4-2
「綾女、そこで一気に迫るのよ!」
頭上に忍び声で叫ぶ祐子がいた。おいおい、母親がそんなこと言っていいものなのか?
「あ、あああああのセンパイ」
ついに綾女、愛の告白の時なのだ。
「綾女はこの絵がとっても好きなんです。何となく画風がセンパイに似てるでしょう?」
オレ様と祐子がずっこけたのは言うまでもなかった。
「ちょっと、天丸。何とかなさいよ」
煮えきらない娘にしびれを切らした祐子はオレ様に言ってくる。何とかしろといわれても、何ともやりようがないのだ。
「見えてなくてもいることはわかってるんだからね」
祐子にはかなわないのだ。まったく、人、いや座敷わらしあつかいが荒いのだ。
仕方なくそーっと中に入ってみると、コタローが一枚の絵を抱いていた。
何があったのだ?
「間違いない。これは父さんが母さんをモデルにして描いた絵だ」
何と繁政が買った絵の中にコタローの父親の描いた絵があったのだった。
世間とは広いようで狭いものなのだ。
「おじいちゃん、言ってたよ。この絵には作者の愛情がたくさん満ちあふれてるって」
「父さん……」
「その絵よかったら、センパイにお返しします」
「けど、これはお前のおじいさんの」
「いいんです。この画廊もなくなっちゃうし。それだったら、センパイが持っててくれた方がおじいちゃんも喜ぶと思うの」
ふたりの距離はどんどん近付いていく。
綾女もコタローもオレ様が入ってきたことに気付いていなかった。
「尊酉、笑わないで聞いてほしいんだ」
「はい?」
「俺今回の事件でいろいろと考えさせられたよ。やっぱり夢を持つのも悪くないって」
「センパイの夢って何なんですか?」
「俺の夢は……」
少しの間をおいて、コタローは続けた。
「お前をモデルにして絵を描きたいんだ。そして、いずれはお前とずっといっしょに絵を描き続けていきたい」
こ、これはもしかしてプロポーズというやつではないのか。よくもそんなことがぬけぬけと言えたものだ。ちょっと気が早すぎるぞ、コタロー。
「天ちゃん、聞いた? センパイがまた絵を描いてくれるんだって」
「え?」
綾女がいきなりオレ様に抱きついてきたのだ。なんだ、オレ様が入ってきたこと気付いてたのか。って、違うのだ。コタローが恨めしそうな顔でオレ様を見る。
「綾女、肝心なところが抜けているのだ」
「何が?」
どうやらこのテのタイプにはストレートに言った方がいいらしい。
「コタローは綾女といっしょに絵が描きたいと言っているのだ」
「綾女と?」
「それがどういう意味なのかわかっているのか?」
綾女はしばし考え込んで、
「よくわかんないんだけど」
と、笑ってごまかす。オレ様とコタローは同時に大きなため息をついた。おそらく、ドアの向こうで聞き耳をたてている祐子もだろう。
「いいよ、天丸。焦ることじゃないからな」
なんか昨日のコタローとはずいぶん違うのだ。
「今度は逃げずにがんばってみるさ。母さんには苦労かけると思うけどな」
夢を取り戻したコタローの瞳は輝いていた。
「あ―――――っ!」
綾女が急に大声を上げた。
「もしかしてさっきの意味って?」
やっと気付いたのか。鈍い奴なのだ。
「天ちゃんをモデルにしたいってことだったんでしょう?」
「………」
「違うの?」
突拍子もない言葉にオレ様もコタローもどう返事をしていいのか困った。どう考えればそうなるのだ?
「そういうことにしておくか」
オレ様とコタローは顔を見合わせて笑った。仲間外れになった綾女は、頬をふくらませた。
その年の十二月。
繁政の画廊はなくなり、リカーショップ・たかとりがディスカントショップとして新装オープンすることとなった。
終わり。
と、言いたいところなのだが、この話にはまだ続きがあったのだ。




