に何があったというのだ?
「綾女は殺させはしないのだっ!」
オレ様は再び車に向かってつっ走る。が、またしても引き離されてしまう。
「オレはお前と違って妖力が使えるんだ。ま、もっともその車には妖怪除けの符も貼ってあってね。オレが妖力を使わなくても」
オレ様の体が車から大きく弾き飛ばされた。
「近付けないだろう?」
空丸は嘲笑う。
それでもオレ様はあきらめなかった。何度も体当たりしてボロボロになっていくオレ様。不様すぎて、綾女には見せられない姿なのだ。
「その符は人間でなければ剥がすことはできない。唯一、お前が見える人間はこの車の中。あきらめるんだな、天丸」
空丸は車の助手席に乗る。
どうして、空丸は弾き飛ばされないのだ?
オレ様が不思議そうな顔をしていると、またしても空丸は嘲笑う。
「どうしてって顔だな。教えてやってもいいぞ。今日中にオレのもとへ来ることができたらな。そうすれば、ついでにこの娘も助けてやってもいい」
「本気でそんなこと言っているのか?」
「あぁ。もっともお前にこの符を破るだけの妖力が残っていればの話だがな」
「さっきの言葉、二言はないのだな?」
オレ様は空丸をにらみつける。空丸はオレ様に妖力がないことを知って言ってきているのだ。
「早く車を出せっ!」
上ずった宮郷の声を合図に車は急発進する。
「綾女っ!」
オレ様は走った。だが、車はすぐに見えなくなる。
このままでは綾女が殺されてしまうのだ。
オレ様はすぐに綾女の気配を探す。気を失っていなければ、どんなに離れていても察知することができるのだ。
しかし、居場所がわかったとしても、あの符が貼られていてはオレ様はどうすることもできないのだ。他の人間にオレ様の姿が見えれば……。
「忘れていたのだ」
いた、いたのだ。オレ様の姿が見えて、協力してくれる人間がたったひとりだけ。




