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緋色のヒーロー  作者: 神谷 秀一
14/18

迷走

 翌日、蒲原さんの死体が目の前にあった。

 正確に言うなら蒲原 祭さんと思しき死体が目の前で倒れていた。

「す、優ぅ・・・」

 顔面が陥没している。頬骨が砕け、皮膚は裂け、ピンク色の筋肉が血潮に汚され晒されている。眼球は破裂し、割れた頭蓋は脳漿を床に曝け出している。そんな死体だ。

 生前の面影なんてものはない。だけど、俺は断言できる。彼女が彼女であると言う断言の証明を。

「そんな・・・蒲原さんまで・・・」

 ゲームならバッドエンド一直線。残っているのは俺に緋色、犬子さんに美代子さんと渚ちゃん。ついでに怪我人の二人だ。ちなみに今現在誰も怪我人の状態は確認していないので場合によっては死んでいるかもしれないが関係ない。むしろ、このまま死んでくれたほうが都合がいい。

 ・・・なんせ、犯人が確定するのだから。


「・・・優?」

 緋色の不安げな声に俺は内心笑ってしまう。何でかって? むしろ笑わない緋色が理解できない。なんてったって、


「あんた達ぃーーーーーーーーーーーー!」

 握った包丁を腰だめに構え一直線に飛び込んでくるのは美代子さん。言うまでもない殺人行為。

「っ!」

 だけど、緋色は動かない。

 けれど、犬子さんは動けない。

 だから、俺は動く。

「優っ!」

 一歩だけ踏み出し、緋色と犬子さんの楯になるように、身を晒し。


 問答無用で蹴り飛ばす。


 痛む膝の絶叫を無視して、膝と腰の螺旋運動が流れのまま右の中段回し蹴りとして射出。狙いは突き出される刃物ではなく左手首。インパクトの瞬間鈍く何かが砕けるような感触を爪先に覚えたが、構うことなく足を振り抜いた。

 同時に刃物が地面に転がる甲高い音と、悲鳴交じりの低い苦悶と鈍い音が床に落ちた。

「優やり過ぎ!」

 緋色に言われて眼下を見下ろせば、蹴り抜かれた手首を押さえ込んで呻く、美代子さんの姿が視界に映っている。

 うん、上出来な結果だ。

「み、美代子さん大丈夫かい?」

 慌てて駆け寄る緋色だが、その手は無残にも撥ね退けられてしまう。っていうか、わかれよ。刃物持って突進してくるような人間が助け起こしてもらおうなんて思っているはずもない。むしろ、近寄った瞬間に手痛い反撃が待っていたっておかしくないのだ。まあ、それがないと思ったから放置していたけど。

「なんで、こんな真似を・・・」

「ふざけないで!」

 緋色の言葉を美代子さんの怒声が遮って止める。そして、その殺気混じりの眼差しに緋色はひどく狼狽していた。無理もない。彼女は『助ける』つもりだったのだから。

「あんたよ! あんた達よ! あんた達が全員殺したんでしょ!」

「そ、そんな・・・ボク達は………」

「さっき怪我した人達の様子を見に行ったら、二人とも死んでいたわよ! そして、あのいけ好かない蒲原って女も殺されたんでしょ? だったら、残った人間が犯人じゃない!」

 あら、やはり死んでました? それは他殺ですか? それとも、怪我が原因による死亡ですか?

「とぼけないで!」

 いや、そんなつもりはないし、結構本気の質問なんで答えてくれると嬉しいんですけどね? それがダメならアナタを縛り上げて確認に行くだけなんですよ。

 無論、その間あなたは一人にします。何が起こるかわからない上に残された渚ちゃんを守ってくれる人はいなくなってしまいますね。さあ、どうします?

「優!」

 はいはい、正義の心得は後で聞くよ。それよりも俺の質問への答えは?

「・・・・・」

 最初は無言だった。しかし、彼女の脳内では様々な思惑と、渚ちゃんへの思いが組みかえられた上で形をなそうとしていた。そして、その迷いはほんの数秒だけのことだった。

「………殺されていたと……思うわ」

 その根拠は?

