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「そのスケッチブックを返すのだ」

「これはお前の姉さんのか?」

 相変わらず不躾にしゃべってくる奴だ。綾女は姉さんなのではないのだが、今はそんな

ことをいちいち説明している余裕はない。

「モデルはお前だろう?」

 コタローは何とオレ様の絵(認めたわけではないが)のページを開いていたのだ。これ

はもう致命的としかいいようがない。

「どうしてその絵がオレ様だと思うのだ?」

「一目見ればすぐわかる。姉の弟への気持ちがよく描けているからな」

 こいつ目がおかしいのではないのか?

 どう見ればこの絵がオレ様に見えると言うのだ。

「とにかく、それを返すのだ」

 オレ様はあえて肯定せず、スケッチブックを奪還する。

 オレ様はちらりと茂みの方を見やる。瞳にハートマークを浮かべた綾女の顔が茂みから

はみ出していた。気に入らない奴だが、ここは綾女のために一肌脱ぐことにするのだ。

「尊酉綾女を知っているか?」

「お前の姉さん。そのスケッチブックの持ち主だろう。美術部の部長から聞いたことがあ

る」

 何だ、ちゃんと知っているではないか。

「妄想癖があるってな」

 綾女を知らない奴はみんなそう言う。

 オレ様のせいなのだ。繁政が死んだ後、綾女と離れたくなかったオレ様は学校にいっし

ょに行っていた。オレ様が見えないみんなには綾女がひとりしゃべっているようにしか見

えないのだ。次第にみんなは綾女には妄想癖があると言って白い目で見るようになった。

そんなことになっても綾女は決してオレ様を責めたりはしなかった。いつも笑顔でオレ様

の手を引っ張ってくれた。綾女に友達ができないのはきっとオレ様のせいなのだ。だから、

オレ様は学校に行くのをやめたのだ。綾女のために。しかし、みんなの綾女を見る目は変

わらなかった。

「貴様はオレ様のことが見えていたのに、どうして綾女を助けてやらなかったのだっ!」

 コタローが一言言ってくれていれば、綾女はみんなから白い目で見られずにすんだとい

うのに。友達だってたくさんできたかもしれなかったのだ。

「何わけのわからないこと言ってるんだ?」

 興奮するオレ様をコタローは子供扱いして頭をぐりぐりする。

 その時、コタローの手を通して奴の夢が、オレ様の中に流れこんできた 妖力を失って

も、人の夢だけは身体に触れることで感じることができるのだ。そして、その夢への想い

がオレ様のエネルギー源となるのだ。が、たった二人だけではまだまだ妖力を取り戻すこ

とはできない。

「貴様の夢は……」

「天ちゃん、何したの?」

 茂みの中からずっと様子をうかがっていた綾女が慌ててすっ飛んできた。

「尊酉」

 一瞬、コタローの表情が硬張った。

 それとは裏腹に名前を呼ばれた綾女は、すっかり舞い上がっていた。

「あ、ああああの、ごごごごごめんなさいっ! 邪魔する気はなかったんです。そそその、

スケッチブックをか、かか返していただこうかと思って」

 だめだ、こりゃ。

 コタローは自分のスケッチブックを閉じて、帰り支度を始めた。

「すすすすす好きですっ!」

 綾女、爆弾発言だぞっ。大胆すぎるというものだ。

「あ、えええ絵ですっ! センパイの絵が大好きなんです!」

 綾女は顔から火を吹き出しそうなくらい真っ赤になっている。

「俺の絵のどこが好きなんだ?」

 コタローは背を向けたままだった。

「うううまくは言えないんだけど、センパイの絵を見ていると温かくなって安心できるん

ですっ。だから、それを描いたセンパイは」

「決めつけるなよな」

「えっ?」

「絵がそうだからって、お前の枠内で俺をそういう人間だと決めつけるなって言ってるん

だよ」

 コタローの意外な冷たい反応に、綾女は戸惑う。

「そんなつもりじゃ……」

「何も知りもしないのに、勝手に決めつけられるのは迷惑なんだよ」

 言いたいことだけ言って、コタローは帰っていった。やっぱり不躾だった。それにして

も、なぜコタローはそんなことを言うのだ。

 奴の夢は……。

「あの絵を見ればセンパイがどんな人かなんてすぐわかるよ。好きになっちゃいけなかっ

たのかな。迷惑だったの……かな」

 語尾が震えていた。オレ様の上空は晴れのち綾女の涙雨に変わっていった。

「天ちゃーんっ!」

 綾女はわーわー泣きながら、オレ様に抱きついてきた。

 至福の喜び。

 と、言いたいところなのだが、この状況では両手を上げて喜ぶわけにはいかないのだ。

「綾女、あんな男のことなんかさっさと忘れてしまうのだ」

 オレ様は綾女を抱きしめるため、青年ヴァージョンへと変身する。妖力を失ったオレ様

がこの姿でいられるのは一日一回が限度。しかも、たったの三分間だけ。自分で言うのも

おこがましいが、青年ヴァージョンになったオレ様は超絶美形。コタローなど足元にも及

ばないのだ。

「やだっ! 綾女、センパイのこと忘れないもん」

 しゃくり泣きながらも綾女は言う。仕方ない。乗りかかった船なのだ。

「綾女はちょっとここで待っているのだ」

「どこに行くの?」

「綾女のためにコタローのことを知りに行ってくるのだ」

 オレ様は急いでコタローの気配を追った。






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