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「綾女、どうしたのだっ?」
綾女の顔がどんどん蒼白になっていく。
「空丸っ! 貴様、綾女に何をしたのだ?」
「その娘の周りだけを真空にしてやったのさ。今のオレならそれぐらい造作もないことさ」
「空丸、もうお前には何を言ってもムダなのか? あのおとなしかった空丸にはもう戻れないのか?」
「うっとおしいんだよ!」
空丸にオレ様の想いは届かなかった。
「天丸……」
綾女を支えていたコタローが倒れる。まさか、コタローも。
「コタローッ!」
「悪かったな。何の……役にも立て、なくて……」
「オレ様の目の前で死んだりしたら承知しないのだっ!」
コタローはムリして笑みを作ってみせた。
「空丸、オレ様は貴様を許さないのだっ!」
主人に害をなす者は排除しなくてはならない。オレ様の命に代えても空丸は倒してみせる。
「このオレに勝つつもりでいるのか?」
空丸は鼻で笑う。オレ様はゆっくりと空丸に向かっていく。
「オレ様は座敷わらしだ。主人を幸せに導くことが役目なのだ。それを放棄した貴様になど負けたりはしないのだ」
オレ様は限られた妖力を右手に集中させた。こんなことになるんだったら、青年ヴァージョンになどなるのではなかったのだ。
「天……ちゃ、ん。ダメ……だよ」
綾女は苦しげな声でオレ様を呼び止める。
「綾女!」
「せっかく……会えた、仲間なんで、しょう。ケンカ、なんか……しちゃ……」
綾女は言葉を絞りだそうとする。自分をこんな目に合わした奴なのに。戦うなって言うのか?
「綾女はバカなのだ」
涙が止まらなかった。
「空丸、もうひとりも始末したのか?」
オレ様が見えない宮郷は焦っていた。オレ様が死んだかどうかがわからないのだ。
「空丸っ!」
宮郷の催促する声が飛ぶ。
オレ様は覚悟を決めた。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
空丸は獣のような雄叫びを発した。
「オレは絶対に認めない。そんな人間がまだいることを」
空丸は妖気の塊をぶつけてきた。
オレ様は綾女とコタローを守るため前に出た。オレ様は自分の身体でそれを全部受け止めた。妖気を通して伝わってくる空丸の憎しみと哀しみ。奴は大切な主人を時代から守ってやることができなかったのだ。だから、時代を恨み、負のエネルギーを受け入れたのだ。
でも、それは間違っているのだ。
「空丸、このふたりの夢を感じるのだ。まだ世の中には時代に負けず、夢に向かって生きている者はたくさんいるはずなのだ」
「もう手遅れなんだよ」
空丸の笑みに淋しさが宿る。
その時、空丸はすでに綾女たちの周りの真空を解除していたのだった。オレ様はまだそのことに気付いていなかった。
「空丸?」
空丸の足が一瞬透けて見えた。
「何をしている? 早くあいつらにとどめをさせ!」
「うるさいんだよ。ゲス野郎が」
空丸は妖気で宮郷を吹き飛ばした。宮郷は壁に頭をぶつけて気絶する。
「まさか、貴様……綾女の夢を」
「そうだよ。オレの中にあの子の夢が流れてきたんだよ」
負のエネルギーを受け入れた者が正のエネルギーを吸ってしまうと、拒否反応を起こし消滅してしまうのだ。
「だから、お前の主人を想う気持ちを確かめたくなった」
今度は空丸の全身が透けてきた。オレ様は急いで空丸に駆け寄る。
「もっと早くお前に会いたかったよ……」
「空丸っ! 消えるなぁっ!」
消えようとする空丸をオレ様は必死で抱きしめた。空丸はオレ様の腕の中から消えていった。
「天ちゃん」
綾女がオレ様を抱きしめてくれた。いつもと逆なのだ。
オレ様は綾女の胸の中で声を殺して泣いた。




