楽園の女
私の一部を 切り取って
あなたに あげましょう と
その女は 言うのです
私の一部を 切り取って
差し上げましょう あなたに と
言うのです
あなた性器を入れるための穴が空いている あたたかい肉の塊
それだけでは ないのだと
食事を作り 掃除をし 励まし 時には叱り
かつ あなたは正しいと 壊れた人形のようにくりかえす
それだけのものでは ないのだと
女は 言うのです
女が言うには
女というのは いきもので
ぼくたちには わからないようなことを いろいろ
考えたりとか 感じたり するそうです
肉の塊のなかには こころというものを もっていて
そこには 秘密の楽園が あるのです と
美しい楽園でありながら 女はそこで
獰猛で醜いけだものを 慈しんでいるのだ とも
そしてその一隅に
ずっとぼくの 住む場所を こしらえていると いうのです
そこではぼくは かの日のままで
永遠の真実を暮らせるのだ そうです
何があっても時がたっても
そこには誰もはいれません
ぼくだけしかいない 世界
彼女のこころの 小さな楽園です
言うべき言葉もみつからず
ぼくにはわかりません と つぶやくことしかできないぼくに
一目散に逃げ出そうとする 僕に
わからなくとも よいのです と
そして
痛々しい微笑みを浮かべながら
切り取った自らの一部を 僕に
差し出すのです