3、青空なのにブルー
今日は朝から天気が良い。
締め切りの迫ったお仕事もない。
まだまだ気温は高いけれど、夕方になると心地よい風が吹くようになった。
体調を崩して何日かウダウダしていたので気分を変えようと朝から張り切ってお洗濯をした。
シーツを洗いお日様の下に干す。乾燥機もあるけれど、やっぱり日光に当てたくなる。
冬になればお布団も干す。今は暑くて外に干してしまうと夜になっても熱気が取れなくて辛いから、夏は布団乾燥機を利用してる。
親友の早智子からは「花粉症だから外に干すなんて考えられない」ってよく言われた。
あ、だからゲストルームの物は外には干さない。
よく泊まっていく城島さんに花粉症かどうか訊ねたら、裕也さんに「そんな奴に気を使わなくていい」なんて言われてしまった。
いろんな編集者の方が来るけど城島さんが一番面白い。歳上の人に言うのもなんだけど憎めない人だ。
一昨日の夕方も稀少なお酒を手土産にしてやってきた。
お酒を持って来る時は裕也さんとゆっくり飲んで我が家に泊まって行くのが常だ。
洗濯を終えると家中の掃除をする。
裕也さんが家にいるなら「一度に頑張り過ぎるな」と叱られるところだ。
でも今日は知り合いの作家さんのパーティーが都内であるからとさっき出かけて行った。
「一緒に行こう」
と、言われたけど首を振った。
知らない人が大勢いる場所は苦手。
裕也さんに関することなら頑張れるけど他のことはごめんなさいと逃げている。
私の気持ちを汲んでくれて裕也さんも無理は言わない。
それでも担当編集者さんや仲の良い作家さんなど少しづつ面識のある人が増えて来ている。
今日パーティを開く人も何度か会っているから行っても良かったのかもしれないのに、何故だか行くと返事出来なかった。
歳の差がある私たち。
世間の人はどう見ているのだろう?
奥さんらしいこと出来ているのかな・・・
裕也さんの仕事部屋に入り掃除機を掛ける。ルンバもいるけれど達成感が全然違う。
でもルンバが動いているのを見ているのは好き。
ずっと見てる私を裕也さんが笑う。
「勝手に掃除するんだから、ずっと見ている必要ないんじゃないか?」
「だって頑張ってるのが可愛いんだもん」
ルンバの様子を思い浮かべてにやけてしまう。
椅子を動かし大きな机の下を掃除している時に机の上に置いてある雑誌に目が止まる。
出版社から送って来たもので、まだ読んでいないと思いつつページをめくる。
その雑誌に載っていたのは小説ではなくエッセイだった。
『著名人10人に聞いた結婚と恋愛の違い』すごいタイトル。さすが女性誌だと感心して裏表紙を見ると江戸川出版社となっていた。
加納まどかさんの顔を思い出す。
この仕事だったんだ。
いつもは掲載されたり出版されたものは私に見せてくれるのに、何でこれは教えてくれなかったの?
さっきまで晴々した気分が一気に沈む。
青空の青ではなくブルー。
二人の間で何かあったなんて思っていないけど、だけど気になってしまう。
私の夫を「裕也」と名前で呼ぶ女性。
隠されたこと。
話してくれなかったこと。
私が訊かなかったこと。
私はあんまりウジウジ悩まない方だと思っていた。
でも自信がなくなる。
なぜ彼女のことがこんなにも気になるのだろう。
美人で仕事も出来て、裕也さんの横に居ても違和感のない人。
自分の自信がない部分を刺激されている。
私は自分を保つだけで精一杯で、自立しているなんて言えない状態だと思う。
結婚するまではパパやおばあちゃん達が守ってくれていた。
今は裕也さんに守られている。
それが嫌な分けれでも居心地が悪いわけでもないけれど、甘えて楽してると思われているのが嫌なんだ。
私はペットじゃないもの。
裕也さんの横に並べている?
この気持ちが私の不安の正体かもしれない。