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2、偶然の再会

夏の暑さに弱い莉桜が熱を出した。

微熱だから食事を食べさせて常備薬を飲ませて様子を見ることにする。


「美味しい」と笑顔を見せてくれるのが嬉しい。

ちょっとからかって「愛情がこもっているからな」と言うと照れている。


莉桜のこの顔が好きだ。

柄にもないセリフを口にするのは恥ずかしいが、二人だけの時なら平気だ。

こんなに可愛い表情を見せてくれるのだから。




夕食後、身体だるいようでいつもより甘えてくる様子が愛しい。


出会った時の莉桜は20歳だったから、もう4年も前になる。

24歳になり自分の好きなことを仕事にして頑張っている。俺のコネだからと謙遜するけれど、実際は莉桜のイラストが評価されているのだ。


春先に出会い、隣人だったはずがいつの間にか深く愛していた。


二人で一緒に生きると決めたのは出会ってから1年後。そして彼女の卒業を待って結婚した。

マンションの隣同士だったから同棲しているようなものだったけれど、西田莉桜の名前で大学を卒業して欲しいという義父の願いを踏みにじることは出来なかった。


ささやかな結婚式をして、高台のこの家に暮らしはじめたのは1年ちょっと前の春のこと。

都会の喧騒から少し離れたこの地は気持ちを穏やかにさせてくれるようだ。


編編集者の城島などはここへ引越す前は「隠居生活見たいじゃないですか」と、さんざん文句言っていたのに、今ではいろいろ理由をつけてはゲストルームに泊まっていく。


「ここは静かでいいところですね。おかげで熟睡出来ました」

などと、莉桜が用意した朝食をかき込みながらずうずうしく言っている。


編集者といえば、今日エッセイを渡した江戸川出版の担当者ことだ。


昨日電話で、担当者が急病で緊急入院してしまい復帰の目処が立たず、今回の仕事を担当することになったと言われた。

その声が何処かで聞いたことのあるように思えたのは高校の時の同級生だったからだ。


結婚したらしく苗字が変わっていてピンとこなかったのか、いや、会っても暫くは気がつかなかった。


昼過ぎに現れた女性はキャリアウーマンらしい感じで垢抜けた美人だった。

莉桜は苦手らしくお茶を出すとそそくさとアトリエに引きこもってしまう。



打合せ室で書き上げてあった原稿を渡し担当者だった奴の容態を聞く。

巨漢の男は糖尿病を悪化させて入院になったそうだ。


話していて思い出す。


「ひょっとして、大倉?」


高校時代のクラスメイトの名前を呼ぶ。


「やっと思い出してくれた?」


それまでのビジネス口調が変わる。


「ショックだな。直ぐ気がつくかと思ってたのに」

「教えてくれればいいのに」

「忘れられてたら嫌だもの」

「思い出すのが遅くなっただけで忘れていたわけじゃないよ。高校の頃の印象とあんまりにも違うからわからなかった。あの頃は眼鏡だっただろ?」

「そう言えばそうね。それにもっとぽっちゃりしてたかもね」

「制服姿しか知らないし、化粧もして無かっただろ。でも話し方で思い出した。大倉ってクラス委員だっただろ?」

「そうだよ。良く覚えているね」

「教壇のとこでクラスの話し合いし切ってただろ、あの姿を思い出した」


まどかは苦笑している。結構、強引に話しをまとめていた記憶が甦ったらしい。融通の利かない頑固なところがあったと思い出す。


しばらく二人で昔話に花を咲かせた。


それからもう一度仕事の話をし、次の予定があるからとまどかは帰ることになる。

玄関まで見送り軽く挨拶を交わした。


莉桜も見送りに出てきてくれる。

莉桜に気付いたまどかが「奥様お邪魔しました」なんて澄まして声を掛けている。

急にビジネスモードなんだとちょっと可笑しかった。


莉桜は相変わらずぎこちない様子だったけれど、人見知りで初めての人の前ではよくあることで、その後直ぐにアトリエに籠ってしまったことも気にならなかった。


このことは後から女心に疎いと思い知らされることになる。











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