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緋色のヒーロー  作者: 神谷 秀一
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尋問?

「いやぁ、ボクはびっくりしたよー」

 どういう意味でびっくりしたかはわからないけど、とりあえず俺としては壊れかけた通路をゴジラの如く破壊して回った緋色にびっくりだよ。

「まあまあ、お二人とも静かにしましょう。折角渚さんがお休みになったのですし」

「そうだね」

 現在は女性側の更衣室で休憩を取っている最中だ。ちなみに意識を失った男は、更衣室のハンガーから抜き取った針金で手足を縛ってプールの前に転がしている。ちなみに流れるプールは動いていないものの水は張った状態を保っていた。

「でも、意外と広いねここ」

 見回せば暗いのは変らないけど、覗き防止用の二重ドアの先にあるのは六台のベンチが置かれた休憩所。広さとしてはベンチ側が十畳くらい。ロッカー側は二十畳くらいのものか。ちなみにプールへの入り口はベンチ側にある。まあ扉一枚向こうという近くに犯罪者がいることにいい気はしないが、今は休む方が先決だった。

 人間いつだって平気だと思いつつ、その底では疲れが溜まっていくものだ。特にこのような極限の状況では、見えない疲労は存外に蓄積していく。まあ、緋色や俺に関してはそこまで気にするようなことではないのかもしれないけど、幼い渚ちゃんは現に眠っている。

「しかし、何であんな人が居たのでしょう?」

 と犬子さん。

「たまたま、犯罪者の人がバカンスに来てたんじゃないかな?」

 その可能性もないことはないけど、あえて言わせてもらうなら本人に聞いた方が早いんじゃないかな? だってまだ生きてるし。

「少なくとも近寄らないに越したことはないのでは? ああいった人種は得てして良くも悪くも影響を与えます」

 犬子さんとしては、殺人者の臭いを撒き散らす輩には近づきたくないのだろう。それに関しては俺も同感だけど、悪人の更正を趣味にしている緋色はうずうずしているようだ。

 おい緋色。勝手に動くなよ。

「わ、わかってるさ!」

 いや、わかってないだろお前。

「優さんとしてはどうしたらいいと思いますか?」

 言うまでもない、プールに叩き込めばいいんですよ。

「いや、あの、手足縛られてるから、間違いなく溺れ死んでしまうかと………」

 いや、そのつもりですから。

 そういうと感情の起伏が薄い犬子さんの顔が驚愕に歪むが、俺としては当然の提案をしているに過ぎない。だってそうだろ? 殺人者の動きを奪ったからって本質は変らない。いつこちらの命を狙うかわからないのだ。平時なら警察に任せるけど、今現在の状況はそうじゃない。

 実行の有無はともかくとして、意見の一つとしては当たり前と思うけど?

「そんなこと考えてるの優だけだよ!」

 むぅ、なかなか意見は一致しないものだ。

「一致されても困ります」

 そこまで言われたら仕方ないですね。俺としても穏便に済ませたいのは山々なので、平和的に尋問することにするとしますか。

「尋問の時点で平和とは程遠いと思いますけど」

「というか優に常識を求めるのが無理な話かも」

 お前らな・・・

 まっいいや、とりあえずあの殺人者さんに話しでも聞いてこようかな。

 あ、ちなみに犬子さんも寝て置いてください。俺も緋色も大丈夫だけど、犬子さんは見た目からして体力なさそうですから。

「そんな、私も話を聞きに・・・」

 あの男からの話に真実は求めてないから嘘発見器はいらないんです。それに、俺としては緋色にだってあの男を会わせるつもりはない。あ、ちなみに嘘発見器以降は言葉にしてないから大体で察してくださいね。

「あなたはすごいですね」

「え、どういうことなのワンコちゃん?」

 ま、そういうことだから緋色、犬子さんと渚ちゃんヨロシクね。俺はちょっと話し聞いてくるから。

「ボクも行くよ!」

 その間二人を放置しとくのか? ちなみに俺には危機感知能力なんて異能はないぞ? 万が一の事態はどうにかできるのか?

