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ランプの神様のマッサージ

作者: きのめ

癒し系小説が書きたくて、専門家ではないのでかなり適当なとこもあります。


12月の真夜中、窓の外ではゆっくりと雪が降っている。


静寂は耳に痛いほどだが、先程までつけていた暖房のお陰で部屋は暖かい。


明日は休日、暖かな毛布をかけベッドに横になる。足元においた間接照明は、音もなく部屋を柔らかく照らしてくれる。


うとうとと疲れた足を投げ出していると、そっと足を持ち上げられた。


『ほら、足を出して寝ると寒くておきちまうぞ。暖かくして寝ないと』


踵を手のひらで包まれ、優しく足の甲を擦ってくれる。じんわりと手のひらから伝わる熱が、じわっ、と血の巡りを良くしてくれているようだ。


痺れるような気持ちよさが、擦られている患部からじわじわと頭の後ろまで昇ってくる。痺れが頭の後ろがわまで来たら、そこから暖かさが全身に散って行くようだ。


今の家に越してきて半年。

前の住人が置いていった間接照明をつけると、お節介な同居人が現れるようになった。


最初は寝ているときにそっと皿洗いをしてくれる程度だった。


洗った覚えのない食器がきれいになっているものだから、最初は気でも違ったのかと大騒ぎをしてしまった。


部屋の戸締まりは厳重にし、ビデオカメラを設置して犯人を探ってやろうともした。

だが、決まってそういう時は現れず、そうこうしているうちに一月がたった。


時が経つごとに洗濯物干しから掃除機かけ、冷蔵庫のあまりを使った作りおきのおかずまで用意されるようになった。


しかも、自分がやってほしくないと思ってるときは必ずそのままだったし、困ってる時や面倒なときだけ世話を焼いてくれるのだ。


これはただ者ではない、神の御業に違いないと慌てた私は、いい加減に作った神棚に、酒と饅頭を供えたのだった。

拙い手紙を添えて。


『あなたは神様ですか?目的はなんですか?』


そして、帰宅した私に神より一筆。


『アロマランプのオイルを用意してほしい』




@@@@@@@@@@@@@@@@





『今日もまた足の裏が硬いな、姿勢を治せといつもいってるだろ』


お節介な神様は、どうやら男の人のようで、声は渋くて低いバリトンボイス。年齢の方はよくわからないが、おそらく二十代後半から三十代後半くらいだろう。


というのも、神様だからなのかは知らないが、顔を見ようとすると、フッ、と消えてしまうのだ。


現れるのは決まって私が寝付く少し前。

なので、私が目にするのは服のはし、指先、髪先などほんの一部に過ぎない。


これでも頑なに姿を見せなかった彼と会話を交わせるまでになった経緯を考えると、欲張るのはやめとこうと決めている。


一度騙し討ちをして姿を見ようとしたときは、その後一週間も姿を現さず、不安に押し潰されそうになった為、もう無茶はできない。


『今日はベルガモットとジャスミンのブレンドだ。リラックスできるだろ』


チリリ、とランプにオイルが暖められている音がする。


前の住人が置いていった間接照明は、どうやらアロマランプだったらしく、私はそのランプの神様だと勝手に納得している。


そこでランプの神様なんて洋風な彼に饅頭なんてお供えできない、と思い、一時期クッキーを供えていたが、『あの、前の柔らかい、甘い、粉のついた菓子はもうでないのか』と言われてから、供え物は饅頭が定番となっている。


ちなみに、これが彼とのファーストコンタクトとなる。


『お前がこの間買ってくれたクリームを使ってみようと思ってさ、ハチミツの香りが仄かで、くどくなくていいな』


心なしかうきうきとした口調で、彼がクリームの入った平べったい丸缶をあけた。

シアバターとハチミツのクリームだが、さっと溶けるようなテクスチャーで、私も気に入っている。


カシッ、シュー、と金属の蓋を開けて回す音が耳に心地よい。


『右足からさすっていくぞぉ、お前はいつもばきばきに凝っているから、まずは揉まずに撫で擦りからだ』


足の側面にちょんちょんとつけたクリームを、刷り込むように両手で撫でさする。足が冷えてるのか、彼の体温が高いのか、熱いほどの両手でほどよく擦られると、それだけで足の硬いところが溶けていくようだ。


