プロローグ
オレ様の名は、天丸。誰がつけてくれたのかは知らない。気が付いた時には仲間たちに
そう呼ばれていた。人間たちはオレ様のことを『座敷わらし』と呼んで、家を幸せに導いて
くれる妖怪として重宝してくれた。
が。それは百年前までの話だ。
人間たちは時代とともに裕福になっていき、オレ様は必要とされなくなった。人間たちの
夢といっしょに、オレ様たちの妖力もなくなっていった。そして、妖力を失った仲間たちは
次々と消滅していく。生き残る道はひとつだけあった。それは負のエネルギーを受け入れる
ことだ。すなわち、人間の純粋な心ではなく、淀んだ悪意な心をエネルギーにするのだ。し
かし、オレ様にはそんなことはできなかった。
ついにオレ様にも年貢の納め時ってのがやってきた。
と、思った矢先のことだった。
「どうした、ぼうず。お腹が空いているのか?」
夢を忘れてオレ様の姿が見えなくなったはずの人間の中に、オレ様のへばっている姿が
見える奴が現れたのだ。
その人間の名は、尊酉繁政。後で知ったのだが、繁政は日本では一、二を争う天才画家
だったらしい。しかし、戦争で右手を失い筆が持てなくなっていたのだ。だが、繁政は絵へ
の情熱を捨てることができず、戦後間もない街に画廊を建てたのだった。その想いがオレ様
を救ってくれたのだ。
妖力を失ったオレ様は生きていくだけが精一杯で、繁政の右手を治してやることはできな
かった。
こんな役立たずのオレ様を繁政は温かく迎えてくれた。
そして、その出会いから五十五年後に繁政は死んだ。