「う、うう!」

 はい、というわけで俺は一人で行ってきます。緋色、二人のこと頼んだよ?

「・・・わかった」

「私も少し休んでます。移動する時に起こしてください」

 俺は頷いてベンチの先の扉をくぐる。そのまま扉を閉じて、目を洗浄するための水道の群れを無視し直線を歩くこと五メートル。そして、更に覗き防止用の扉を開きコの字の通路を歩いた先にあったのはどこまでも広い薄暗い水面だった。


 あるのは非常口の存在を示す緑色の光と、砕けた蛍光灯が発する断続的な火花のみ。そして、くぐもった悲鳴にも似た男の声は雑音と評するには耳障りだった。

 地熱で湿度の上がった不快感に眉を寄せつつ、俺は水面近くの縁に寄る。その足元には芋虫が一匹。正確に言うなら芋虫のような格好をした成人男性が一人。

 赤い髪に野生的な風貌の筋肉質な痩躯。目立つ点といえば派手なアロハシャツと……そのくらいだ。

 ちなみにその眼光は鋭く俺の眉間に突き刺さっているけど、そんなのは知ったことではない。むしろ、人を銃で狙っておきながら何様のつもりだと言ってやりたい。

「おい、俺をいつまでこのままにしとくつもりだ?」

 できるならこの世の終わりまで。

「っざけんなよ! テメェなんぞ体が動けばいくらだって殺してやることができんだからな!」

 そうですね。そうですか。そうでしょうね。三段活用。無論間違ってるけどね。

「って待て! 押すんじゃない! そのままだと俺水の中に落ちるから爪先ストップ!」

 ちなみにこのプールの端には上級者用、水深三メートルという旗が立っている。手足が動かなければ簡単に水死体が出来上がる仕組みだ。

 さて、それじゃ聞きなおそうかな? あなたの名前は?

「サカイ カナデだ」

 はぁ、あからさまな偽名だけどまあいいや。僕様の名前はベストフレンド。どちらにせよ忘れてくれていい名前なんでヨロシク。

「って、そっちこそ偽名じゃねぇか! あ、スイマセンなんでもないです!」

 運良かったね、後一歩で叩き落すところだったよ。

 ・・・さて、聞きたいことがあるけど答えてもらおうかな。ちなみに偽りを感じたら問答無用でプールに叩き込むから。あと、俺の不快度指数が上がっても同様、君は間違いなく死ねるね。

「何だよその弾劾裁判は!」

 あ、死にたいのか。オーケイ僕は有言実行の人です。

「はいストップー! 何でも聞いてくださいこの野郎!」

 うん、いい兆候(ちょうこう)だね。さて、質問開始。君は何者?

「殺人請負人……ヒットマンで通じるか?」

 まあ、それは大体察していたけどね。ここにいたのは偶然?

「違うに決まってる。ある奴を殺しに来たのさ」

 うん、どこまでも腐ってるねサカイさん。

 というか目標は誰? どういう状況で誰を殺そうとしていたの? そして、ここに来る途中女性が一人死んでいたけど君の仕業?

「あん、テメェは違うのか? ただの付き添い?」

 質問してるのはこっちだよ。迂闊な質問で寿命を縮めないようにね?

「あ、はい! ええと途中の女は誰かは知らないけど、俺はやってねぇ。ここに何人同業者がいるかは知らねぇが、潰しあうのは素人のすることだ。それと」

 サカイさんは一回言葉を切る。そして、視線を壁の向こうに向けて、

「・・・・・だ」

 うん、オーライ。それだけ聞ければ十分だ。他は何も聞かなくていい。というか黙れ。

「お、おい。俺は言うべきことを全部言ったから………」

 さてさて、それ以上は黙ってよ。というか黙れ。

 という結論から、俺は転がったままのサカイさんを蹴り飛ばす。

「っ!」

 当然のことながら、彼の身体は水面に落ちる。その下にあるのは水深三メートル。下手すれば簡単に死ぬことができる地獄の入り口だ。

「っごぼ! て・・めぇ! 話しが・・・・・・違うっ・・ぞ!」

 見えるのは波紋を生む中央で足掻くサカイさんの姿。言うまでもなく手足は縛られたまま。今は生きているかもしれないけど五分後はどうだろうね?

