6、お疲れ様は甘い蜜
少し涼しい風が吹き出す頃にはバーベキューの片付けも終わる。
編集者の皆さんは仕事だけではなく、楽しくて知識も豊富で、こういう事にも手際が良くて感心してしまう。
幸平さん達とまどかさんは庭からリビングに移り、今度はミニ同窓会みたい。
卒業してから10年以上経っても仲が良いのは羨ましい。
葉奈ちゃんは疲れたようでソファーでぐっすり眠っている。
会うたびに成長しているのがわかり、子どもってすごいなって思う。
テーブルに簡単なおつまみを用意して、ソファの端に座った。
さっきのバーベキューでかなり飲んだと思うのに、みんなそれほど酔った風もなく飲み続けている。
私は缶入りのカクテルを1本飲んだだけで酔っ払ったようで、疲れていたこともあり、ぼんやりしてしまう。
「莉桜さんは良いわね。裕也は優しい旦那さんで」
突然、私に話が振られ、咄嗟に「はい」と答えてしまう。
皆の笑い声が聞こえ、まどかさんの言ったことを思い出す。
優しいのは本当だけど恥ずかしい。でも裕也さんはいつもの様に笑ってくれる。
私はその笑顔にホッとする。大人の彼に私の言動で迷惑をかけたくない。
「はい、なんて素直な答え。良いな」
幸平さんがそう言ってくれる。
沙耶さんは幸平さんをチラリと見て「素直じゃなくて悪かったわね」と釘を刺す。
「いやいや沙耶はそのままでいいんじゃない」
と、幸平さんはいつも穏やかに沙耶さんを肯定する。
沙耶さんもフフッと笑い、それでおしまい。
なんかとっても良い雰囲気。
「当てられちゃうな。私も早く次の恋を見つけなくちゃ。今度はもっと素直になれる人が良い」
まどかさんはそう言いながら視線を裕也さんに向けた。
私はその視線が嫌だと思う。
だってそれは好きな人に向けるものだと思うから。
モヤモヤした気持ちを持て余していると、葉奈ちゃんが目を覚まして、わ~んと泣き出した。
「おうち、おうち」
ああ、目を覚ましたら家じゃなくて不安になったんだ。
小学生だった私も病院で目覚めた時によく泣いた。
沙耶さんが優しく抱き上げ、幸平さんが「そろそろ帰るよ」と言う。
タクシーを呼ぶ間に、みんなでさっと片づけをしてくれる。
もちろん裕也さんも。
こういうところが好き。自然な優しさが心地いい。
私のものだからって、こっそりまどかさんに視線を向けた。
タクシーが来ると、まどかさんも「私も駅まで同乗させて」と一緒に帰って行った。
みんなを乗せたタクシーの赤いテールランプが坂の下に消えて行く。
楽しかったけれど、みんなを見送ると疲れたと感じる。
裕也さんが私をそっと抱き寄せて「ありがとう、お疲れ様」と言ってくれた。
「大丈夫だよ」
私はそう答える。だって本当に疲れた身体が軽くなった気がしたから。
裕也さんは私を頭をクシャクシャと撫でてくれる。
それが嬉しくて私も裕也さんにまとわりつく。
忙しかった一日だけど、私のことをちゃんと見ててくれるなら全然平気。
いつの間にか裕也さんが浴槽にお湯を張ってくれたので、ゆっくりお風呂に入った。
大好きな入浴剤まで入れてくれて、さっき庭で葉奈ちゃんと歌った歌が口ずさむ。
まどかさんに感じた嫌な感じなどすっかり忘れてしまう。
私が入浴を終えると、裕也さんが浴室に向かう。
「湯冷めしない様に髪は直ぐに乾かすんだよ」
と子どものような注意をされる。
「はーい」
私もいつもの様に答える。リビングのソファーに座ってドライヤーを使う。ショートカットだからあっという間に乾いてしまう。
裕也さんを待つ間、いつものようにリビングのソファで読み掛けの本を読むつもりだったけれど寝てしまったようだ。
身体を持ち上げられる感覚がして目が覚めた。
目を開けると裕也さんに見つめられている。
「ベットに連れてってやるよ」
裕也さんがそう言ってくれる。甘えてると思うけど私は嬉しくてギュッと抱きつく。
おでこにチュッとキスをしてもらい、気分はお姫様。
大好き。
年が離れているって言われたって、子どもっぽいって言われたって絶対に裕也さんの隣は私の場所。
いつもはしない私からのキスに裕也さんも答えてくれる。
そして優しい手に導かれ、二人の夜は更けていく。