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 綾女は商店街を抜けると、白鳥公園に入っていった。この公園の中央には大きな池があ

って、この季節になるとたくさんの白鳥がやってくる。公園や商店街の名前の由来はここ

からきている。

 綾女は池の周りにあるベンチに座って泣いていた。

「そんな薄着では風邪をひくのだ。とりあえず、家に戻った方がいいのだ」

「いやよっ。お母さんが画廊を壊すのをやめるって言ってくれるまで帰らないんだから」

 強情なところは祐子にそっくりなのだ。

「しかしだ」

「天ちゃんは平気なの? おじいちゃんの画廊がなくなっても」

 平気なわけないのだ。あれは繁政の夢のかたまりだ。無にしたくない。だが、祐子の言

っていることもわかるのだ。

「ここは一度帰って、祐子と話し合ってみるのだ」

「いやったらいやっ! 天ちゃんはお母さんの味方する気?」

 オレ様も辛い立場なのだ。

「そうではないのだ。オレ様は綾女の身を心配して」

「悪いけど、姉弟ゲンカならよそでやってくれるか?」

 オレ様と綾女が大事な話をしている最中だというのに、横やり入れてくる野郎はどいつ

なのだ。

 そいつはスケッチブック片手に立っていた。

 高校、いや大学生くらいか。ここでスケッチでもするつもりだったのか? 男はまじま

じとオレ様を見ている。


 オレ様が見えている?


「茶髪にピアスか。最近の小学生はイカれてるな」

 男は小さくため息をもらす。明らかに小バカにしている態度。不躾な奴なのだ。しかも、

このオレ様をつかまえて小学生などとは無礼千万。礼儀というものを教えてやるのだ。

「誰が小学生だっ! オレ様はなぁ、むぐっ」

 言いかけて、綾女に口を塞がれた。

「ごめんなさい。邪魔しちゃって。どうぞここでお好きなだけスケッチしてください」

「…………」

 綾女はオレ様の手を引っ張って、ダッシュで茂みの中へ逃げた。





「なんで謝ったりするのだ?」

「あの人、天ちゃんのこと見えてたよね?」

 答えになってないのだ。

 綾女の目は虚ろだった。顔が赤い。でも、風邪とは少し違うようだ。

 オレ様はピンときた。綾女はあの男に会うために、毎週ここに来ていたのだ。

 ってことはだ。

「綾女はあの男のことが好きなのか?」

「ななななな何いきなり」

 どうやら図星のようなのだ。思いっきり動揺している。耳まで赤くなっているのだ。

「天ちゃんに隠しても仕方ないよね。あの人は秦虎太郎(はたこたろう)さんって言って、元美術部員だったの」

 綾女の話を簡略するとこうだ。

 そのコタローって奴が美術部員だった頃は、各コンクールに必ず入賞していた実力の持

ち主だったらしい。が、去年いきなり退部して絵を描かなくなり、勉学の鬼となった。

 それは綾女が高校に入学する前の話らしいのだ。

 で、綾女は部室に残っていたコタローの絵を偶然見てしまいファンになった。そして、

なぜか絵を描かなくなったはずのコタローが、毎週土曜日の決まった時間にこの公園で絵を

描いているのに気付いた綾女はコタローに会うためにここへ来ていたというわけなのだ。

 どうりでその日だけはオレ様を連れて行こうとはしないわけだ。

「コタローは綾女のこと知っているのか?」

「たぶん知らないと思うよ。学校では顔合わせたことないし、口きいたのだって今日が初

めてだもん」

 まさか、いつもこんな茂みに隠れて見ていたなんて言うのではないだろうな。

「いつもここから見てただけだったから」

「………」

 それはあまりにも悲しすぎるのだ。ここはオレ様が綾女のために一肌脱ぐのだ。

「あ――っ!」

 いきなり綾女は小さな声で悲鳴を上げた。

「綾女のスケッチブックがぁ」

 綾女が指差した先には、ベンチの上に置き忘れた綾女のスケッチブックを手に取るコタ

ローがいた。

「センパイに綾女の絵見られたら、恥ずかしくって死んじゃうよーっ」

 た、確かに恥ずかしいかもしれないのだ。

「オレ様に任せるのだ」

 オレ様は綾女のスケッチブックを取り返すため茂みを出る。

 が、オレ様が辿り着いた時には、コタローはもうスケッチブックを開いていた。




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