 ただ、俺から言えることは一つ。

 力を抜きなよ。人間は浮けるようにできているからね。息を吸って肺に空気を入れればそれだけで浮くことはできる。後は救助が来るまでそれを維持できれば死ななくてすむ。

 ほら、簡単だろ?

「て・・・めぇ! ぼっ・・ころ・・・・」

 ほら、無駄に酸素を使うとその分死ぬよ? 死にたくないなら呼吸を続けること。無理な運動と言葉はそのまま死に直結するからあしからず。

 ・・・ああそう。

 言い忘れたけど、救助されたら改心して逃げ延びることだ。間接的とはいえ君は俺の恋人を狙ったからね。それイコール、この程度で済むことに感謝しなよ。本来だったら、重石をつけて叩き込んでいるはずだからね。

「ごぼっ! て・・・めえ・・・げっ!」

 俺は背を向ける。当然だよね、聞きたいことは聞きつくしたのだから。詳細はわからないけど……いやわかるけど、言葉にしなくたっていい事はあるのだ。だからこそ、俺は背を向けたまま歩みを続ける。

 緋色達のいる場所を目指して戻っていく。背後の水音などまったく気にせずに。


 戻れば三人は寝ていた。

 どこまでも無防備で触れようと思えばどこにでも触れられそうなそんな状況。

 選択肢としては、

1 緋色

2 犬子さん

3 渚ちゃん

 いや、3はないだろ。さすがにそれは犯罪だ。つーか、緋色に殺されかねない。

 なら2は? 灰色の髪に隠れたまぶたは閉じられたまま。だけどスーツに包まれた細く小さな矮躯(わいく)はそれなりの起伏を生みつつ静かに揺れている。くっ、なかなかの強敵だ!

 そして、1。これは相当おいしい状況だ。紅のスーツは趣味の一環として受け入れるものの、実った双丘の果実はどこまでも収穫を待つそれだ。それにミニスカートのから伸びる白い足は………

 まずい! これは大変まずいですよ皆さん!

 本能は飛び掛れといっている。だけど、この状況でそれを行えば間違いなく俺は死ぬ! だけど、アダムは禁断の果実を我慢できなかったではないか! つまりは我慢不要! 俺は飛び掛るべく距離をとる。この場合必要なのは積極性。状況ではないのだ! だからこそ、俺はルパンダイブを実行するため四肢に力を込めて………

「・・・優ぅ」

 その寸前で止まった。

 覗き込めば、むにゃむにゃと口元を動かすネコのような緋色の、満足そうな寝顔が見えた。

 ・・・・・畜生。こんな顔をされては止まるしかない。

 だからこそ、空いたベンチに腰を下ろすと、警戒心皆無な三人の女性たちを見据え溜息一つ。

 状況考えろよ。

 お前がな、と心の中の僕が言った。


 三人が眠っていたのは二時間ほどだった。その間俺はロッカーの内部を漁るなどして物資の確保に努めていたが、目に見える収穫は無し。

 そんなこんなしているうちに緋色が目を覚ました。

「あ、ごめん。ちょっと寝てたみたいだね」

 構わないよ。休んでおくに越したことはないしね。

「だけど、変な事はしなかったよね?」

 お前、一体どういう意味だよそれは?

「優だったらパンツでも脱がしかねないと思ってたから」

 覗く以前に剥ぐのが俺かよ、というか俺どこまでもハイエンド!