「全身が血塗れだったし、二人とも脈を取ったら止まってたの」

 手首は熟練者でもない限り計るのが難しいと聞きますけど?

「独身の時は看護師をしていたの、間違えないわ」

 ここまできて、ようやく美代子さんの表情が憎しみから困惑へと色を変えていく。どうやら、俺達イコール殺人犯という思いが薄れ始めたらしい。まあ、今更って感じもするけど。

「優さん、どういうことなんですか?」

 犯人がほぼ決まったということですよ犬子さん。

「は? 何言ってるの優君? 犯人なんてこの中の………」

 少なくとも俺達の中にはいませんよ。もっとも、アナタが真犯人なら話は別ですけどね?

「なんですって!」

 とはいえ、アナタじゃないこともまたわかっています。

「す、優どういうことなの? ボクにもわかるように言って欲しいんだけど?」

 説明してもいいけど、とりあえず場所変えないか? 渚ちゃんを一人にしとくのもあれだし。

「ダメよ!」

 とここで物分りの悪い事を言うのは美代子さんだ。まあ、それも仕方のないことではある。なんせ、彼女の中では俺達が犯人の可能性は捨て切れていないのだ。ましてや、この極限状況。疑心暗鬼に狩られるのも無理はない。

「そんなこといって、あんた達は私と渚を殺すつもりなんでしょ?! そんな事はさせないわ!」

「待って美代子さん! ボク達はっ!」

 緋色が彼女を止めようとするが、それよりも美代子さんが立ち上がって走り出す方が早い。ましてや、追いついて止めようとしたところで無駄に終わることは必死だ。

「す、優ぅ~~~」

 情けない声出すな。とりあえず彼女を追うぞ。

「しかし、それは逆効果ではありませんか?」

 そうですね犬子さん。だけど、今一番危険なのは彼女達なんですよ。こっちには緋色という人間兵器がいますが、渚ちゃんと美代子さんは一般人です。犯人ならどちらを狙いますか? 俺なら、少なくとも弱い方を狙いますね。

「だから、犯人は・・・」

 とにかくいくぞ。

 彼女らの疑問に答えないまま俺達は走り出す。当然犬子さんの手は緋色に引いてもらい、俺は先行。とはいえ怪我人な手前速度はあまり出ない。という小走り程度の速度だ。

 しかし、目的の場所は港一家の泊まっていた室内、つまりは蒲原さんの部屋を出てすぐだ。俺は扉の前により軽くノックした後声をかける。

 入りますよ美代子さん。

 扉を開けた瞬間何かをされてはたまらない。鍵はかかっていなかった。だからこそ、十分に警戒しながらノブを捻り、開けたドアの隙間から………誰もいない?

 ことを知る。

「どういうこと?」

 わからない。

 でも、扉の裏に隠れるのだって常套手段だ。

 だけど、それでも部屋に侵入した上で、そこには美代子さんも渚ちゃんの姿も見つからなかった。

 でも、荷物がなくなっている。

「美代子さん荷物なんて持ってなかったよ?」

 そうだな、刃物は持っていたけど、バックは持っていなかった。そして、昨日この部屋に入った時はヴィトンのショルダーバックはソファーの脇に置かれてた。つまりは、あらかじめ移動していたってことだろうね。

「ですが、それに何の意味が?」

 居場所が知られているから……とでも思ったんですかね? 鍵でもかけて居留守を装えばもう少し有効な手でしたけど鍵がない以上はどうしようもないですね。

「そんなことよりも、二人はどこに行ったの?」

 出口でも探しに行ったんじゃないか? でも、俺達が侵入してきた場所はガレキだらけで行き止まりなんだけどね。

「止まっていても意味はありませんし、とりあえず彼女達を探しましょう」

「そうだね!」

 もともと、との場所においても距離はそこまで離れていない。その分逃げ場がないという意味でもあるのだが、人を探す分には好都合だ。

 床に転がるガレキに躓きそうになりながら、薄暗いT字路を左に曲がって行き止まりまで走る。そして、その視界の中で一つの影が浮かび上がる。それは小柄なシルエット。その小さな姿が床に倒れ付していた。

