エピローグ
冬休みに入って、コタローは朝からずっと店で慌ただしく働いている。ついには綾女までが手伝いに駆り出される始末だった。信じられない状況なのだ。何もできないオレ様は、店先で黙ってその光景を見ていた。
そこへ。
「ぼうや、綾女というお嬢ちゃんがここにいると思うのじゃが?」
白髪に白い口髭を生やした顔中しわだらけのじいさんが話しかけてきた。
「オレ様はぼうやなどではないのだ。天丸というちゃんとした名前があるのだ」
そういうと、じいさんはしわだらけの顔をくしゃくしゃにして笑って、オレ様の頭をなでた。完璧に子供扱いしているのだ。って、ここにもオレ様を見える人間が現れたのだ。いや、このじいさんは……。
「ちょっと、ここで待っているのだ」
オレ様は綾女を呼んだ。
「あの何か?」
「託った物を届けに来たのじゃ。ほら、手を出してごらん」
綾女はじいさんの言う通りに右手を差し出した。じいさんは綾女の右手に小さな金色のベルを置いた。メッキが剥がれた錆ついたベルだ。
「これって、もしかして?」
もしかしなくても、間違いなく繁政からもらった『願いが叶うベル』なのだ。
「今度はなくさぬようにな、お嬢ちゃん」
そう言うと、じいさんは何処かへ去っていった。綾女はいつまでもじいさんに手を振っていた。
「尊酉、何かあったのか?」
心配になったコタローが様子を見にきた。綾女はうれしそうにコタローに説明する。
「へぇ、願いが叶うベルねぇ。で、尊酉は何を願うんだ?」
「雪」
「雪?」
「うん。だって、今日はクリスマスイヴだもん。ホワイトクリスマスってロマンチックだし」
欲のない奴なのだ。ま、もっとも今の綾女の願いといったらそんなもんなのだ。
オレ様の頬に何やらひんやりとしたものが触れた。空を見上げると真っ白な雪が降り注いできたのだった。
綾女は願いが叶ったと大はしゃぎだ。
にしても、この雪は本当にベルが叶えてくれたのか、それとも……。
あのじいさんが何者かだって? そんな野暮なことは聞くものではないのだ。
おわり




