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14、新しい命

生まれたのは女の子だった。


まどかさんに似てる美人さん。少し小さめで黄疸も強いからと特別な保育器に入れられている。

でも先生からは大丈夫だと言われた。


出産から二日後、まどかさんは転院する。その前に新生児室で赤ちゃんを特別に抱かせてもらうことが出来た。

小さな赤ちゃんをまどかさんは愛おしそうに抱き、じっと顔を見つめ、そっと頬に口づけをした。

それから私の方を向き、とびっきりの笑顔を見せてくれた。


「私の決意は間違ってない。この子を幸せにするために、私はこの子を莉桜ちゃんに託します」


そう言って、赤ちゃんを私の腕に渡してくれた。

小さな小さな命の重さに私は涙があふれる。


私の娘。


今、私の腕の中に産まれてきてくれた。


「私がお母さんだよ。よろしくね」


そっとつぶやき看護師さんに預ける。ぐっすり眠る小さな命。

貴女を産んでくれたまどかさんは、これから自分の命のために闘う。


「絶対、負けないって信じているから」と、まどかさんに言うと負けないわよと返された。


転院にはまどかさんのお母さんが付き添ってくれることになっている。

赤ちゃんもそっと見に来て涙していた。まどかさんとお母さんのすれ違った気持ちが少し近づいたのかな?

この子が二人を近づけてくれたのなら嬉しい。


病院の玄関まで二人を見送る。

裕也さんに支えられていないと私の方が泣き崩れそう。


治療が上手く行きますように、そう祈るしかできない。


「ママが泣いてたら駄目だよ。私は大丈夫。だから莉桜ちゃんも頑張って」


車に乗り込んで最後まで笑顔でいてくれた。

本当は心の中でいっぱい泣いているのを知っている。

あんなに可愛い赤ちゃんを手放すなんて、どれほど苦しく辛いことか。

まどかさんの大きな愛が赤ちゃんと私たちを包んでくれている。


まどかさんを見送って、裕也さんと二人で新生児室に向かう。

保育器の中の中で眠っている小さな女の子。


「名前、どうしようか?」


まどかさんに決めてもらおうと思ったら、あなたたちでプレゼントしてあげてと言われた。

生まれるのはもう少し先だと思っていたから、なんとなく考えていただけだった。

でも、ずっと頭の中で響く名前がある。


「やっぱり私、あすかがいい」


まどかさんが産んでくれたから、まどかさんの名前から一文字もらいたいと二人で決めていた。

裕也さんは手帳を取り出して何か書いている。


中野 明日香

中野 亜寿香

中野 飛鳥

中野 あすか


「やっぱりひらがなが良いな。莉桜はどう?」


あすか、あすか、あすか。


うん、この名前だ。


「中野 あすか。うん、良い」


一度この名前と思ったら他の名前が急にしっくり来なくなる。


私たち夫婦の戸籍に入るにはまだ少しかかるらしいけれど、その手続きは沙耶さんが引き受けてくれている。


でも、この子は『あすか』。


次の日、病院に行くと「中野あすかちゃん」と名前が書かれていた。

保育器に入っているあすかと記念写真。


夜、自宅に帰り、締め切りが迫っていて来られなかった裕也さんに写真を見せると、自分の携帯に写真を転送してくれとお願いされた。


私は毎日、病院に通った。35週を過ぎていたのと、体重もそれなりにあったので保育器からは1週間ほどで出ることが出来た。


一般のベビーベットにあすかが移動すると、看護師さんや助産師さんから沐浴の練習、ミルクの作り方、おむつの替え方などを教わった。両親学級で人形で練習したのとはまるで違う。

ちっちゃな手が私の指をつかみ、哺乳瓶から一生懸命ミルクを飲む姿が愛おしい。

授乳室で他のお母さんと一緒になる。皆さんパジャマ姿の中で一人浮いている気がするけれど、ここでひるんでいてはと思い、一緒に過ごす。


他の方は当たり前だけど母乳を飲ませている。私は哺乳瓶を使うしかない。ちょっぴり寂しいなんて贅沢な思い。いろいろ聞かれたら隠さず話す覚悟をしていたのに、早産で産まれて保育器から出たばかりという情報が流れているのか、「大丈夫、すぐにみんなに追いつくわ」と言われる。


少し早く生まれたからなのかあすかはミルクを飲みながら眠ってしまう。

ほっぺをツンツンつついてもなかなか起きない。まだ半分くらいしか飲んでいないのに、、、起きて。


「あらあら寝ちゃいそうね。ちょっと代わりましょう」


ベテランの助産師さんがあすかを抱き上げて私の隣に座る。


「哺乳瓶をじっと持っていても駄目なのよ。ほんの少し動かしてあげると、ほら飲み始めるでしょ?」


あんなに減らなかったミルクが減っていき、ほとんど全部飲みきってしまう。


「さぁ今度はゲップをさせてね」


再びあすかが私の腕の中に。

首が座っていない赤ちゃんを縦抱きにして背中をトントンと軽くたたいてあげるだけなのに、怖い。


助産師さんが笑顔で見ていてくれる。


「いい感じ。ほら、ゲップした」


母親らしいことが初めて出来た気がする。



そして生後14日目。

あすかが我が家に来る。


朝から裕也さんと二人で迎えに行く。

車の座席には専用のベットを設置している。


新生児室へ向かうとお義父さんとお義母さんとお義姉さんまでいて、あすかを真ん中に記念撮影中だった。


「早いな。もっとゆっくり迎えに来ればいいものを」


つぶやくようにお義父さんが言ったのが可笑しくて笑ってしまう。

せっかくだからと、私と裕也さんも交じって写真を撮ってもらった。


世間が何と言おうと貴女は祝福されて生まれてきたんだよ。

その証。みんな笑顔。


看護師さんたちに見送られ、私たちは帰途についた。


途中で泣きだしてもいいようにミルクの用意もおむつもある。

でも車の振動が気持ちがいいのかぐっすり眠ってくれた。


自宅の前でお隣の方と会う。


「あら、その子、、、」


この間事情を話していたので直ぐに分かったくれたみたい。


「はい、うちの娘です。あすかって言います」

「可愛いわね。赤ちゃんの匂いだわ。本当に可愛いこと。いっぱい泣いていいからね」


もうすでに成人したお子さんがいらっしゃるから「孫のようで嬉しいわ」と笑顔で話しかけてくれた。


ここが貴女の育つ場所、さあ3人での生活だね。

私、ママになったよ。











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