「優っ!」

 わかってる。

 言われるまでもない。あれは渚ちゃんだ。

 そして、三人揃って駆け寄るなり、俺が渚ちゃんを抱き起こす。

 ・・・息はある。まぶたを閉じたまま上下する胸は穏やかなものだ。ちょっとアルコール臭いが単純に眠っているだけだろう。しかし、それがなぜこんなところで? という疑問が残るが、それは彼女が目を覚ましてから聞けばいいことだ。

 だが、問題はここに美代子さんがいないということ。彼女は渚ちゃんの元に戻ったのではないのか? 少なくとも一人で逃げるつもりはなかったはずだ。

「美代子さんはどこに行ったのかな?」

 逆に俺が聞きたいくらいだよ。

「しかし、彼女がどこかに逃げられるはずもありません。ましてや渚さんを置いていくはずがないのですから。つまりは、どこかの部屋に居るということですね」

 でも、基本的には死体しかない部屋ですからね。死体を移動させた形跡もないし、さすがに死体のある部屋に隠れたりはしないでしょう。俺だったら、少なくともそんな場所で寝泊りなんてしたくない。

「だとしたら、残っている場所はひとつです」

 言って犬子さんは来た道の向こうを見据える。その先にあるのは倉庫だ。備品を備蓄した倉庫。つまりは、立てこもるには最適な場所。

 確かにあそこなら食料も水もありますね。欠点はトイレとシャワーがないことくらいですか。

「でも、逆に言うなら、誰もがそこを拠点にしかねないとわかっているはずです。こういった極限状態では食料は勿論水の確保はとても重要です」

 そして、と付け加える。

「そして、犯人がそれをわからないはずがありません。なによりも、そこに隠されていたであろう渚さんがこんなところで眠っているなら、備品倉庫は危険です」

「そんなっ!」

 その瞬間のことだ。まるで決まりきったシナリオのように、甲高い女性の悲鳴が通路の向こうから響き渡った。

「そんな・・・」

 まだ間に合うかもしれない。緋色、渚ちゃんと犬子さんを頼むぞ。

 俺は抱き起こした渚ちゃんを緋色に手渡すなり、再びダッシュ。立て続けの疾走に膝が悲鳴を上げるが知った事ではない。後ろから聞こえる静止の声も無視したまま直線を駆け抜けていく。

 さてさて、どうしたものかな? 当初の予定とは打って変わって、誰が生き残れるかのバトルロイヤルちっくな状況になってきた。そして、これで俺の勘が正しいなら、俺の望むべく状況になってきたと言っても過言じゃない。

 だけど、それでも最善を勝ち得るかと聞かれれば、答えは否だ。俺個人の感想としてはまったく問題ないけれど、緋色にすれば大黒星みたいなものだろう。

 そんなことを考えている内に、俺は倉庫の入り口前に辿り着くが、その時点で全てが手遅れになっていることを瞬時に悟った。

 扉前の大気が歪んで陽炎になってる。

 つまり、この薄い金属製の扉の向こうは、火の海ということだ。俺はノブに触れるのを躊躇する。だってそうだろ? 碇のおっさんみたいに無口の美少女が待ってるわけじゃない。なおかつ……手遅れだ。

 だけど、その直後、その扉は内側から手を叩きつける衝撃に音を鳴らす。思わず驚きに息を呑むけど……やはり無理だ。開けられない。

「優!」

 くっ、緋色達に追いつかれたか。この状況はまずい。少なくとも緋色のヤツがいらん正義感を発揮しまくること確実だ。

 緋色! 来るな危険だ!

