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4-1



 宮郷が気を失っている間にコタローが警察に通報し、すぐに駆けつけてきた警官たちに宮郷は逮捕された。当然、綾女たちも事情聴取とかで連れていかれた。やっと自由になれたのは、太陽が顔を覗かせた頃だった。

「こんなこと言っても誰も信じてくれないんだろうなぁ」

 コタローは大きく背伸びをする。

「すまないのだ。しかし、綾女と話す機会ができたのだから、これもケガの功名というものなのだ」

 オレ様の言葉に綾女とコタローは目を合わせて顔を真っ赤にする。世話の焼ける奴らなのだ。

「尊酉、昨日は悪かった。実はお前が白鳥公園にいること知っていたんだ。あの時はいきなりだったし、絵に情熱をかけるお前にちょっとだけ嫉妬していたんだ」

「ううん。綾女の方こそセンパイの気持ち何にも知らなくって」

 ふたりはうつむいたままそれ以上は何もしゃべろうとはしなかった。せっかくのチャンスだというのに、ウブすぎるのだ。まあいいか。焦ることはない。このふたりにはこれからいくらでも時間はあるのだから。それにコタローがオレ様の大事な綾女にふさわしい男かどうか見極めなければならないしな。充分資格はあると思うのだが。

「綾女、家に帰ろうかな」

 綾女は小声で呟いた。

「綾女……」

「おじいちゃんの画廊がなくなっちゃうのはいやだけど、夢さえ忘れなければまた造ることできるだもん」

 この一件で綾女は大きく成長していた。

「俺も一度家に戻るよ。母さんが心配してるだろうし」

「待つのだ。コタロー。いいバイト先を紹介してやるのだ」






「リカーショップ・たかとり? 酒屋?」

 コタローは店の看板を見上げた。

「時給は安いが、あんな店よりは健全な所なのだ」

「あんな店って? センパイ何のバイトしてたんですか?」

 綾女が会話に参加してくる。

「いや、その」

 コタローは口篭もった。

「や、焼鳥屋なのだ」

「焼鳥屋さん?」

 オレ様は思わず口からでまかせを言ってしまった。しかし、綾女はそれで納得してくれた。

 家の中に入ったオレ様たちを待っていたのは憤怒の形相の祐子だった。包帯やバンソーコーだらけの綾女の姿を見て、祐子は見えないオレ様に当たりちらす。祐子の目は赤く充血して、くまもできていた。きっと一睡もせずに綾女が帰ってくるのを待っていたのだ。

「ごめんなさい、お母さん」        

 綾女は昨日あったことを一部始終話した。しかし、綾女の説明で祐子がどこまで理解できたかは謎である。

「天丸、あんたがついていながらどうなってるのよ」

 見えないはずなのに、祐子はオレ様に向かって怒りまくった。当たっているだけに反論できない。できたとしても、祐子には聞こえないのだが。

「それでね、お母さんにお願いがあるの」

 綾女は猫なで声で祐子に甘えた。

「そのさっき話した秦センパイをね、うちで雇ってほしいの」

「仕方ないわね。綾女の命の恩人じゃ」

 祐子は渋々許した。

「ありがとう」

 綾女はコタローの待つ画廊へ急いだ。

「あの子一晩でずいぶん大人になったような気がするわ」

 祐子は走っていく綾女の背中を見て呟いた。

 綾女は店を抜けて、画廊に入っていった。

 オレ様は気を利かせて、ドアの前で待つことにした。

 ドア越しに聞こえてくるふたりの声。

「この絵のモデルは尊酉なんだろう?」

「うん。おじいちゃんの最後の絵」

 コタローは飾ってある繁政の絵のことを言っているのだな。

「お前のおじいさんがあの尊酉繁政だったなんてな。名字が同じなんだからすぐ気付けばいいもんだけど」

「おじいちゃんの才能を受け継いでればもう少し絵がうまく描けたのになぁ」

 自覚はしていたのか。しかし、あれはもう少しというレベルではないのだ。

「そんなことない。お前はおじいさんの絵に対する情熱をしっかり受け継いでるじゃないか」

「センパイ」

 何かいいムードになってきたのだ。オレ様はドアに耳を押しあてた。




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