15、ママ始まる。
あすかとの1日はミルクを飲ませ、オムツを替え、寝かせることが3時間おきにやってくる。それは昼も夜もない。
少し早く産まれたあすかは体も小さく新生児用のオムツでも少し大きいようで、ちょっとずれると肌着からシーツまで濡れてしまう。
その度に裕也さんと大騒ぎして着替えさせシーツを替えるて、ちょっとウトウトすると次の授乳時間になる。
授乳も当然のことながら母乳を与えることはできないからミルクを作る。これを飲ますのが、また大変。
1回の目安の量ってのがあっても飲みきらない。半分くらい飲んで飲むのを止めて寝てしまうのをホッペをつついたり、哺乳瓶を動かしたり、でもなかなか上手くいかない。
お腹が空いたら沢山飲むのかと思って、泣くまで待っていると4時間以上寝てしまったり、、、
育児書にも答えなんて出てなくてアタフタ、オロオロ。
お義母さんもお義父さんも来てくれて、ミルクを飲ませてくれた。
「お父さんがミルクを飲ませるなんて、、、自分の子供には何もやらなかったのにね」
と義母が笑いながら言っている。
愛おしい。
この子のためなら何でも出来る。本当にそう思う。
裕也さんも同じ思いだと思う。あすかの沐浴は自分の仕事と譲らない。
仕事も不思議とはかどるみたい。
煮詰まるとあすかのベットの横で顔を見ながらウトウトしてて、そこでアイデアが浮かんだりするんだって。
親孝行な娘だね。
毎日、一生懸命にあすかを育てた。なんで泣くのか分からず途方に暮れることもあるけれど、愛しくて頑張れる。
ミルクを飲む量が少ないかあら心配している私に大きくなっているから大丈夫と言ってくれる。
裕也さんも裕也さんの家族もみんな見守ってくれる。
そんな私が子育ては自分育てだと実感したのはあすかが4カ月になった頃のこと。
寝不足になるのは覚悟してたけど、私は過労から熱を出した。
普通のママは出産という体の変化を体験して、育児も頑張って乗り切っているのに、私は本当に情けない。
ベットから起き上がれなくて、それが悔しくて泣くという母親らしからぬ失態。
泣きながらウトウトと寝てしまう。
枕元で小さな話声が聞こえ目が覚める。
「ママは疲れちゃったから、今日はパパとゆっくり過ごそうな。あすかの為にママは頑張り過ぎっちゃったみたいだからね」
裕也さんがあすかを抱いて私のベットの端に座る。片手であすかを抱き、片手で私の頭を撫でてくれた。
優しくて大きくて暖かい大好きな裕也さんの手。
目をつむっているのに、涙がこぼれてしまう。私が寝たふりをしているのを気が付いているのに、裕也さんは何も言わず涙をすくって、そっと額に口づけしてくれた。
「あすかのママはパパの大事な奥さんだからね。偶にはうんと甘やかしてあげないと。今日はママの大好きなものを作ろう。もう少し寝て目が覚めたら、きっと元気になれるから、心配しないでたっぷり寝てろ」
裕也さんの言葉が嬉しくて、やっぱり泣いてしまう。
ポンポンと頭を触り、裕也さんは部屋から出て行った。
私のことを見ててくれた。
情けないってさっきまで泣いていたのに、今度は幸せで涙が出てる。
母親にならなくてはと頑張り過ぎてた。
あすかはちゃんと大きくなっている。
裕也さんの大きな愛が私をこんなに幸せにしてくれるのだから、私も大きな愛であすかを包んであげる。
ああ、そうだ。それだけは出来る。
そして、ちょっとだけ力を抜こうと思いながらいつの間にか眠ってしまった。
翌日、熱も下がり、あんなに落ち込んでいた気分もすっかりどこかに行ってしまった。
そしてご褒美のように、あすかが初めて寝返りをした。
何日か前から横向きまではしていたけれど、コロンとうつぶせになった。
「すごい!あすか、すごい!」
リビングのプレイマット上で、あすかは自分で寝返りしたのに思うように動けなくなって、グスグス泣き出した。
慌てて抱き上げて頬ずりする。
私のはしゃいだ声が聞こえたのか裕也さんが仕事部屋から出てきた。
「今ね、あすかが寝返りしたんだよ」
って報告したら、裕也さんは、もう一度やってとお願いしてる。
プレイマットの上に寝かせると、あすかも体をひねって寝返りをしそうだけど今度はうまくいかなくて戻ってしまう。
裕也さんはどうしても寝返りを見たいらしく、おもちゃで誘ったりしばらく頑張っていたけど今日はもうしないかな。疲れて眠くなったようで指をしゃぶり始めたので、裕也さんは残念そうに仕事部屋に戻っていった。
私はあすかを抱っこして、ゆっくり体をゆらし、優しく優しく眠りに誘う。
眠ったあすかをそっとベビーベットに寝かせた。
寝顔を見つめているこの時間が好き。本当は寝ている間に家事をしなくちゃと思うけど、あすかの傍から離れれない。しばらく至福の時間を楽しんだ。
子どもが成長していくのって本当にすごい。
私が何かしてあげるのではなく、子ども自身の中に成長する力があるんだ。
親って、それを一番近くで感じれる存在なんだ。
あすかを私のもとに届けてくれたまどかさんには感謝しかない。
でも、まどかさんの病状はなかなか思わしくないようで、あすかの様子を知らせるメールにも返信が家族の方のことが増えてきた。
あすかがまどかさんに生きる希望を与えられますように。
すごく久しぶりの更新です。次回はもう少し早い予定。