 その間も扉を打ち付ける音は止まらない。同時に渚ちゃんを犬子さんに預けるなりこちらに全力で駆け寄ってくる。

 くそ、黙って焼け死んどけばいいものを! と非道な思考を抱きつつ、俺は扉の向こうに声を飛ばす。

 蹴り破る。そこを離れろ!

 声が聞こえたかどうかはわからない。だけど、行動だけは変わらないのは事実だ。同時に、俺は体を旋回させて放つ後ろ回し蹴り。大して体は鍛えていないが、それでも空手を習った上で最大の威力を持つ蹴りは、大した強度を持たない金具を引きちぎって元の位置から吹っ飛ぶ。

 同時に蹴りを放った反動を利用して後ろに飛んだ瞬間、目の前を炎の舌が眼前を舐めるようにして燃え上がる。そのまま立っていたなら、間違いなく全身火傷を負っていただろう。

 それは同時に、この室内にいた人間が、これ以上の業火に全身を焼き尽くされていたということであり、結論だけでいうならば、

「優!」

 吹き付ける熱気に目を細めながら、緋色が俺の後ろに立つ。まったく、来るなって言っただろ?

「そんなことより、中の人は………」

 手遅れだよ。

「っ!」

 大して広くもなかった倉庫の中は、いまや炎のおかげで照らされ尽くしている。そして、それは同時に、その室内の中央でうずくまるようにして倒れる塊を炙り続けていた。

 さっきまでは生きていたのだろう。だけど、直接炎にあたっていた、黒ずんだスーツ姿の女性と思しき塊は、指一本とて動かしはしない。

 つまり、死んでいた。

「ま、まだ息があるかも・・・」

 そんな可能性があるとしたら、ここで殺された人は誰一人として死んでいないはずだよ。そして、これ以上ここにいるのは危険だ。一酸化炭素中毒が怖い。

「でも、あの人は!」

 美代子さんだろうね。服の特徴もあってる。だけど、それがどうした? 死人は何も語らないし望まない。なのにお前はここに残って渚ちゃんを危険に晒したいとでもいうのかよ? それならお前はヒーローじゃない。風車に突撃をかますだけのドンキホーテーだ。

 言いつつ、俺達に向かってたなびいてくる黒煙を手で遮りながら緋色へ促す。

 さあ、選ぶのは緋色だ。無意味な危険に身を晒し、皆の生存率を下げるか。それとも悲しい犠牲を乗り越えて皆で生き残るのか。

 勿論、緋色は俺の言っていることを理解している。だからこそ、一度だけ唇を噛んで、悔しさに体を震わし、俺の手を握ってきた。

「ごめん、ワンコちゃんたちのとこに戻ろう」

と言っても大した距離を離れたわけじゃない。倉庫に通じる曲がり角を曲がって続く直線に犬子さん達は、

「・・・・・え?」

 俺も同様に言葉を失ってしまう。なぜなら、俺と緋色が並んで向かう先には、

「誰もいない・・・?」

 薄暗くどこまでも続く直線。非常灯の明かりだけが唯一の光源だが、それでも、見えないことはないのだ。その上で俺も言う。

 犬子さんと渚ちゃんが消えた?

「ど、どういうこと優? 何で二人がいなくなって!」

 犬子さん自身が移動……はないな。嗅覚の利かない犬子さんが一人で移動するのは不可能だ。ましてや渚ちゃんを抱えたままって言うのは更に困難だろう。いや、彼女の目が見えないと言うハンデを含めれば困難なんていうレベルではない。

