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5、お肉が焼ける間に

10月になり、我が家の庭でバーベキューをすることになった。

昨年、自宅の披露を兼ねて出版社の関係者や友達を呼んで行ったのが好評で、今年もぜひやって欲しいと言われ続け、涼しくなってきてようやく重い腰をあげたのだ。

一番やって欲しいと言っていたのは、もちろん城島だ。

だから今日は城島が率先して手伝ってくれる。

もちろん強制的に手伝わせているわけではない。


テラスの脇で着々と用意が進み、城島はダッチオーブンを設置して何やらやっている。

男の料理を作るらしい。

その横で八尋さんが甲斐甲斐しく手伝っている。


良い雰囲気だ。


そう思っていると背中をトントンと叩かれた。

振り向くと莉桜が庭の二人を指差した。


「城島さんと八尋さんって付き合ってるのかな?」

「そうみたいだよ」

「とってもいい感じ」

「俺もそう思って見てたとこだ」


莉桜がニコッと笑うので、俺は彼女の頭をクシュっと撫でた。


「裕也さん、髪、くしゃくしゃになっちゃう」

「こうすれば大丈夫だ」


今度は手櫛で整えてやる。

ショートカットでサラサラした髪はそれだけで綺麗に整う。


微かにシャンプーの香りがする。

こういう瞬間、愛おしくて抱きしめたくなる。


「ゴホン!!!」


わざとらしい咳が聞こえた。

城島が怒って俺たちを指差「イチャイチャ禁止!」と、わめいている。


莉桜がパッと俺から離れた。


八尋さんや他の手伝いの奴らが笑う。

笑いたければ笑えばいい。


でも俺が巻き込まれた騒動を支えてくれたのはここにいる奴らで、今更、取り繕った姿など見せられない。


皆に言わせると莉桜と知り合ってから俺は随分変わったらしい。

それまではどこか人と距離を置き、あるところからは決して近づけないオーラを出していたようだ。


照れた莉桜は飲み物を用意してくると家の中に入って行った。

見送る俺の後にまどかがやってきた。


「裕也は莉桜さんのこと、可愛くて仕方がないのね。夫婦というより親子みたい」


俺にだけ聞こえるようなまどかの言葉に少し気分が悪くなる。


「そんなに歳の差はないよ」

「そうかな、12歳下なんて私には考えられない。まだ子どもみたい」

「莉桜は見た目は若いがしっかりしてる」


莉桜の姿を目で追いつつ答えた。

門のところから子供の声が聞こえる。


幸平と沙耶たちが来たようだ。

庭に駆け込んできたのは一人娘の葉奈はなだ。


「莉桜たん、こんにちは」


そう言いながら莉桜を探している。この小さな娘は莉桜が大好きだ。

とにかく我が家に来ると莉桜から離れない。


「いらっしゃい。莉桜はキッチンにいるよ」

「わかった。ゆーやおじちゃんもこんにちは」


ついでのように俺に挨拶をし家の中に駆け込んで行く。


苦笑いしていると葉奈の両親である友人夫婦が手を振りながらやって来た。


「俺達まで呼んでくれてありがとう」

「これ差し入れ」


沙耶からワインを受け取る。


「ありがとう」

「この間、飲んだら美味しかったのよ」

「沙耶は飲む気満々だから気をつけろよ」

「失礼ね。わたし、そんなに飲まないじゃない」

「いつもながら仲が良いね」


俺がそう言うと二人同時に否定する。まるで双子のような同調整。

俺は可笑しくて大笑いした。二人も自覚があるようで笑っている。


まどかを呼び、幸平達と再会させた。同じクラスだったから懐かしい雰囲気が甦った。


家の中から莉桜と葉奈が話しながら出てくる。

「葉奈ちゃんはなに飲む?」

「うんとねえ、りんごじゅーちゅ」

「了解」

「莉桜たんは、なに飲むの?」

「ビール」

「パパと一緒だ。パパはねいつもビール飲むよ。でもね、たくさん飲むとママが怒るの」


葉奈の話に再び大人たちは大笑い。


その日、葉奈は大人に混じって飽きることなく楽しんでいた。

莉桜はそんな葉奈を子供扱いせずに話している。

何でもやりたがる年頃の葉奈に笑顔で付き合っているのを沙耶が感心していた。


「莉桜ちゃんにコツを聞きたい気分よ。幸平がいなかったら私はとても子育てできないわ」


そんなことを言う沙耶にまどかが羨ましがる。

同級生同士の気の置けない間柄だからなのか、まどかが話し出す。

「沙耶と幸平の関係が羨ましい。私、元夫には弱さなんて見せれなかった」


始めて聞く結婚していた頃の話。

エリート商社マンと結婚し、夫の海外赴任に同行したそうだ。

両親からも周囲からも輝かしい将来を期待され、自分自身もそういう未来になると信じていた。

でも、その赴任先で問題が起きた。

帰国子女のまどかの方が英語力があったらしい。

彼女自身も結婚するまで貿易会社で仕事をしていたのでビジネス英語も使えて、発音はネイティブに近かった。


赴任先で顧客のパーティに夫婦で招かれ、行く先々で「奥さんの英語はとても良いね」と言われたそうだ。

それがエリートを自認する夫のプライドを深く傷付け、DVに繋がって行った。


そして日本に一時帰国した際に警察沙汰になる程の暴行を受けてしまう。

でも実家に逃げ帰ったら今度は両親から恥晒しと追い出されたらしい。


沙耶がそっと寄り添う。いつもの自信が溢れた姿ではない。


すれ違って行く夫婦をなんとかしようと足掻き、暴力に怯え、頑張り屋の分だけ辛かったのだろう。


賑やかなバーベキューの中で語られた壊れた夫婦の話は

「ごめん、高校時代のノリで変な話しちゃったね。でも話したらスッキリしたわ。聞いてくれてありがとう」

と言うまどかの言葉で終わった。


葉奈に呼ばれて沙耶が立ち上がり、タイミング良く城島から肉が焼けたと声がかかる。


「さあ、たくさん食べるぞ!」


幸平がわざと明るい声で言い、まどかをみんなの所に連れて行った。










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