「うん、元に戻された形跡もないから、本当に何もしてないようだね」

 おいおい、俺のような安全な男を捕まえてそんなこと言うなよマイレディ。

「うん、だって優オカシイもん」

 色々言いたいことはあったが次に目を覚ましたのは犬子さんだ。起きるなり彼女は自分の手足を鼻に近づけてクンクンしていた。

「何もされていないようですね」

 ………おい。

 お前達の俺への評価はどこまで不当で間違ってると声を大にして言いたい。少なくとも俺は眠ったままの緋色達の安全を守るべくだな………

「はいはい、それじゃ準備しようよ」

 おーい緋色さん俺の話聞いてます?

「ところであの犯罪者さんから話は聞けましたか?」

 犬子さんまでスルーかよ。

 ってまあいいけど、質問の答えを言うならノーですね。大した話は聞けませんでしたよ。だけど、ここに来る前にあった死体は自分が殺したものではないと言っていました。まあ、どこまで事実かはわかりませんけど、多分嘘はついていなかったでしょうね。

 まあ色々と脅していたから嘘もつけられなかったのだろうしね。

「なんか一瞬嫌な気配が匂いましたがいいでしょう」

 ホント鋭い人だ。迂闊にエロイことも考えられないよ。まあ、それなりに妄想パワーは溜まっているからしばらくは持つだろう。

 そんなこんな考えて向かい合っているうちに、緋色の膝を枕にしていた渚ちゃんが目を覚ます。無論、言うまでもないことだが俺は何もしていない!

「んにゅー、おはようおねーちゃん」

「うん、おはようなのさ渚ちゃん!」

 なぜにそんなテンション高くいられるのか秘訣を聞きたいところだね。もっとも、俺の感情は常にローギア状態なので真似するつもりはないけどね。

「そんな優さんは見たくないですね」

 犬子さん、その言葉そっくりそのまま返します。

 とりあえず無駄話はここまでだとしても、俺達は手早く準備を始めていきます。少しだけど休んだ効果もあったのだろう。本来ならしっかりとした休憩が必要なのだろうけど、そうも言っていられない状況だ。

 ここに入る前に言った通り、一夜を過ごすための環境と安全だ。さっきプールに叩き込んだような連中が他にもいないとは限らないのだ。っていうか絶対いるね。緋色はともかくとして、俺としては気を抜いている暇なんてないのだ。

 ・・・なんせ、犬子さんだって信用できていないからね。

「そうですね」

 当然向こうには筒抜けだろうし、俺はそこに関しては隠すつもりだってない。つまり、前髪に隠れたまなざしと、小さな唇が微笑を浮かべたのも素直に可愛いと思ってしまうほどだ。

「うふふ、照れますね」

 まあね、いつだって僕は素直な少年ですから。

 ってね、大した狐だよ。俺も、犬子さんもね。

「すーぐーるー」

 なんだよ緋色? 俺は無実だ。

「何も聞いてないし言ってないよ! でも、渚ちゃんのご両親を捜すためにきたっていうのに君はワンコちゃんと仲良くしたりして不謹慎だと思わないの?」

 ははは、緋色は面白いことを言うな……って痛い! 緋色腕折れる! ギブ、ギブアップ!

「ほら、さっさと進んで正義の助けを求めている弱者を救いに行くんだ!」

 引っ張るな! いや、引っ張ってもいいから力抜け! 折れる! ホントに折れるから!

 という間抜けなやり取りをしていたわけでありますが、この後俺達は一回フロアを目指して進んだわけだけど、何のドラマもなく、被災者……緋色に言わせると弱者と出会うことになる。

 しかも、誰がどこにいるのかわからないという喜劇的な状況ではなく、皆揃った状態で救助を待っていたという、どこまでも当たり前な現実と向き合うことになります。そして、その中に渚ちゃんの親がいない、なんて事もなく彼女はお父さんお母さんと出会えましたとさ。

 つまり、俺から言わせてもらうとお涙頂戴、感動の再会シーンがあったのだけど、そこは割愛させてもらう。むしろ、次から描写される物語はどこまでも当たり前で、どんなに人間が醜いか再確認させてくれるような場所から再生するとしますか。


二回目の回想終了。次回をお楽しみに♪

 って俺誰に向かって言ってんだよ。


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