 ………まあ、彼女の言葉がすべて本当なら。と言う中略はつくが、これは言わないでおこう。

「でも、二人はいったいどこに?」

 攫われたんだろうな。

 さらっと出た俺の言葉に、緋色はぎょっとする。

 なんだよ、何驚いてるんだよ。言っただろ皆を殺した真犯人がいるって。

「で、でも、美代子さんはこうして焼け死んでしまったし、他に誰かがいたとでも言うの?」

 いや、最初から犯人は俺達の傍にいたよ。

「ま、まさか優が皆を?!」

 普通、そこを疑うなら犬子さんの方だろ? 緋色、お前はどこまで自分の恋人を猜疑してやがる。

「いや、だって優とワンコちゃん比べたら、間違いなく優の方が黒だよね?」

 いろいろと言いたいことはあるけど今回だけは無視するとして、とりあえず俺は犯人じゃない。

「じゃ、じゃあ、ワンコちゃんが皆を………」

 いや、犬子さんも犯人じゃない。倒れてバーベキューになりかけたのも自作自演? そうじゃない、あの時の彼女は確かに被害者だ。俺がそうだと断言できる。

「なんで?」

 今はそんなことどうでもいいんだよ。

「だけど、他に最初からいて犯人になりえる人なんて………」

 それがいるんだよ。この密室状態になった建物の中で犯人じゃないと断定できるのは瀬川さんと善治さんだけだ。そして、俺と緋色、犬子さんを除いた全員が容疑者だ。

「でもっ! 他の皆は殺されてしまって、ワンコちゃんと渚ちゃんもいなくなってしまって………」

 だから、今から犯人を教えてやるよ。そして、犬子さんと渚ちゃんを取り戻しに行くぞ。

「でも、二人がどこにいるかわかるの?」

 ああ、簡単な問題だよ。なんせ、結構前に俺たちが答え言ってたんだからな。

「え? ええ?」

 混乱しつつクルクルと表情を変える可愛らしい様子に煩悩ゲージを貯めつつ、後ろから彼女を抱き寄せた。途端にビクっと体を震わす緋色が暴れだす前に、俺は耳元で囁いた。

………だ。

「っ!」

 意味のわからない殺人を繰り返し、今や犬子さんと渚ちゃんを攫って、姿を消しているのはそれさ。だからこそ、俺達は理由がわからない誘拐をされた二人を助けなくちゃならないんだ。

「で、でも、本当に?」

 ああ、何なら相対した時に聞いてみればいい。あなたは一体誰ですか? ってね。

「だけど、攫われたってことは人質っていう事だよ? ボクは戦って取り戻せってことなら何とでもできるけど、人質を無視してなんてことはできないよ」

 ああ、だから、俺に策がある。それさえ実行できれば、二人は無事に帰って来るんだ。

「で、でも、それを失敗したら二人は……」

 殺されるだろうね。

「そんな!」

 でも、このまま放って置いても殺されるのは目に見えているんだよ。だったらどうする? 多少危険があったとしても挑戦するべきじゃないのか?

「それは・・・」

 緋色、正直俺は犬子さんも渚ちゃんも、等しくどちらもどうでもいい。例え、このまま二度と会えなくなっても後悔なんて欠片もしない。

「優……怒るよ?」

 だけど、お前は違うだろ? あの二人に何かあれば緋色は必ず後悔する。悲しむ。慟哭する。そんな姿を俺は見たくないんだよ。だから、一番確率の高い方法を示すんだ。

 お前はヒーローだ。だから、多少の危険を蹴散らして、問答無用で助け出せよ。そのための協力だったら俺は力を惜しまない。できるだろ緋色のヒーロー。

「うん!」

 力強く頷く緋色に俺は満足すると、抱きしめていた体を開放してやる。同時に振り返ってはにかむ緋色を見た時、俺は体内に宿る野獣が首をもたげかけたが……やめた。ここはシリアスでいくべきなのだ。緋色の中にあるクールな俺のイメージを崩す必要はない。

「クールっていうかグールだよね。すぐ抱きついて来ようとするし、耳とか甘噛みしてくるし」

 ほっとけ。

 それで、俺の思いついた策って奴だけど、これは大変な危険を伴う。

「それはワンコちゃんと渚ちゃんに対して?」

 いや、単純に物理的な危険であり、その対象者はお前だ、緋色。

「え?」

 頭の上に?マークを浮かべている緋色の疑問を黙殺しながら、俺は進むべき方向を見据えて薄く笑う。

 さて、反撃開始と行きますか。主に物理的な報復という意味でね。


「ゲームスタートだ」


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