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3-3



 地下は上のログハウス以上の広さだった。部屋が幾つもあり、その都度コタローに符を剥がしてもらう。

「何なのだ、この部屋は」

 行く部屋すべてに四季折々の情景がセットになって置かれていた。

「おそらく、ゴーストに風景画を描かせるために作ったんだろう」

「手のこんだことをする奴なのだ」

 オレ様たちは次の部屋へ向かう。そこは鉄格子に閉ざされた冷たい部屋だった。牢獄みたいなのだ。

 誰かいるのだ。どこまでが髪の毛でどこからが髭なのか。もう区別がつかないほどボサボサに伸びきっている。顔はよく見えないが、その細い腕を見る限りではかなり痩せ細っているのだ。年寄りのようにも見えるが、何才ぐらいなのか検討もつかない。テレビで見たことのある囚人の方がまだマシなのだ。きっと宮郷のゴーストをやっている奴なのだ。もしかしたら、綾女の居場所を知っているかもしれないのだ。

「おいっ!」

 男は反応しない。オレ様の声が聞こえてないようだ。ってことは見えてないのだ、オレ様のことが。

「コタロー、奴に綾女のことを聞いてみてほしいのだ」

「わかった」

 コタローは鉄格子に顔を近付ける。

「ここに高校生ぐらいの女の子が連れてこられなかったか?」

 コタローの不躾な問いに、今までピクリとも反応しなかった男が目をむき出しにしてこっちにやってきた。

「た、助けてくれ。このままでは俺は宮郷に殺されてしまう」

 かすれた声を絞りだすように男は言った。

「窪田さん? あんたもしかして窪田さんじゃないか?」

 コタローは近付いた男の顔を見て声を上げる。

「俺だよ。秦満治(はたみつはる)の息子の虎太郎だよ」

「秦の息子? 虎太郎くんなのか?」

 コタローとこのゴーストの男はどうやら知り合いだったらしい。男は涙を流している。

「コタロー、涙のご対面は後にするのだ」

「あぁ、わかってるよ」

 コタローは再度綾女のことを聞く。

「その子ならこの奥の部屋へ宮郷が連れていったよ」

「奥の部屋だな」

「すまない、虎太郎くん。こんなことになるんだったら、秦の言うことをちゃんと聞いておくべきだった」

 男はコタローの手をしっかりと握りしめて懺悔した。

「父さんの?」

「俺がゴーストになるのを最後まで反対してくれたのが、君のお父さんだったんだよ。夢は捨てるなってな」

「父さんがそんなことを……」

「コタロー!」

 オレ様はしびれが切れたのだ。コタローの手を引っ張る。

「窪田さん、もう少しの間だけここで辛抱しててくれ。後で助けにくるから」

「気を付けるんだぞ。奴は変な力を持っている」

「わかってるって」

 オレ様たちは奥の部屋の前に立った。この部屋の鉄扉には符が貼られていなかった。

 まさか、もう綾女は。

 オレ様は慌てて中に入った。この部屋のセットは雪国の小さな神社だった。百年前を思い出させる、そんな懐かしい光景だった。

「綾女っ!」

 綾女は傷だらけになって作り物の雪の上に倒れていた。

 コタローが綾女を抱き起こす。

「尊酉っ!」

「あれ……センパイ? 綾女、夢見てるのかな?」

「綾女、しっかりするのだ!」

 意識が朦朧としている綾女に、オレ様は何度も声をかける。

「天ちゃん、どうしたの? 傷だらけじゃないの?」

「綾女ほどではないのだ」

 綾女は傷だらけの手でオレ様の頬をなでる。

「すまないのだ。オレ様が腑甲斐ないばかり

に、綾女をこんな目に合わしてしまったのだ」

「そんなことないよ。天ちゃん、ちゃんと綾女を助けにきてくれたもん」

 綾女はにっこりと微笑んでくれた。

「感動のご対面はすんだか?」

 賽銭箱の上に、狂喜した空丸はいた。

「空丸! なぜ負のエネルギーを受け入れたりしたのだ?」

「オレは時代に従っただけさ」

「空丸、早くこいつらを始末しろ」

 負のエネルギーを媒介とする妖怪ならどんな人間でも姿を見ることができる。自分の秘密を知られ崩壊を恐れる宮郷は、怯えた目で空丸に命令する。あくまで自分の手は汚さないというわけか。こんな男が空丸の主人だとは。

「空丸、目を覚ますのだっ!」

「目なら覚めてるさ」

 空丸は綾女を見て、ニタリと笑った。

「尊酉っ!」

 コタローが叫んだ。綾女が急に胸を押さえて口をパクパクし始めたのだ。




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