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8、女子会の秘密

小京都と言われるその町は情緒豊かな街並みが残っていてとても素敵な場所だった。

今回は2泊3日の日程。


女子会旅行がテーマなので、まどかさんとライターの紺野亜矢子さんと3人が気ままに旅行をしている雰囲気で取材が進む。


写真を撮ってその場で簡単なイラストの構図を描いたり、美味しいものもたくさん食べることができた。

お店の人のお勧めのメニューが出てくる。店に飾ってある小さな置物の目が止まって「良いなぁ、これ」って感想を呟くと他の二人が賛成してくれて、どこかにカットを入れたいと盛り上がる。


振り返ってみると、私、修学旅行や移動教室にはほとんど参加したことが無かった。

大学時代に企画された旅行にも参加できたのはゼミ旅行の1回のみ。あとはいつも体調を崩して泣く泣く行くのを諦めることが数度。そのせいでだんだん誘われなくなった気がする。


裕也さんとは何度も旅行に行ったけど、女子会旅行は初体験だった。


だから行く前には無事に行けるのかという不安と、何度か打合せをしたと言ってもそんなに親しい人ではない人達との旅行にとても緊張していた。


でも杞憂だった。


旅の解放感なのか自分の感じたことを素直に口に出来ていた。


うん、本当に素直に。



「まどかさん、裕也さんのこと好きでしょう?」


夕飯の席で口に出た。お風呂の取材も料理の取材も終わり、後は本当の女子会になって私もいつも以上にアルコールを口にしていたみたい。

だから、ずっとわだかまっていたことを口にしてしまった。

まどかさんは一瞬とても驚いた顔をした。


「好きよ。はっきり言って私の方が似合っていると思うぐらい好きよ」


まどかさんにそう返されてプツンと何かが切れた。


「似合わない。裕也さんの隣は私のもの!」

「莉桜ちゃん、まだまだ子どもじゃない。ペットみたい」

「ペットじゃない!私は彼のパートナーよ。同級生だったからって入り込めないんだから」

「……やってみなければわからないじゃない」


場の空気がだんだん怪しくなってきた。

楽しい筈がなんでこんなこと口にしているのだろう私。


でも、止まらない。

綺麗な顔も抜群のスタイルもバリバリ仕事ができる能力も敵わない。


彼女が現れてから急に膨れ上がった不安。


これで良いんだと自分に言い聞かせていたことが崩れる気がして怖かった。


「若くて可愛いけど、それだけじゃない?裕也はもっと野心のある人と一緒の方が幸せになれると思っていたわ」

「でも私を選んだのよ」

「……その時、私はまだ再会していなかった」


ヒートアップしていく私たちの会話に亜矢子さんが入ってきた。


「まどか、あんたはまだ前の男を引きずっているじゃない」

「そんなわけないじゃ、、、」

「そんな訳だよ」


亜矢子さんとまどかさんは長い付き合いと聞いている。


「まどかの別れた旦那は、頼ってくれる人が良かったって言ったのよ。夫の力になろうと頑張っていたまどかに向かって」

「酷い」


私は思わずそう言った。


「そう酷いの。彼のフォローをしようとしたのにメンツを潰したって」


まどかさんの目から涙があふれる。もう離婚してから1年以上経つらしいけれど、傷は癒えていないんだ。


「嫌いになって憎めばいいじゃない。忘れて次の恋をする!」


亜矢子さんはパンパンとまどかさんの背中を叩いて言う。

慰めているのか怒っているのかわからず私は驚く。


タオルで顔を拭いまどかさんは

「もう恋はしない!私は仕事に生きるの!」

と言う。

さっき裕也さんが好きって言ったじゃないと私は思う。


「でも裕也さんが欲しいって言ったじゃない!」

「欲しいわよ。欲しいけど、欲しくない。あー早く子ども作ってよ」


聞きたくない言葉。

私のこと知らないで、何でそんなこと言うの!


子どもを産みたい。

でも産めない。


裕也さんは子どものことは何も言わない。

お義父さんもお義母さんも言わない。


言わないのは思わないことと同意語ではない。

幸せだと思っていたのに棘のように心にあるモノ。


涙があふれる。言葉の替わりにボロボロと流れ出る。


「……ごめん。私……」


微かに謝罪の言葉が耳に届く。

そして何故かまどかさんも号泣している。


「なんでまどかさんが泣くのよ!」


泣きながら私は抗議した。


「だって悲しいだもん。莉桜ちゃんの抱えてることわかっちゃったんだもん」


だもんって、とても大人の人に思えてたのに子どもみたい。


「ほらほら飲んだ飲んだ。飲んで抱えている気持ちを全部吐き出しちゃえ!」


亜矢子さんが自分のコップのビールを飲み干す。


「子どもを産めないってことは辛いことかもしれないけど、君には絵の才能がある!この亜矢子さんが保証する。長年フリーライターやってるんだからね。使えるかどうかの勘は良いのよ」


ニコッと笑うと今度は私の背中を叩く。


「私なんて子どもを産む産まない以前に男すらいないわよ」

「亜矢子は性格がおおざっぱ過ぎるんじゃない。一人で何でもやっちゃうし」


まどかさんはヒックヒックと泣きじゃくりながら指摘する。


「うるさい。繊細なこと求められても困るの私は」

「そんなこと言ってるから、もう何年も彼氏いないでしょ?」

「あーそれ言うんだ。私にその質問は禁句だよ。どーせモテないわよ。かれこれ……3年は……」

「サバを読むんじゃない!亜矢子の是枝君と別れた後、誰かと付き合ったの?」


亜矢子さんの目が泳ぐ。その様子が可笑しくて笑ってしまう。


「莉桜ちゃん、そこは笑うところじゃない!」


もうその後はよくわからない状態。

私と裕也さんの結婚前の週刊誌騒動の真相とかもしゃべらされ、まどかさんの元夫とのあれこれも聞き、亜矢子さんは武勇伝を語り、彼女の恋人になるのは大変だとまどかさんと納得して、本当に初めて記憶がないほど飲んでいつの間にか寝ていた。


翌日、3人とも酷い顔で目を覚まし、それでも何だかスッキリした気分で取材を続けた。


あんなに苦手と思っていたまどかさんだけど、本当は子どもっぽいところもあって可愛かった。

私を傷つけたと言っては何度も泣き、そのうち泣き上戸なんだと言う結論になって一緒に笑った。


事実は事実。変えられなけれど、感じ方は変えられる。

手に入れれないものを欲しがるより、手にしていることを慈しみたい。


旅の終わりの列車の中で3人でしみじみと話した。


初めての取材旅行は仕事の充実感と仲の良い友人を作ってくれた。

でも、裕也さんには内緒。秘密にするのが女子会の掟だと亜矢子さんに言われたから。



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