ぐにぐにと両手の親指で、足の中心から指がわに何度も何度も流し擦られる。

クリームのお陰で摩擦もなく、心地よい圧力が足全体を弛緩させていく。


『きもちいいか?今週は残業も多かったしな、疲れが出たんだろう。安心しろ、この俺が今週の疲れをきれいさっぱり流してやるよ』


そういって丹念に土踏まずから親指の付け根まで、窪みに沿ってすりあげる。


十分擦りあげたら今度は指。一つ一つ指の腹を軽く摘んでぎゅーっ、指の両側面も軽く摘んでぎゅーっ、ゆっくり時間をかけて丁寧に指圧する。


また少し足が冷えてきたら手のひらを当てて暖める。そのまま踵に暖めたクリームを足し、手のひらの親指の下の腹を使ってぐいぐいさする。



もう瞼をあげているのも辛い。彼の手が、ゆっくりゆっくり足の塊を柔らかくして、溶かしていくよう。


『ふふっ、寝てもいいんだぞ、いつも無理して起きてようとするけど、最後まで起きてたことないだろ』


足元から、そっと吐息をつくくらいの、優しい笑い声が聞こえる。

なんの、まだまだ寝てたまるか。必死に彼の手に集中する。


再び苦笑が聞こえて、足の撫で擦りが再開した。


踵をぐいぐい擦ったら、中指の関節を尖らせて強めに押す。踵は皮膚も硬いので少し痛いくらいでちょうどいい。


踵が終わればまたクリームを足し、こんどは足の両はじを縁取るように擦る。


足裏を片手で包み込むように、親指だけ足裏の縁を滑るように、残り四本の指でぎゅっと足を握る。

ゆっくり親指を少しずつ、踵がわから親指がわへ、それが終われば踵がわから小指がわへ。じりじりと少しずつ進んでいく。


『足裏は終わり、次は甲だな』


甲は薄いのでクリームを多めにそっと触れるくらいの感覚で擦ってくれる。


『よし、次はつぼ押しだな』


とたん、ひきつるような痛みが襲いかかってきた。痛いと訴えると彼は意地悪くにやりと笑った。(ような雰囲気がした)



『ここは胃だな、先日の飲み会で無茶しただろ。荒れているみたいだ。暫くは暴飲暴食は控えて、菜食中心にするこったな。じゃあここは?』


とんでもなく痛い。悶え苦しんでると、少しあわれに思ってか擦り押しに変えてくれた。


『ここは肝臓、アルコールもほどほどにな。明日は俺が滋養にいい粥でもつくってやる、しじみがいいな。酒飲みに効くから』



ほんとうに痛いが現金なもので、明日の朝が楽しみになってきた。

しじみの粥は以前も作ってもらったが、本当に美味しかったのだ。


生姜の入った醤油で味付けした粥で、しじみの旨味がぎゅっと詰まったような深みのある味だった。


以前も酒の飲みすぎで怒られたのだが。


『他のとこは大丈夫そうだな』


続けて押されるところは痛きもちいいほどで、やはり無茶な飲み方が響いてるようだ。年には勝てない、などと思ってしまう。


『まだ若いくせに』


勝手に考えを読んでくる。

神様は勝手だ。


最後にクリームをまた足し、足首から膝までリンパを擦り流す。


体重を込めてぐぐーっ、擦られると、そこからポカポカと血が巡り出す。


シュッ、シュッ、とふくらはぎも上からした、したから上へと撫でさする。


下から上へは心持ち強めに。ぎゅ、と絞るような揉みかたをして、再び足裏をを包むように指圧して終わり。


右足が終わり、左足に差し掛かるところで、私の意識はすとん、と眠りに落ちた。



@@@@@@@@@@@@@@@



朝、いつになくすっきりとした目覚に、早朝にも関わらず私は体を起こした。


窓から差し込む光は眩しく、雪の白さも手伝ってか申し分ないよい天気だ。


足のだるさは完全になくなり、ぐうう、と伸びをする。


台所から件の粥の香りがする。食欲をそそる香りに、腹が盛大になった。



いい天気だし、まだ暖かい豪華な朝御飯を頂いたら外に出掛けよう。


シャイな同居人のために、とびきりリッチな饅頭も買おう。


そう決めて、いそいそとしゃもじを取りにキッチン向かった。

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